近年,日本では,生活習慣の欧米化にともなう肥満や代謝性疾患の増加が指摘されてきた。しかし,「ジャパニーズ・パラドックス」とも称されるように,日本人の冠動脈疾患発症率はいまだに先進国のなかでもっとも低い。ただし,高齢者や中高年の男性といった特定の層では冠動脈疾患が増加しているとの報告もあり,日本人における発症率の動向をあらためて明らかにする必要性があった。そこで,地域における発症状況を長期間にわたって網羅的にカバーする高島循環器疾患発症登録研究が1988年に開始された。
高島市は,琵琶湖と比良山系に接する風光明媚な田園地帯。人口は1988年以降も53000~54000人と安定しており,65歳以上の高齢者の割合(22.3 %)は全国の平均(17.6 %)よりもやや高くなっている。
高島循環器疾患発症登録研究では,高島市内および周辺地域の医療機関の協力,死亡診断書,救急搬送記録などにより,脳卒中* および急性心筋梗塞** で入院した高島市住民をほぼすべて登録し「定点観察」を行っている。通常の一般住民を対象としたコホート研究では集団の大きさによって統計的に十分なイベント数が得られない場合もあり,発症率・予後に関する長期的なトレンドを把握するために登録研究の果たす役割は大きい。
この試みによって地域における実態が刻々と明らかになってきており,2008年の報告では,心筋梗塞が増加していることが示された。脳卒中に関しても発症率の低下度は小さくなってきており,こうした傾向が今後どうなるかということも重要な検討テーマの1つである。季節や曜日による脳卒中発症率の変動など,興味深い報告も続々と発表された。登録および追跡は現在も継続されており,引き続きその成果に大きな期待が寄せられている。
脳卒中,および心筋梗塞発症例の登録基準は以下のとおり。
* 脳卒中: 神経学的な急性症状が発現し24時間以上持続,または死亡(病型診断のため,CT・MRIを実施)。
** 急性心筋梗塞: 急性心筋梗塞発症例,または虚血性冠動脈疾患によると考えられる院外心突然死例(診断にはWHO MONICAの基準を用いて統一)。
・2018.2.28
[2014年文献] 1989~2005年の脳卒中発症例および急性心筋梗塞発症例の急性期(28日以内)死亡率に大きな変化はみられず
・2014.1.29
[2012年文献] 大気中の二酸化窒素(NO2)濃度が高い日に発症した脳卒中および脳梗塞の急性期致死率は高い
・2013.9.27
[2008年文献] 脳卒中死亡率の「週末効果」は,発症をもとにしたデータではみられない
・2012.12.28
[2010年文献] 1988~2004年の脳梗塞の病型別発症率: もっとも多いのはラクナ梗塞
・2009.5.13
[1999年文献] 1989~1993年の脳卒中発症状況: 男性の脳梗塞は女性に比べて多く,致死率がもっとも高いのはくも膜下出血
・2008.11.05
[2008年文献] 1990~2001年にかけ,男女ともに心筋梗塞が増加
・2008.11.05
[2008年文献] 脳卒中は春に多い
・2008.11.05
[2007年文献] 65歳以上の男性では,月曜日・火曜日に脳卒中が多い
・2008.11.05
[2005年文献] 1988~1998年にかけ,心筋梗塞の発症率は変化しなかった