循環器健診を受診した地域住民 | |
1963年(秋田,大阪),1969年(高知),1981年(茨城) | |
日本の農村部・都市部の5地域のコホート。 秋田県南秋田郡井川町 秋田県本荘市(現・由利本荘市)石沢地区 茨城県協和町(現・筑西市協和地区) 大阪府八尾市南高安地区 高知県野市町(現・香南市野市地区) |
|
心電図,心エコー,心拍数,頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT),身長,体重,腹囲,血圧,総コレステロール,LDL-C,HDL-C,トリグリセリド,血中脂肪酸,血小板凝集能,上下肢血圧比(ABI),血糖,喫煙,職業,勤務状況,飲酒,服薬状況,フィブリノーゲン,ホモシステイン,高感度CRP,食事(24時間思い出し法),自己評価式抑うつ性尺度スコア,睡眠時の酸素飽和度など。 調査項目は,調査年代により異なる。 脳卒中,冠動脈疾患,急性死の発症登録も並行して進められている。 |
|
「地域における循環器疾患の疫学研究と予防対策の発展―秋田・大阪における40年の歩み」 嶋本喬・飯田稔・小町喜男,財団法人日本公衆衛生協会(2007). 「循環器疾患コホート研究の手引き」 140-147,メジカルビュー(2004). 大阪がん循環器病予防センター「CIRCS研究について」: http://www.osaka-ganjun.jp/effort/cvd/r-and-d/circs/ 筑波大学社会健康医学研究室 「協和町 脳卒中半減対策のあゆみ」: http://www.md.tsukuba.ac.jp/community-med/ publicmd/public_health_medicine/kyowa.html 大阪大学医学系研究科公衆衛生学教室: http://www.pbhel.med.osaka-u.ac.jp/home.htm CARDIAC PRACTICE. 2007; 18(2): 129-33. CARDIAC PRACTICE. 2007; 18(2): 141-47. |
*石沢コホートは1989年末に,野市コホートは2006年末に追跡完了となった。
研究が開始されたのは1963年。当時,脳卒中は日本人の死因の第1位を占める「国民病」で,欧米と比べても脳卒中死亡率は圧倒的に高かった。とくに秋田県は全国でもっとも脳卒中死亡率が高く,働きざかりの壮年期に重篤な発作を起こすという深刻なケースが多発していたことから,発症状況の調査と原因の究明が急務となっていた。そのような状況のなか,当時の秋田県井川村の村長と五城目保健所長が,大阪府立成人病センターの小町喜男氏と秋田県衛生科学研究所の児島三郎氏に,多発する脳卒中の原因究明とその予防対策を依頼したことをきっかけに,脳卒中の比較的少ない大阪と脳卒中の多発していた秋田を比較する疫学研究,ならびに循環器疾患予防対策が開始された。
都市部と農村部では生活習慣が大きく異なる。循環器健診の結果から,農村部(秋田)では都市部(大阪)よりも米や食塩の摂取量が多いこと,その一方で動物性食品の摂取が少なく総コレステロール値が低いこと,そして農作業での重労働により肥満が少ないことなどがわかった。そして,肥満ではなく,痩せている人や血清総コレステロールの値が低い人に脳出血が多いことも明らかとなった。このことは,欧米での肥満対策,高コレステロール対策とはまったく異なる対策の必要性を示すものであった。こうした実態をふまえ,高血圧の予防・管理を主体とした組織的な対策が行われたことで,1970年代には両地域で脳卒中の発症率が低下した。井川町は,国の脳卒中予防対策事業のモデル地区,およびWHOの脳卒中登録事業の日本における指定地区にも選ばれるなど,非常に高い評価を受けている。
その後,やはり脳卒中死亡率の高い地域として知られていた高知県の野市町(1969年)および協和町(1981年)も研究に参加し,脳卒中予防対策を開始。協和では,減塩を中心とした高血圧予防活動,健康まつりや健康教室などのアプローチを行い,国民健康保険医療費や介護保険料の抑制につなげた。現在は,井川,八尾,協和の3コホートにおいて,循環器疾患の発症・死亡の調査が引き続き行われるとともに,新しいマーカーや遺伝子についても,随時導入や検討が進められている。
研究が開始された1960年代,心電図,眼底検査,血液生化学検査はあくまで精密検査であり,大きな病院でしか行われていなかった。しかし,CIRCSでは当時の最新の臨床検査技術を一般住民の健診にとりいれ,得られた所見をどのように評価するかという診断・管理基準の設定にも一から着手した。
これらの真摯な取り組みが,わが国における今日の健診や保健事業に生かされているのである。
インタビュー
八尾市健診50周年記念式典
健診レポート
主な文献一覧
・2021.12.09
[2021年文献] 体重過多の有無にかかわらず,高血圧または糖尿病は心血管疾患発症のリスク因子となる
・2021.9.01
[2021年文献] 塩味を感じとる力は血圧値と負の関連を示す
・2020.11.09
[2020年文献] 頚動脈内膜-中膜壁厚高値は脳卒中発症リスクと有意な正の関連を示す
・2020.10.01
[2020年文献] 日本人では血漿中のNT-proBNP濃度が中程度であっても全脳卒中・虚血性脳卒中発症リスクが高くなる
・2020.6.01
[2020年文献] 笑う頻度が少ない中年男性は経時的に血圧が上昇する
・2019.3.28
[2019年文献] 中年男性において,朝食から摂取するエネルギー量ならびに飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸の摂取量は脳内出血発症リスクと負に関連する
・2019.1.29
[2016年文献] 多量飲酒は血管内皮機能障害と関連する
・2018.11.28
[2018年文献] 1日30本以上の喫煙者では血管内皮機能が低下している
・2018.10.31
[2014年文献] 中心血圧は,心臓の無症候性臓器障害(左側R波増高,ST-T異常,左室肥大)のリスクと有意に関連
・2018.8.28
[2017年文献] 集団レベルでみると,1990年代後半以降も,脳卒中・冠動脈疾患に対する高血圧のインパクトは大きい