[2007年文献] フィブリノーゲンは無症候性脳病変の危険因子
いくつかの研究からフィブリノーゲンと冠動脈疾患との関連が示唆されているが,フィブリノーゲンと脳卒中もしくは無症候性脳病変との関連についての検討は少ない。そこで,日本人一般住民を対象に,MRIを用いた断面解析研究を行った。その結果,フィブリノーゲンが無症候性脳病変の危険因子であることが示唆された。
Aono Y, et al. Plasma Fibrinogen, Ambulatory Blood Pressure, and Silent Cerebrovascular Lesions. The Ohasama Study. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2007
- コホート
- 55歳以上の3077人のうち,平日の自由行動下血圧測定が困難だった492人,入院中・認知症または寝たきりの185人,同意が得られなかった1226人を除いた1174人にMRIを実施。
さらに,血圧または血清フィブリノーゲン値に不備があった173人および脳卒中または一過性脳虚血発作既往のある43人を除外した958人(参加率40 %)を解析対象とした(断面解析)。
平均年齢は66.0歳,男性の割合は32 %。
無症候性脳病変の定義は,グレード1以上の白質病変(WMH: white matter hyperintensity),ラクナ梗塞,またはその両方がみとめられる場合とした。
血清フィブリノーゲン値により,全体を以下のように四分位に分けて解析を行った。
258 mg/dL以下,259~292 mg/dL,293~327 mg/dL,328 mg/dL以上 - 結 果
- 無症候性脳病変がみとめられたのは466人。
◇ 対象背景
無症候性脳病変をもつ人で,もたない人よりも有意に高い値を示していたのは,年齢(P<0.0001),24時間自由行動下血圧(ABP)(P<0.0001),昼間血圧(P<0.0001),夜間血圧(P<0.0001),降圧薬服用率(P<0.0001),心血管疾患既往の割合(P=0.007),血清フィブリノーゲン(P<0.0001),血清クレアチニン(P=0.0001)。
無症候性脳病変をもつ人で,もたない人よりも有意に低い値を示していたのは,BMI(P=0.03)。
外来血圧,喫煙率,飲酒率,高脂血症の割合,糖尿病の割合などに有意な差はみられなかった。
◇ フィブリノーゲンと無症候性脳病変リスク
フィブリノーゲンがもっとも高い四分位(328 mg/dL以上)において,無症候性脳病変リスクの有意な上昇がみとめられた(vs. 258 mg/dL以下,オッズ比1.99,95 %信頼区間1.34-2.97,P=0.0007)。
この結果は,白質病変(WMH: white matter hyperintensity)リスク,およびラクナ梗塞リスクについて単独に検討しても同様だった。
また,性別,年齢,降圧薬服用の有無による層別化解析を行っても,有意な相互作用はみとめられなかった。
◇ 無症候性脳病変に関連する因子
多変量ロジスティック回帰分析において,無症候性脳病変リスクと有意に関連していた因子は以下のとおり。BMI高値(25 kg/m2以上)は有意なリスク低下と関連していた。
年齢(+10歳): オッズ比2.90 (95 %信頼区間2.22-3.80,P<0.0001)
降圧薬服用(vs. 非服用): 2.02 (1.49-2.75,P<0.0001)
BMI 25 kg/m2以上(vs. 25 kg/m2未満): 0.72 (0.53-0.97,P=0.03)
24時間自由行動下収縮期血圧(+10 mmHg): 1.23 (1.10-1.39,P=0.0006)
フィブリノーゲン(+1 SD[62.0 mg/dL]): 1.26 (1.09-1.46,P=0.001)
◇ 無症候性脳病変リスクに対する24時間 ABPとフィブリノーゲンの影響
フィブリノーゲン高値(328 mg/dL以上),および24時間 ABP高値(≧135 / 80 mmHg)の有無ごとの無症候性脳病変のオッズ比は以下のとおり。
フィブリノーゲンが高値と24時間ABP高値が無症候性脳病変リスクに対し相加的な影響を示していた。
フィブリノーゲン正常値+24時間ABP正常値: オッズ比1 (対照)
フィブリノーゲン正常値+24時間ABP高値: 1.47 (95 %信頼区間 1.01-2.15)
フィブリノーゲン高値+24時間ABP正常値: 1.71 (1.19-2.44)
フィブリノーゲン高値+24時間ABP高値: 2.52 (1.30-4.89)
◇ 結論
いくつかの研究からフィブリノーゲンと冠動脈疾患との関連が示唆されているが,フィブリノーゲンと脳卒中もしくは無症候性脳病変との関連についての検討は少ない。そこで,日本人一般住民を対象に,MRIを用いた断面解析研究を行った。その結果,フィブリノーゲンが無症候性脳病変の危険因子であることが示唆された。