[2007年文献] 24時間ABPMによる動脈硬化指標は心血管疾患死亡リスクとU字型の関連
24時間自由行動下血圧を用いて算出した動脈壁の硬化の指標(AASI: 24時間にわたる拡張期血圧と収縮期血圧との動的な関連を示す)と,心血管疾患死亡,脳卒中死亡との関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究における検討を行った。13.3年間(中央値)の追跡の結果,AASIと心血管疾患死亡リスクおよび脳卒中死亡リスクはいずれもU字型の関連を示し,この関連は24時間平均動脈圧,24時間脈圧や種々の心血管危険因子で調整しても同様であった。24時間脈圧と心血管疾患死亡リスクおよび脳卒中死亡リスクとの関連は,多変量調整を行うと消失した。
Kikuya M, et al. Ambulatory arterial stiffness index and 24-hour ambulatory pulse pressure as predictors of mortality in Ohasama, Japan. Stroke. 2007; 38: 1161-6.
- コホート
- ベースライン健診に参加し,自由行動下血圧測定を行った40歳以上の大迫町住民1552人のうち,血圧測定記録が不十分(覚醒中8時間未満かつ睡眠中4時間未満)であった10人を除外した1542人を13.3年間(中央値)追跡した(19024人・年)。
参加者はそれぞれオシロメトリック方式の自動血圧計を用いて1日の自由行動下血圧の測定(30分間隔)を行い,24時間の平均値(覚醒・睡眠時間を考慮して調整)から,自由行動下血圧値による動脈血管硬化指数(ambulatory arterial stiffness index: AASI)*を算出。
AASIならびに24時間脈圧(PP)の四分位により,参加者を以下の4つのカテゴリーに分けて解析を行った。
[AASI]Q1: 0.39未満,Q2: 0.39~0.45,Q3: 0.45~0.51,Q4: 0.51超
[24時間PP]Q1: 45.8未満,Q2: 45.8~50.2,Q3: 50.2~55.6,Q4: 55.6超
*AASI: 自由行動下血圧値を用いて算出する動脈血管硬化指数(arterial stiffness index: ASI,オシロメトリック法による血圧測定の際に得られる拡張期血圧と収縮期血圧との動的な関連から血管の硬さを評価する指標)。「AASI=1-(拡張期血圧に対する収縮期血圧の回帰勾配)」として算出し,1に近いほど動脈硬化が進んでいることを示している。
自由行動下血圧による高血圧は,覚醒時の収縮期血圧≧135 mmHg,拡張期血圧≧85 mmHgまたは降圧薬服用とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢は61.7歳,女性は63.4%,自由行動下高血圧は49.3%,降圧薬服用率は62.2%。
自由行動下血圧による動脈血管硬化指数(ambulatory arterial stiffness index: AASI)の平均値は0.46,脈圧(PP)は51.3 mmHg。
AASIの平均値に性差はみられず(男性0.45,女性0.46,P<0.16),正常血圧者と高血圧者でも同等であった(それぞれ0.45,0.46,P<0.19)。
AASIが高いカテゴリーほど有意に年齢が高く(P<0.001),身長が低く(P<0.001),BMIが低値であった(P<0.001)。また,AASIが高いカテゴリーほど,自由行動下拡張期血圧(DBP)が有意に低く(P<0.0001),自由行動下収縮期血圧(SBP)と自由行動下PPは有意に高かった(それぞれP=0.031,P<0.0001)。
◇ AASI,24時間PPと心血管疾患死亡率
追跡期間中に死亡したのは345人で,このうち心血管疾患による死亡126人(36.5%)の内訳は以下のとおりだった。
脳卒中死亡63人(うち脳梗塞死亡38人,脳内出血死亡またはくも膜下出血死亡22人,その他または分類不可の脳卒中による死亡3人)
心疾患死亡59人(うち心筋梗塞死亡20人,慢性冠動脈疾患死亡4人,心不全死亡15人,突然死6人,不整脈死亡6人,その他の心疾患による死亡8人)
AASIと心血管疾患死亡率,ならびに脳卒中死亡率とのあいだには,それぞれU字型の関連がみとめられた。
24時間PPと心血管疾患死亡率,ならびに脳卒中死亡率とのあいだには,それぞれJ字型の関連がみとめられた。
◇ AASI,24時間PPと心血管疾患死亡リスク
AASIおよび24時間PPの各四分位における全死亡,心血管疾患死亡,脳卒中死亡の多変量調整ハザード比†(vs. コホート全体)は以下のとおりで(*P<0.05),24時間PPを含めて調整を行ったうえでも,AASIと心血管疾患死亡リスク,ならびに脳卒中死亡リスクとのあいだにU字型の関連がみとめられた。24時間PPについては,いずれのカテゴリーでも,コホート全体との有意なリスクの差はみられなかった。
・全死亡
[AASI]Q1: 1.18(95%信頼区間0.96-1.45),Q2: 0.94(0.77-1.14),Q3: 0.78(0.64-0.95)*,Q4: 1.16(0.98-1.38)
[24時間PP]Q1: 1.08(0.82-1.41),Q2: 0.98(0.79-1.22),Q3: 0.91(0.75-1.11),Q4: 1.04(0.83-1.31)
・心血管疾患死亡
[AASI]Q1: 1.41(1.01-1.96),Q2: 0.85(0.61-1.20),Q3: 0.65(0.46-0.9)*,Q4: 1.29(0.97-1.70)
[24時間PP]Q1: 1.91(0.53-1.55),Q2: 1.08(0.73-1.60),Q3: 0.81(0.56-1.16),Q4: 1.26(0.87-1.82)
・脳卒中死亡
[AASI]Q1: 1.56(0.98-2.47),Q2: 0.89(0.54-1.45),Q3: 0.52(0.30-0.89)*,Q4: 1.40(0.94-2.08)
[24時間PP]Q1: 1.09(0.49-2.40),Q2: 0.73(0.37-1.43),Q3: 0.96(0.58-1.62),Q4: 1.31(0.76-2.27)
(†性別,年齢,BMI,24時間MAP,喫煙,飲酒,糖尿病,心血管疾患既往,PP[AASIの解析のみ],AASI[PPの解析のみ])
以上の結果は,感度分析(男女別の解析,降圧薬服用者を除外した解析,心血管疾患または糖尿病既往者を除外した解析,診察室血圧により調整した解析など)を行っても変わらなかった。
◇ 結論
24時間自由行動下血圧を用いて算出した動脈壁の硬化の指標(AASI: 24時間にわたる拡張期血圧と収縮期血圧との動的な関連を示す)と,心血管疾患死亡,脳卒中死亡との関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究における検討を行った。13.3年間(中央値)の追跡の結果,AASIと心血管疾患死亡リスクおよび脳卒中死亡リスクはいずれもU字型の関連を示し,この関連は24時間平均動脈圧,24時間脈圧や種々の心血管危険因子で調整しても同様であった。24時間脈圧と心血管疾患死亡リスクおよび脳卒中死亡リスクとの関連は,多変量調整を行うと消失した。