[2009年文献] 家庭血圧の各指標のうち,脳卒中発症リスクとの関連が強いのはSBP

脈圧(PP)は,その他の血圧指標にくらべて脳卒中リスクとの関連が弱いことが指摘されているが,これまでの検討はいずれも随時血圧を用いたものだったことから,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,家庭血圧測定による収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP),PPおよび平均血圧(MBP)と脳卒中発症リスクとの関連を比較した。その結果,家庭血圧によるPPと脳卒中発症リスクとの関連は強くはないことが示されたが,各指標と脳卒中発症リスクとの関連は,病型により異なる可能性がある。家庭SBPは脳卒中との強い関連を示したことから,もっとも有用な指標と考えられた。

Inoue R, et al. Stroke risk of blood pressure indices determined by home blood pressure measurement: the Ohasama study. Stroke. 2009; 40: 2859-61.pubmed

コホート
35歳以上の大迫町住民のうち,脳卒中の既往がなく,朝の家庭血圧を3回以上および随時血圧を1回以上測定した2369人を,2004年12月31日まで平均11.7年間追跡。
平均年齢は59.2歳,男性の割合は40%。

家庭血圧と随時血圧のそれぞれによる収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧,脈圧の計8つの指標について検討した。
結 果
脳卒中を発症したのは238人。
うち虚血性脳卒中は169人,出血性脳卒中は69人であった。

脳卒中発症者では,ベースライン時の8つの血圧指標(家庭血圧および随時血圧のそれぞれによる収縮期血圧[SBP],拡張期血圧[DBP],平均血圧[MBP],脈圧[PP])のいずれも,非発症者にくらべて有意に高い値を示していた(すべてP<0.001)。
虚血性脳卒中発症者と出血性脳卒中発症者との比較では,ベースライン時のいずれの血圧指標についても有意差はみられなかった。

◇ 全脳卒中
各血圧指標の1 SD増加あたりの全脳卒中発症の多変量調整相対ハザード(95%信頼区間)は以下のとおりで,全脳卒中発症リスクともっとも強い関連を示したのは家庭SBPおよび家庭MBP,その次に強い関連を示したのは家庭DBPだった。家庭PPと全脳卒中発症リスクとの関連は弱かった。
随時血圧による血圧指標は,いずれも全脳卒中発症リスクと弱い関連を示した。
年齢,性別,喫煙,降圧薬服用,心疾患既往,糖尿病,高脂血症で調整)
家庭SBP: 1.48(1.28-1.70)
   家庭DBP: 1.34(1.17-1.54)
   家庭MBP: 1.44(1.25-1.66)
   家庭PP: 1.29(1.13-1.46)
   随時SBP: 1.19(1.05-1.34)
   随時DBP: 1.18(1.04-1.34)
   随時MBP: 1.21(1.06-1.37)
   随時PP: 1.10(0.97-1.24)

家庭血圧による各指標を2つずつ選び,片方を含むモデルにもう片方を含めた場合の尤度比(χ2値)を比較すると,DBPおよびPP(いずれも3.8以下,P≧0.05)にくらべ, SBPおよびMBPのχ2値が高くなっていた(いずれも11.8以上, P<0.01)。SBPとMBPの比較では, SBPのほうがχ2値が高かったが有意差はみられなかった。また, DBPとPPのχ2値の有意差はみられなかった。

◇ 虚血性脳卒中
各血圧指標の1 SD増加あたりの虚血性脳卒中発症の多変量調整相対ハザード(95%信頼区間)は以下のとおりで,虚血性脳卒中発症リスクともっとも強い関連を示したのは家庭SBPで,その次に強い関連を示したのは家庭MBPだった。家庭DBPと家庭PPの虚血性脳卒中発症リスクとの関連は弱かった。
  家庭SBP: 1.44(1.22-1.70)
  家庭DBP: 1.28(1.09-1.51)
  家庭MBP: 1.38(1.17-1.63)
  家庭PP: 1.29(1.11-1.50)
  随時SBP: 1.17(1.01-1.35)
  随時DBP: 1.16(1.00-1.34)
  随時MBP: 1.18(1.02-1.37)
  随時PP: 1.09(0.94-1.26)

家庭血圧による各指標を2つずつ選び,片方を含むモデルにもう片方を含めた場合の尤度比(χ2値)を比較すると,DBPおよびPPに比して, SBPおよびMBPのχ2値は有意に高くなっていたが,SBPとMBPのあいだに有意差はみられなかった。DBPとPPの比較では,PPのほうがχ2値が高かったが有意差はみられなかった。

◇ 出血性脳卒中
各血圧指標の1 SD増加あたりの出血性脳卒中発症の多変量調整相対ハザード(95%信頼区間)は以下のとおりで,家庭SBP,家庭DBP,および家庭MBPの出血性脳卒中発症リスクとの関連は同じくらい強かった。
  家庭SBP: 1.59(1.22-2.07)
  家庭DBP: 1.52(1.18-1.96)
  家庭MBP: 1.60(1.23-2.08)
  家庭PP: 1.27(0.98-1.63)
  随時SBP: 1.23(0.99-1.55)
  随時DBP: 1.24(0.98-1.57)
  随時MBP: 1.27(1.01-1.59)
  随時PP: 1.11(0.88-1.39)

家庭血圧による各指標を2つずつ選び,片方を含むモデルにもう片方を含めた場合の尤度比(χ2値)を比較すると,SBP,DBP,MBPのあいだに有意差はみられなかったが,これらはいずれもPPのχ2値にくらべて有意に高かった。

◇ 結論
脈圧(PP)は,その他の血圧指標にくらべて脳卒中リスクとの関連が弱いことが指摘されているが,これまでの検討はいずれも随時血圧を用いたものだったことから,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,家庭血圧測定による収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP),PPおよび平均血圧(MBP)と脳卒中発症リスクとの関連を比較した。その結果,家庭血圧によるPPと脳卒中発症リスクとの関連は強くはないことが示されたが,各指標と脳卒中発症リスクとの関連は,病型により異なる可能性がある。家庭SBPは脳卒中との強い関連を示したことから,もっとも有用な指標と考えられた。


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