[編集委員が選ぶ注目文献] AEDが全国的に普及したことで院外心停止例の予後が改善(All-Japan Utstein Registry of the Fire and Disaster Management Agency)
Kitamura T, et al.; for the Implementation Working Group for the All-Japan Utstein Registry of the Fire and Disaster Management Agency.
Nationwide public-access defibrillation in Japan. N Engl J Med. 2010; 362: 994-1004.
- 目的
- 心臓突然死は先進国における主要な死因の1つとなっている。自動体外式除細動器(automated external defibrillator: AED)は,救命のために迅速かつ連続的に行うべき「救命の鎖」(119番など救急への早期通報→早期心肺蘇生→早期除細動→早期病院搬送)における重要な役割を果たすもので,これにより除細動までにかかる時間を短縮することが可能となる。AEDが公共の場に設置されるようになったことで,院外心停止例の生存率が改善したという報告はいくつかあるが,いずれも限られた地域ごと,または特定の条件のもとに検討されたものである。そこで,日本における公共AEDの全国的な普及が院外心停止例の生存率を改善したかどうかについて,院外心停止例を全国的に登録したAll-Japan Utstein Registry of the Fire and Disaster management Agency研究による検討を行った。
- コホート
- All-Japan Utstein Registry of the Fire and Disaster management Agency: ウツタイン様式*により,日本全国の院外心停止例を登録した大規模前向き研究。
2005年1月1日〜2007年12月31日における18歳以上の院外心停止例312319人のうち,心室細動に続いて起こった心原性の心停止と考えられ,目撃者のいる12631人を解析の対象とした。いずれの患者も,救急隊員の到着前に心原性心停止を起こし,その後,救急隊員による処置を受けて医療施設に搬送された。
一次エンドポイントは,心停止の発生から1か月後における良好な神経学的転帰(cerebral performance category[CPC]が1〜2)をともなう生存。
二次エンドポイントは,医療機関到着前の自発循環の回復,および1か月後の生存。
* ウツタイン様式とは,地域間・国際間の比較を目的とした心停止例の記録様式のガイドライン。心停止例を原因(心原性/非心原性),目撃の有無,目撃者による心肺蘇生の有無,初期心電図波形別などで分類し,予後転帰(生存/死亡,神経学的状態など)を記録する。1990年6月にノルウェーのウツタイン修道院で開催された国際蘇生会議において,各国の学会代表により作成された。
(参照: http://www.fdma.go.jp/html/hakusho/h16/h16/html/16240k20.html[総務省消防庁ウェブサイト])
・ 日本における自動体外式除細動器(automated external defibrillator: AED)の普及状況
2004年7月より,医療従事者ではない一般市民でもAEDが使用できるようになったことから,学校,医療施設,企業,スポーツ・文化施設,交通機関などへのAEDの設置が進められてきた。AEDの販売台数から推算した公共の場所(医療・救急施設を除く)への設置台数は,研究期間中(2005〜2007年)に9906台から88265台へと増加した。
- 結果
- ◇ 院外心停止の発生状況および公共の自動体外式除細動器(automated external defibrillator: AED)の普及状況
心室細動に続いて起こった心原性の院外心停止で,目撃者のいる12631人のうち,救急隊員により初回の除細動を受けたのは11697人,救急隊員の到着前に公共のAEDを用いた初回の除細動を受けたのは462人,除細動を受けなかったのが472人であった。
2005年から2007年にかけて,居住区域1km2あたりの公共のAEDの設置台数は,0.11から0.97に増加した。
この期間における院外心停止の発生率は54.1/10万人・年で,心原性心停止は28.0/10万人・年。このうち,目撃者がいたのは9.6/10万人・年で,さらに心室細動をともなうものは2.6/10万人・年であった。これらの発生率は,いずれも毎年少しずつ増加した。
◇ 良好な神経学的転帰をともなう1か月後の生存(一次エンドポイント)
公共のAEDにより除細動を受けた人(462人)において,良好な神経学的転帰をともなう1か月後の生存率は,救急隊員の到着時に自発循環が回復していた人では84.5%(71/84人)と高かったが,救急隊員による心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation: CPR)時に心室細動が持続していた人では22.9%(32/140人),無脈性電気活動または心静止の状態であった人では18.1%(43/238人)であった。
目撃者のいた,心室細動をともなう心原性の院外心停止例(12631人)において,良好な予後(神経学的転帰をともなう1か月後の生存)に関連する因子を検討した。
その結果,倒れてからCPRが行われるまでの時間が短いこと(P=0.02),および倒れてから除細動が行われるまでの時間が短いこと(P<0.001)が有意に関連していたが,除細動を行う人が誰であるか(目撃者/救急隊員)は予後には関連していなかった。
目撃者による胸骨圧迫のみのCPR,および目撃者による従来のCPR(人工呼吸+胸骨圧迫)は,いずれもCPRなしにくらべて,良好な予後と有意に関連していた(いずれもP<0.001)。
◇ 患者背景の経時的な変化
目撃者のいた,心室細動をともなう心原性の院外心停止例(12631人)において,患者背景の経時的な変化(2005〜2007年)を検討した。
年齢や男女比に有意な変化はみとめられなかった。
バイスタンダーによるCPRが行われた割合は,43.3%→53.6%と有意に増加した(P<0.001)。このうち,胸骨圧迫のみによるCPRが半数以上を占めていた。
倒れてからCPRが行われるまでの時間は,6.5分→5.7分と有意に減少した(P<0.001)が,除細動が行われるまでの時間は約12分で,有意な変化はみられなかった。
良好な神経学的転帰をともなう1か月後の生存率は,10.6%→19.2%と有意に改善した(P<0.001)。
さらに,公共のAEDにより除細動を受けた人(462人)における患者背景の経時的な変化(2005〜2007年)を検討した。
公共のAEDにより除細動を受けた人の割合は,1.2%→6.2%と有意に増加した(P for trend<0.001)。
平均年齢は66.6歳→60.6歳(P<0.001),倒れてから除細動またはCPRを受けるまでの時間も3.6分→2.9分(P=0.03)と,いずれも有意に低下した。
目撃者が家族であった人の割合は13.2%だった。
良好な神経学転帰をともなう1か月後の生存率は24.4%→34.3%と増加したが,有意差はみられなかった。良好な神経学転帰をともなう1か月後の生存を達成した人のうち,目撃者によるAEDでの除細動を受けた人の割合は2.7%→11.2%と有意に増加した(P for trend<0.001)。
◇ 公共のAED普及状況と除細動の実施状況
都道府県別に,居住地区1 km2あたりの設置台数によって公共のAEDの普及状況を評価すると,2005年には「1台未満」が47都道府県中46とほとんどを占めていたが,2007年には「1台未満」の都道府県が37,「1台以上4台未満」が8,「4台以上」が2と,普及が進んだ。
居住地区1 km2あたりの設置台数による3つのカテゴリー(1台未満,1台以上4台未満,4台以上)ごとに除細動の実施状況を比較した結果,患者が倒れてから除細動が行われるまでの時間は,設置台数が多いほど有意に短かった(P for trend<0.001)。
日中人口1000万人あたりでみたAEDによる除細動の実施率,およびAEDによる除細動後に良好な神経学転帰が得られた人の数は,いずれもAEDの設置台数が多いほど有意に高かった(それぞれP for trend<0.001,P for trend=0.01)。
◇ 結論
2005〜2007年の院外心停止例を全国的に登録した観察研究により,日本における公共AEDの普及が院外心停止例の生存率を改善したかどうかについて検討を行った。その結果,公共のAEDが全国的に普及したことで,AEDを用いた除細動の実施率,心室細動をともなう心原性院外心停止例の予後などに改善がみられた。公共のAEDによる除細動の重要性が裏付けられたといえる。