町ぐるみの協力で,剖検率・検診受診率ともに約8割

久山町景観

福岡から車でわずか30分の距離ながら,今ものどかな田園風景が広がる久山町

場所 福岡県糟屋郡久山町
(人口 8075人: 2007年1月1日現在)
久山町地図
開始年 1961年
対象 40歳以上の男女
登録数 第1集団1621人(1961年~),第2集団2038人(1974年~),第3集団2637人(1988年~),第4集団3500人(2002年~)。
検査項目 アンケート調査,食事調査,身体測定(身長,体重,皮下脂肪厚,握力),尿検査(pH,蛋白,糖,潜血,ケトン体,ウロビリノーゲン),血圧測定(坐位,臥位),血液検査(肝機能等31項目),貧血検査,糖負荷試験,心電図,眼底検査,問診

 久山町は福岡市の東に隣接する小さな町で,人口は約8000人,面積は37.43km2。いまも町の3分の2は山林原野という自然豊かな環境にある。

久山町の住民は全国平均とほぼ同じ年齢・職業分布を持っており,偏りの少ない平均的な日本人集団である。

 研究の発端は,日本の死亡統計の信憑性に疑問が投げかけられたことにある。
 当時,脳卒中はわが国の死因の第1位を占めていた。なかでも,脳出血による死亡率が脳梗塞の12.4倍と,欧米に比べて著しく高い統計結果が出ており,欧米の研究者からは「誤診ではないか」との声も上がった。しかし,それを検証するための科学的なデータがない。そこで日本人の脳卒中の実態解明を目的として始まったのが久山町研究だった。

 1961年から追跡を開始した第1集団(剖検率80%)のデータでは,脳出血による死亡率は脳梗塞のわずか1.1倍。死亡診断書に病型診断の誤りが数多く含まれていたであろうことを,剖検という科学的な手法で証明した。

健康の碑
剖検協力者の名簿が納められた健康の碑


 久山町研究の最大の特徴は,この剖検率の高さにある。正確な死因を知るという点において,剖検以上に正確な診断方法はない。
 追跡調査の精度も高い。行方不明となったのはこれまで5例に過ぎず,追跡率は99%以上。
 また,久山町研究では 40歳以上の住民を5年ごとに集団に新しく加えているため,生活習慣の移り変わりの影響や,危険因子の変遷をもうかがい知ることができる。最近では,遺伝子解析によるゲノム疫学にもテーマが広がってきた。

ヘルスC&Cセンターの写真
健診が行われるヘルスC&Cセンター


 病気も時代とともに変化する。
たとえば,最近の脳卒中にはどういう病型が多いか,日本人の場合は何が危険因子で,時代とともにどう変化してきているのか。話題のメタボリック・シンドロームを持つ人はどのくらいの数にのぼるか。あるいは,世界の診断基準やガイドラインは,日本人にもあてはまるのか。
 こうした基本的なことを検討するときに,海外からの引用ではなく,日本人における正確なデータを提供してくれる疫学の代表が久山町研究なのである。


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