[1997年文献] 夜間の血圧低下が不十分な人(inverted dipper)では全死亡,心血管疾患死亡リスクが高い

夜間血圧低下の度合い(とくに過剰な血圧低下および血圧低下不十分)が全死亡リスクと関連するかどうかについて,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究による検討を行った。5.1年間の追跡の結果,夜間血圧低下が不十分な人では,夜間血圧低下のある人にくらべて全死亡リスクが高くなっていた。この結果はとくに心血管疾患死亡について顕著であり,喫煙や心血管疾患既往,24時間・昼間・夜間血圧値,ならびに降圧薬服用の有無で調整を行っても同様であった。

Ohkubo T, et al. Relation between nocturnal decline in blood pressure and mortality. The Ohasama Study. Am J Hypertens. 1997; 10: 1201-7.pubmed

コホート
1987年に健診を受診した40歳以上の2716人のうち,町外で就労している575人,入院中の121人,認知症または寝たきりの31人,研究参加への同意が得られなかった447人を除外した1542人(男性565人,女性977人)を平均5.1年間追跡。
平均年齢は男性62.5歳,女性61.2歳。

24時間自由行動下血圧測定の結果をもとに,夜間血圧低下の有無および度合いにより対象者を以下の4つのカテゴリーに分類した。
  extreme dipper: 収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP)のいずれも夜間血圧低下率が20%以上
  dipper: extreme dipper,nondipper,inverted dipperのいずれにも該当しないもの
  nondipper: SBP,DBPともに夜間血圧低下率が10%未満(増加なし)
  inverted dipper: SBP,DBPともに夜間血圧低下なし
  
結 果
◇ 対象背景
extreme dipperは255人,dipperは1041人,nondipperは200人,inverted dipperは46人であった。
カテゴリー間で比較すると,inverted dipperは年齢が高く,男性,喫煙者,心血管疾患既往を持つ人の割合が高かった。
各カテゴリーで24時間血圧の平均値は同等だったが,昼間血圧と夜間血圧についてはカテゴリー間に有意差がみられ,inverted dipperで昼間血圧がもっとも低く,夜間血圧がもっとも高かった。

◇ 夜間血圧低下と全死亡リスク
追跡期間中に死亡したのは93人(6.0%)。
うち癌による死亡が26人(28%),脳血管疾患による死亡が24人(26%),心疾患による死亡が13人(13%)であった。

夜間血圧低下のカテゴリーごとの全死亡,心血管疾患死亡,非心血管疾患死亡の多変量調整相対ハザード(95%信頼区間)は以下のとおりで,inverted dipperでdipperに対して有意に全死亡リスクが増加しており,内訳をみると,とくに心血管疾患死亡リスクが顕著に増加していた。また,nondipperでも有意な心血管疾患死亡リスクの増加がみとめられた。extreme dipperについては,いずれの死亡リスクについてもdipperとの有意な差はみられなかった。
年齢,性別,喫煙,心血管疾患既往,降圧薬服用で調整,*P=0.02,**P=0.004 vs. dipper)

・全死亡
  extreme dipper: 0.65(0.30-1.44)
  dipper: 1.00(対照)
  nondipper: 1.35(0.79-2.30)
  inverted dipper: 2.12(1.12-3.99)*

・心血管疾患死亡
  extreme dipper: 0.96(0.28-3.32)
  dipper: 1.00
  nondipper: 2.56(1.16-5.63)*
  inverted dipper: 3.69(1.51-9.05)**

・非心血管疾患死亡
  extreme dipper: 0.53(0.19-1.49)
  dipper: 1.00
  nondipper: 0.83(0.39-1.79)
  inverted dipper: 1.32(0.51-3.37)

昼間血圧および夜間血圧の値が各カテゴリーで異なっていたことから,血圧値の影響を除外するために24時間血圧,昼間血圧および夜間血圧のそれぞれで調整した解析を行ったが,調整前と同様に,inverted dipperおよびnondipperでは心血管疾患死亡リスクがdipperに比して有意に高く,extreme dipperとdipperでは有意差はないという結果であった。
この結果は,降圧薬服用の有無による層別化解析を行っても同様であった。


◇ 結論
夜間血圧低下の度合い(とくに過剰な血圧低下および血圧低下不十分)が全死亡リスクと関連するかどうかについて,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究による検討を行った。5.1年間の追跡の結果,夜間血圧低下が不十分な人では,夜間血圧低下のある人にくらべて全死亡リスクが高くなっていた。この結果はとくに心血管疾患死亡について顕著であり,喫煙や心血管疾患既往,24時間・昼間・夜間血圧値,ならびに降圧薬服用の有無で調整を行っても同様であった。


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