40~49歳の男性(Post World War II Birth Cohort) | |
日本: 滋賀県草津市 米国: ホノルル州ハワイ*,ペンシルベニア州ピッツバーグおよびその近郊 韓国: 京畿道安山市 * ホノルル心臓調査の参加者の子孫からランダム抽出された日系アメリカ人のコホート。 |
|
冠動脈石灰化スコア(電子線CT* による),頸動脈内膜-中膜肥厚(IMT),身長,体重,腹囲,血圧,総コレステロール,LDL-C,HDL-C,トリグリセリド,血清リポ蛋白と16のサブクラス,空腹時血糖,空腹時血中インスリン,CRP,フィブリノーゲン,ホモシステイン,レプチン,グレリン,アディポネクチン,喫煙,飲酒,教育年数,服薬状況,疾患家族歴,生活習慣,食習慣(魚,肉類,大豆製品の摂取状況など)。 * 電子線CT(electron beam computed tomography,EBCT): 冠動脈の石灰化を非侵襲的に評価できるCTスキャン。1/100秒単位の撮影が可能であり,心臓の拍動の影響を受けない画像を得ることができる。 |
|
上島 弘嗣 (滋賀医科大学生活習慣病予防センター), 関川 暁 (ピッツバーグ大学), Jess David Curb (ハワイ大学) |
|
医学のあゆみ vol. 207 no.7 482-486. 滋賀医大ニュース 2006, Vol. 9 |
第二次世界大戦前世代を対象としたSeven Countries Studyでは,当時の日本人中年男性のコレステロールが欧米にくらべて著しく低いことが示された。ところが,生活習慣が欧米化した戦後生まれの世代では,近年,総コレステロールがアメリカ人に匹敵するレベルになってきた。血圧や血糖値も高く,喫煙率は米国の2倍にのぼる。
このような状況にもかかわらず,日本人の冠動脈疾患発症率は依然として米国の1/3程度にとどまっている。この理由を探るために,戦後生まれ世代(Post World War II Birth Cohort)の日本人とアメリカ人に焦点をあてて開始されたのがERA JUMPである。
ERA JUMPの第一の目的は,非侵襲的に評価できる冠動脈石灰化度や頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)により,潜在的動脈硬化の進展度を比較すること。これまでに,一般住民を対象としてこのような国際比較が行われたことはなく,非常にユニークな研究といえる。 その結果,日本人では潜在性動脈硬化がほとんど進展していないことが明らかになった。
そこで遺伝的な要因についても検討を行うため,日本人と共通した遺伝的背景をもつハワイの日系人コホートもあとから加わった。だがハワイの日系人でもアメリカ人と同様に潜在性動脈硬化が進んでいることが明らかになり,こうした進展度の違いには遺伝子以外の要因が関与していることが示唆される結果となった。
ERA JUMPには,さらに数年遅れて韓国のコホートも加わっている。韓国人は,日本人と遺伝的に近く,社会・文化の面でも共通する部分が多い。戦後,欧米化の道をたどってきたという点でも一致しているが,最近は冠動脈疾患の増加が指摘されており,日本人との比較が注目される。
今後は対象者の年齢層をさらに広げ,インスリン抵抗性などの危険因子や動脈硬化関連遺伝子についても検討が行われる予定である。
・2018.8.28
[2018年文献] 日本人男性では,腹部脂肪全体に占める内臓脂肪の割合が日系アメリカ人男性より高い
・2018.4.27
[2013年文献] 日本人男性では,喫煙量の多い喫煙経験者における冠動脈石灰化および大動脈石灰化のリスクが高い
・2017.1.30
[2013年文献] 日系アメリカ人男性の肝臓脂肪量は,白人男性より多く,日本人男性より少ない
・2016.12.21
[2013年文献] 変性LDLの指標であるLOX-1リガンドの血清中濃度は,白人男性では頸動脈IMTと関連するが,日本人男性では関連しない
・2016.6.30
[2013年文献] 日本人,韓国人,白人男性のBMIは冠動脈カルシウムと関連
・2016.5.26
[2014年文献] 日本人男性の冠動脈石灰化の発症率は白人より低く,その差には血清長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸値が関与している
・2016.2.26
[2006年文献] 日本人男性の内臓脂肪面積は,腹囲が同レベルの白人男性より大きい
・2015.9.30
[2015年文献] 炎症マーカーと潜在性動脈硬化との関連はみられず
・2014.12.26
[2012年文献] 40代男性の大動脈石灰化は,大動脈スティフネス進展と関連
・2011.5.31
[2009年文献] 日本人男性は白人男性より肝臓脂肪量が多く,BMI増加にともなう肝臓脂肪量の増加幅も大きい