[編集委員が選ぶ注目文献] non-HDL-C,総コレステロールを用いた急性心筋梗塞発症リスクスコアを作成(JALS)

Tanabe N, et al.; The Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study Group. Serum Total and Non-High-Density Lipoprotein Cholesterol and the Risk Prediction of Cardiovascular Events. Circ J. 2010; 74: 1346-56. pubmed

目的
non-HDL-Cは心血管疾患の予測因子として有用であるとされており,その予測能はLDL-Cと同等かそれ以上であるとの報告があるが,総コレステロールとの比較についてはデータが不十分であった。そこで,10の前向きコホート研究の7.6年間の追跡データを用いたメタ解析により,non-HDL-Cおよび総コレステロールと心血管疾患発症リスクとの関連を検討した。さらにこの解析結果を用いて,non-HDL-Cまたは総コレステロールとその他の危険因子の保有状況により,5年間の急性心筋梗塞発症リスクを予測することのできるリスクスコアシステムを作成した。
コホート
JALS 0次研究(JALS-ECC: JALS-existing cohorts combine)に参加した21コホートの66,691人のうち,ベースラインの総コレステロール,HDL-C,血圧,身長,体重,喫煙,糖尿病既往に関するデータに不備がなく,かつ急性心筋梗塞(AMI)および脳卒中の各病型に関する追跡データを有するコホートを対象とした。
平均追跡期間は7.6年間。
AMIの解析対象は10コホートの40〜89歳の22,430人(160,887人・年),脳卒中の解析対象は9コホートの15,269人(102,984人・年)。

non-HDL-C値は,総コレステロール値からHDL-C値を引くことにより算出した。

ベースラインの総コレステロールおよびnon-HDL-Cにより,全体をそれぞれ四分位に分けて検討を行った。

・総コレステロール   Q1: ≦175 mg/dL,Q2: 176〜198 mg/dL,Q3: 199〜223 mg/dL,Q4: ≧224 mg/dL ・non-HDL-C   Q1: ≦117 mg/dL,Q2: 118〜141 mg/dL,Q3: 142〜166 mg/dL,Q4: ≧167 mg/dL
結果
◇ 総コレステロールと心血管疾患リスク
総コレステロールは急性心筋梗塞(AMI)発症リスクと正の関連を示しており,有意な用量-反応関係がみとめられた(χ2=17.8,P for trend<0.001)。
総コレステロールがもっとも高いQ4のQ1に対するAMIの発症率比(incidence rate ratio: IRR,多変量調整)は3.63(95 %信頼区間2.00-6.59)。男女別にみると,Q4のIRRは男性で3.32(1.70-6.47),女性で9.78(1.29-74.0)だった。
総コレステロールを連続変数として扱ったモデルでは,総コレステロールの1 SD増加にともなうIRRは1.49(1.24-1.79)だった。

総コレステロールと脳卒中発症リスクとの関連はみとめられなかった。

以上のいずれの結果についても,性別による有意な相互作用はみとめられなかった。

◇ non-HDL-Cと心血管疾患リスク
non-HDL-CはAMIリスクと強い正の関連を示しており,総コレステロールよりも顕著な用量-反応関係がみとめられた(χ2=23.5,P for trend<0.001)。
non-HDL-Cがもっとも高いQ4のQ1に対するIRR(多変量調整)は4.22(95 %信頼区間2.24-7.96)。男女別にみると,Q4のIRRは男性で3.87(1.91-7.83),女性で8.55(1.12-65.1)だった。

non-HDL-Cを連続変数として扱ったモデルでは,non-HDL-Cの1 SD増加にともなうIRRは1.62(1.35-1.95)と,総コレステロールよりも強い関連がみとめられた。

non-HDL-Cと脳卒中発症リスクとの関連はみとめられなかった。

以上のいずれの結果についても,性別による有意な相互作用はみとめられなかった。

◇ AMIリスク評価モデルおよびリスクスコア
総コレステロール,およびnon-HDL-CとAMIリスクとの関連を検討した際の多変量ポアソン回帰モデルをもとに,AMIリスクを点数化する評価モデルを総コレステロールとnon-HDL-Cのそれぞれについて作成した。

総コレステロールによる評価モデル,およびnon-HDL-Cによる評価モデルには以下の因子を用いた。それぞれ該当する項目により−9.5点〜39点を加算し,個人のスコアを算出できるようになっている。
   総コレステロールまたはnon-HDL-C
   性別 (男/女)
   年齢 (40〜49歳/50〜59歳/60〜69歳/70〜79歳/80〜89歳)
   HDL-C (40 mg/dL以上/未満)
   血圧 (正常高値以下/グレード1高血圧/グレード2以上の高血圧)
   糖尿病既往 (あり/なし)
   喫煙 (喫煙未経験または禁煙/現在喫煙)
なお,BMIとAMIリスクの関連はU字型で有意ではないことから,BMIはスコア評価モデルから除外した。

non-HDL-Cによる評価モデルのROC曲線の曲線下面積(area under the receiver operating curve: AUC)は0.825と,総コレステロールによる評価モデルの0.816を上回っていた。

以上の結果より,上記の因子の保有状況に基づき,個人の5年間のAMI発症の累積ハザードを算出できるリスクスコアシステム(総コレステロールモデル,およびnon-HDL-Cモデル)を作成した。
たとえば,グレード1高血圧を有する75歳の喫煙者の男性でnon-HDL-Cが200 mg/dL,HDL-C値が40 mg/dL以上,糖尿病既往がない場合,non-HDL-Cモデルにおけるリスクスコアは68点となり,5年後のAMI発症率は1.8 %と予測される。


◇ 結論
10の前向きコホート研究の7.6年間の追跡データを用いたメタ解析により,non-HDL-Cおよび総コレステロールと心血管疾患発症リスクとの関連を検討した結果,non-HDL-Cは総コレステロールよりも強くAMI発症リスクと関連していた。さらに,解析に用いた多変量モデルをもとに5年間の急性心筋梗塞発症リスクを予測するリスクスコアシステムを作成したところ,non-HDL-Cによるモデルの予測能は総コレステロールによるモデルを上回っていた。一方,non-HDL-C,総コレステロールのいずれについても,脳卒中発症リスクとの関連はみとめられなかった。

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