国内の循環器疫学研究には,農村部の一般住民を対象としたものが多い。しかし,日本の人口のうち約66 %は都市部に住んでいるとされ,都市部の一般住民についても心血管疾患の危険因子や発症率の実態を把握することが肝要となっている。
国立循環器病センターと吹田市医師会により研究が開始されたのは1989年(平成元年)で,住民台帳から無作為抽出され,さらに国立循環器病センターの基本健診を受診した人が対象となった。対象者は1989年に抽出された第1次コホート(6485人),および1996年に抽出された第2次コホート(1329人),およびボランティア集団(546人)からなり,現在は第1次コホートについて,隔年の健診による追跡が行われている。
頸動脈超音波検査による無症候性動脈硬化病変や75 g経口ブドウ糖負荷試験による代謝性疾患の検討も行われており,これまでに無症候性動脈硬化の頻度,頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)に関連する因子,および正常高値血圧・メタボリックシンドローム・糖尿病と心血管疾患との関連などの成果が報告された。
また,吹田研究の一環として遺伝子の解析研究や循環器疾患の発症登録研究も行われている。日本人は欧米人にくらべて脳卒中が多く冠動脈疾患が少ないことで知られるが,この発症登録研究の結果から,吹田における脳卒中/心筋梗塞発症率比は国内でもっとも低いレベルにあることがわかった。都市部の一般住民で,心血管疾患発症の欧米化が進んでいる可能性を示唆する結果である。
・2020.11.09
[2018年文献] 頚動脈内膜-中膜壁厚の進展は心血管疾患リスクと有意な正の関連を示す
・2017.10.30
[2015年文献] 腹囲が大きい人では,その後さらに腹囲が増加すると糖尿病発症リスクが上昇
・2017.6.29
[2017年文献] 10年後の心房細動予測スコアを開発
・2016.10.28
[2016年文献] 高血圧者の冠動脈疾患の生涯リスクは,非高血圧者の約2倍
・2015.12.25
[2016年文献] 高血圧者と非高血圧者の脳卒中生涯リスクの差は,若年世代のほうが大きい
・2015.11.30
[2014年文献] 都市部一般住民の10年間の冠動脈疾患発症リスクを予測する「吹田スコア」を作成
・2015.8.26
[2015年文献] 高血圧と過体重は心房細動の危険因子であり,両者の合併でさらにリスクが増加
・2014.11.28
[2014年文献] 口腔衛生異常(歯周病,不正咬合,歯牙喪失,歯肉出血)の保有数は高血圧と関連
・2014.7.30
[2013年文献] CKDは,高血圧の人でのみ頸動脈硬化と関連
・2014.5.27
[2013年文献] 腹囲/身長比は中年男性の心血管疾患と冠動脈疾患,中年女性の脳卒中リスクと関連