[2002年文献] 日系ブラジル人の糖尿病は,1990年代前半~後半にかけて増加した
これまでに世界で最悪レベルともされてきた日系ブラジル人の糖尿病有病率は,7年のあいだにさらに悪化したことがわかった。この背景には,日本人の遺伝的要因,およびブラジルに移住し生活習慣が西洋化したことなどによる環境的要因の両方が関与している可能性がある。
Gimeno SG, et al. Prevalence and 7-year incidence of Type II diabetes mellitus in a Japanese-Brazilian population: an alarming public health problem. Diabetologia. 2002; 45: 1635-8.
- コホート
-
1993年,ブラジルのサンパウロ州バウルに住む40~79歳の日系ブラジル人647人(1世37.3 %,2世62.7 %)について,健診および75 g経口ブドウ糖負荷試験を行った(第1回調査)。
7年後の1999~2000年には,この647人,および新たに参加した30歳以上の1104人の計1751人について,健診および75 g経口ブドウ糖負荷試験を行った(第2回調査)。
第1回と第2回の両方に参加した394人について,有病率の比較を行った。 - 結果
-
空腹時高血糖(impaired fasting glycaemia,IFG),耐糖能異常(impaired glucose tolerance。IGT)および糖尿病の有病率は,いずれも第1回から第2回にかけて増加した。特にIFGでは約5.5倍と急激な増加がみられた。
7年間の発症率の変化は以下のとおり(それぞれ1993年,1999~2000年の値)。
・ IFG: 3.3 % → 19.3 %
・ IGT: 14.5 % → 23.4 %
・ 糖尿病: 22.5 % → 36.2 %
第1回,第2回ともに,男性の糖尿病の有病率は女性より有意に高かった(P<0.05)。
第1回,第2回ともに,60歳以上の年齢層のIFGおよびIGTの有病率は,59歳以下よりも高かった。40歳以下の年齢層に限っても,50 %以上が何らかの耐糖能異常状態(IFG,IGT,糖尿病のいずれか)にあった。
第1回,第2回ともに1世と2世の発症率に有意な差は見られなかった。
第1回と第2回の両方に参加した394人のうち,第1回(1993年)の時点でIFG,IGT,糖尿病のいずれも未発症だったのは253人。
このうち第2回調査時(2000年)に糖尿病を発症していたのは51人で,年間発症率は1000人あたり30.9人となった(男性38.2人,女性25.0人)。
第1回調査時に得られた項目のうち,第2回調査時の糖尿病発症者で未発症者よりも高い値を示したのは,BMI,ウエスト周囲長,ウエスト/ヒップ比,収縮期血圧,トリグリセリド,HDL-C,空腹時血糖,食後2時間血糖,および総蛋白質摂取量。総エネルギー摂取量,炭水化物摂取量,脂肪摂取量では差がなかった。
第1回の調査時にIFG,IGT,糖尿病のいずれも未発症だった人について,調査項目と7年後の糖尿病発症リスクとの関連を調べた結果,以下の6つが糖尿病発症の独立した予測因子であることが明らかになった。
・ 性別(男性) ハザード比1.95(95 %信頼区間1.04-3.65)
・ 年齢 0.65(0.80-0.90)
・ ウエスト周囲長 1.05(1.01-1.09)
・ 収縮期血圧 1.01(1.00-1.02)
・ 空腹時血糖 7.00(3.32-14.77)
・ 食後2時間血糖 1.33(1.01-1.77)
以上のように,これまでに世界で最悪レベルともされてきた日系ブラジル人の糖尿病有病率は,7年のあいだにさらに悪化したことがわかった。この背景には,日本人の遺伝的要因,およびブラジルに移住し生活習慣が西洋化したことなどによる環境的要因の両方が関与している可能性がある。