[2008年文献] 仮面高血圧はCKDの有病率と有意に関連
心血管疾患発症・死亡リスクが持続性高血圧と同程度に高いとされる仮面高血圧と慢性腎臓病(CKD)との関連について検討するため,日本人一般住民を対象としたコホート研究の断面解析により,診察室血圧と家庭血圧による血圧カテゴリーごとのCKD有病率を比較した。その結果,クレアチニンクリアランス低値(<60 mL/分)と蛋白尿をあわせもつリスクは,仮面高血圧ならびに持続性高血圧の人で持続性正常血圧の人に比して有意に高くなっていたが,白衣高血圧の人ではリスク増加はみられなかった。この結果から,仮面高血圧は持続性高血圧と同様にCKDと強く関連しており,CKDの早期発見のために家庭血圧測定が有用であることが示唆された。
Terawaki H, et al. Masked hypertension determined by self-measured blood pressure at home and chronic kidney disease in the Japanese general population: the ohasama study. Hypertens Res. 2008; 31: 2129-35.
- コホート
- 1992~1997年の健診を受診した35歳以上の2192人のうち,血清クレアチニン,試験紙法によるスポット尿検査および交絡因子のデータに不備があった215人,入院中/精神障害/寝たきりの185人,家庭血圧測定日数14日未満または血尿のあった427人を除いた1365人(断面解析)。
参加率62%。
随時血圧(CBP)および家庭血圧(HBP)により,対象者を以下のとおり,持続性正常血圧,白衣高血圧,仮面高血圧,持続性高血圧のいずれかのカテゴリーに分類した。
・持続性正常血圧(SNBP): CBP 140 / 90mmHg未満かつHBP 135 / 85mmHg未満
・白衣高血圧(WCHT): CBP 140 / 90mmHg以上かつHBP 135 / 85mmHg未満
・仮面高血圧(MHT): CBP 140 / 90mmHg未満かつHBP 135 / 85mmHg以上
・持続性高血圧(SHT): CBP 140 / 90mmHg以上かつHBP 135 / 85mmHg以上 - 結 果
- ◇ 対象背景
年齢63.0歳,男性32.5%,BMI 23.4 kg/m2,尿蛋白陽性92人(6.7%),推算クレアチニン値60.9 mL/分,現在喫煙率12.5%,降圧薬服用率31.0%,心血管疾患既往5.3%,糖尿病既往10.4%,高脂血症既往31.6%。
家庭血圧の平均測定回数は26.0回で,家庭血圧の平均値は124 / 75 mmHg,随時血圧の平均値は130 / 72 mmHg。
持続性正常血圧(SNBP)は823人(60.3%),白衣高血圧(WCHT)は203人(14.9%),仮面高血圧(MHT)は175人(12.8%),持続性高血圧(SHT)は164人(12.0%)であった。
血圧カテゴリー間で対象背景を比較すると,SNBPに比し,MHTおよびSHTの人では推算クレアチニンクリアランス(CCr)が有意に低く,CCr<60 mL/分の割合,蛋白尿をの割合,CCr<60 mL/分と蛋白尿をあわせもつ割合が有意に高くなっていた。
◇ 血圧カテゴリーと慢性腎臓病(CKD)
各血圧カテゴリーにおける,CCr<60 mL/分+蛋白尿の多変量調整オッズ比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,MHTおよびSHTで有意にリスクが高くなっていたが,WCHTではSNBPとの有意差はなかった(*P<0.05 vs. SNBP)。
(†年齢,性,BMI,現在喫煙,糖尿病,高脂血症,降圧薬治療,心血管疾患既往で調整)
SNBP: 1(対照)
WCHT: 1.23(0.47-3.23)
MHT: 2.56(1.11-5.93)*
SHT: 3.60(1.63-7.97)*
降圧薬服用の有無ごとにみた結果は以下のとおりで,MHTおよびSHTでは服用の有無を問わず,降圧薬を服用していないSNBPに比してCCr<60 mL/分+蛋白尿のリスクが有意に高くなっていた。WCHTでは,降圧薬の服用の有無を問わず,有意なリスク増加はみられなかった(*P<0.05 vs. 降圧薬非服用のSNBP)。
・降圧薬非服用者
SNBP: 1(対照)
WCHT: 1.01(0.22-4.63)
MHT: 3.72(1.23-11.25)*
SHT: 5.69(2.12-15.26)*
・降圧薬服用者
SNBP: 2.24(0.80-6.27)
WCHT: 2.29(0.71-7.41)
MHT: 3.21(1.13-9.13)*
SHT: 4.18(1.51-11.52)*
以上の結果は,2日間のHBPを用いた解析を行っても同様であった。
◇ 結論
心血管疾患発症・死亡リスクが持続性高血圧と同程度に高いとされる仮面高血圧と慢性腎臓病(CKD)との関連について検討するため,日本人一般住民を対象としたコホート研究の断面解析により,診察室血圧と家庭血圧による血圧カテゴリーごとのCKD有病率を比較した。その結果,クレアチニンクリアランス低値(<60 mL/分)と蛋白尿をあわせもつリスクは,仮面高血圧ならびに持続性高血圧の人で持続性正常血圧の人に比して有意に高くなっていたが,白衣高血圧の人ではリスク増加はみられなかった。この結果から,仮面高血圧は持続性高血圧と同様にCKDと強く関連しており,CKDの早期発見のために家庭血圧測定が有用であることが示唆された。