[編集委員が選ぶ注目文献] 急性心筋梗塞の発症率,発症後死亡率が有意に改善(米国の一般住民)

Yeh RW, et al. Population trends in the incidence and outcomes of acute myocardial infarction. N Engl J Med. 2010; 362: 2155-65. pubmed

目的
心筋梗塞の発症率や,発症者における死亡率を調べた研究は過去にもあるが,人種・民族,年齢,性別,その他の危険因子の状況などに偏りのある集団を対象とした検討が多く,また発症者をST上昇型心筋梗塞と非ST上昇型心筋梗塞とに分けて検討した報告はほとんどない。さらに,トロポニンをはじめとした高感度な心バイオマーカーの測定が普及したことで,それまでは診断しえなかった心筋梗塞の検出率が上がることによる見かけ上の発症率増加や,発症者に占める軽症者の割合の増加といった影響があることも指摘されている。そこで,多様性に富む大規模な米国人一般住民コホートを対象として,1999〜2008年の心筋梗塞の発症率,重症度,死亡率などについて検討を行った。
コホート
1999〜2008年におけるKaiser Permanente Northern California(米国の民間大手医療保険組織,会員数300万人以上)の30歳以上の加入者(1869万1131人・年)を対象として急性心筋梗塞の発症率を調査するとともに,急性心筋梗塞を発症し入院した46086人を対象に重症度や死亡率などについて検討した。
結果
◇ 急性心筋梗塞(AMI)発症率
1999〜2008年の期間において,Kaiser Permanente Northern Californiaの30歳以上の加入者(1869万1131人・年)のうち,AMIを発症し,入院したのは46086人。 うちST上昇型心筋梗塞(STEMI)は33.1%(15271人),非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)は66.9%(30815人)であった。 AMI発症者におけるSTEMIの割合は,47.0%(1999年)→22.9%(2008年)と低下した。

AMIの年間発症率(年齢・性別調整)は,10万人あたり274(1999年)→287(2000年)→208(2008年)と,2000年にピークを迎えたのちに継続的に低下していた。 STEMIの年間発症率(年齢・性別調整)は,10万人あたり133(1999年)→50(2008年)と,継続的かつ有意に低下した(1999〜2008年の低下率62%,P for trend<0.001)。 NSTEMIの年間発症率(年齢・性別調整)は,10万人あたり155(1999年)→202(2004年)と2004年にかけて増加したが,その後は減少する傾向がみられた。

◇ 背景,服薬状況
1999〜2008年のAMI発症者の背景の経時的な変化をみると,年齢は高くなり,男性および白人の割合は低くなるという有意な傾向がみられた。合併症(高血圧,脂質異常症,糖尿病)の割合,冠動脈血行再建術既往の割合,および発症前のACE阻害薬,ARB,β遮断薬,スタチンの服用率はいずれも経時的に有意に増加しており,STEMI発症率の経時的な低下には,これらの変化が影響していると考えられた。

◇ 心バイオマーカー測定率
AMI発症者におけるトロポニンI*の測定率は,53%(1999年)→84%(2004年)と増加しており,2004年から2008年にかけては同等であった。

CK-MB**の測定率は,75%(1999年)→56%(2008年)と有意に低下した(P for trend<0.001)。 全AMI発症者,およびNSTEMI発症者におけるCK-MB最高値およびCK-MB indexは,経時的に有意に低下した(いずれもP for trend<0.001)が,STEMI発症者でははっきりとした傾向はみとめられなかった。

* トロポニンI: トロポニンT,トロポニンCとともにトロポニンを形成する蛋白質サブユニット。骨格筋や心筋の収縮を制御しており,筋が損傷されると血中濃度が上昇する。
** CK-MB: クレアチンキナーゼ(CK)のアイソザイム。心筋特異度が高い。

◇ 血行再建術
AMI発症者のうち,発症後30日以内に血行再建術を受けた人の割合は,40.7%(1999年)→47.2%(2008年)と有意に増加した(P for trend<0.001)。STEMI発症者,NSTEMI発症者のいずれについても,同様に有意な増加がみられた(STEMI発症者: 49.9%[1999年]→69.6%[2008年],NSTEMI発症者: 33.4%[1999年]→41.3%[2008年],いずれもP for trend<0.001)。

◇ 30日間死亡率 AMI発症者における発症後30日間の死亡率(性別・年齢調整)は,10.5%(1999年)→7.8%(2008年)と有意に低下した(P for trend<0.001)。
病型別にみると,NSTEMI発症者では10.0%(1999年)→7.6%(2008年)と有意に低下している(P for trend<0.001)ものの,STEMI発症者では有意な低下はみられなかった(P=0.81)。

AMI発症者の2008年における発症後30日間の死亡のオッズ比は,1999年に対して0.76(95%信頼区間0.65-0.89)と有意に低下していた。
NSTEMI発症者でも,同様に2008年における死亡のオッズ比が0.82(0.67-0.99)と1999年に比して有意に低かったものの,STEMI発症者では有意な低下はみられなかった。


◇ 結論
大規模な米国人一般住民コホートにおいて,1999〜2008年の心筋梗塞の発症率,死亡率などの検討を行った結果,急性心筋梗塞の発症率は2000年以降に継続的に低下し,とくにST上昇型心筋梗塞では顕著に低下した。また,急性心筋梗塞発症者における短期間の死亡率も,経時的に有意に低下しており,これにはST上昇型心筋梗塞の発症率低下や,非ST上昇型心筋梗塞発症者の死亡率低下などが影響していると考えられた。以上のように,高感度な心バイオマーカーの普及や心血管危険因子の保有率増加にもかかわらず心筋梗塞の発症率が低下した背景として,近年,大きく進歩した一次予防の方策が良好な効果を上げている可能性が示唆された。

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