[2010年文献] 腎機能低下は無症候性ラクナ梗塞リスクと関連

腎機能低下と無症候性ラクナ梗塞リスクおよび大脳白質病変リスクについて,24時間自由行動下血圧とは独立した関連がみられるかどうか検討した研究はこれまでにない。そこで日本人一般住民を対象とした断面研究を実施した結果,クレアチニンクリアランスにより評価した腎機能低下は,24時間自由行動下血圧を含むいくつかの心血管疾患危険因子とは独立して,ラクナ梗塞リスクと強く関連することが示された。この結果から,高齢者における腎機能低下は,無症候性ラクナ梗塞の危険因子や予測因子となる可能性が示唆された。

Otani H, et al. Association of Kidney Dysfunction with Silent Lacunar Infarcts and White Matter Hyperintensity in the General Population: The Ohasama Study. Cerebrovasc Dis. 2010; 30: 43-50.pubmed

コホート
55歳以上の大迫町住民3077人のうち,研究実施時間に在宅していない人,入院中・精神障害または寝たきりの人,同意が得られなかった人,血圧および血清クレアチニン値が適切に測定されなかった人,脳卒中または一過性脳虚血発作の既往のある人を除いた1008人(断面解析)。

対象者に脳MRIを行い,無症候性ラクナ梗塞(梗塞なし/1~2か所の梗塞/3か所以上の梗塞)および大脳白質病変(グレード0/グレード1/グレード2または3)の診断を行った。
腎機能の評価には,Cockcroft-Gaultの式により算出した推算クレアチニンクリアランス(CCr)を用いた。
結 果
◇ 対象背景
年齢66.4歳,女性67.3%,平均BMI 23.6 kg/m2,24時間自由行動下血圧125.3 / 72.7 mmHg,随時血圧140.7 / 77.8 mmHg,喫煙経験者19.4%,飲酒経験者27.4%,降圧薬治療者39.3%,高脂血症既往6.2%,糖尿病既往15.8%,心血管疾患既往12.4%。
血清クレアチニンは0.84 mg/dL,推算クレアチニンクリアランス(CCr)は72.6 mL/分/1.73 m2で,CCr<60 mL/分/1.73 m2の人の割合は21.2%であった。

◇ 腎機能低下とラクナ梗塞リスクとの関連
ラクナ梗塞のカテゴリー(梗塞なし/1~2か所の梗塞/3か所以上の梗塞)ごとに背景を比較した結果,梗塞が多い人ほど有意に高い値を示していたのは年齢,男性の割合,24時間自由行動下血圧(ABP),随時収縮期血圧,喫煙経験者の割合,飲酒経験者の割合,降圧薬服用者の割合,心疾患既往の割合,血清クレアチニン値,CCr<60 mL/分/1.73 m2の人の割合で,梗塞が多い人ほど有意に低い値を示していたのはCCr。

ラクナ梗塞のない人(722人)では,ある人(286人)にくらべてCCrが有意に高く,CCr<60 mL/分/1.73 m2の割合も有意に低かった(いずれもP<0.0001)。

重回帰分析により,ラクナ梗塞のリスクに関連する因子を検討した。
腎機能低下の指標としてCCr(連続変数)を用いたモデル,およびCCrが60 mL/分/1.73 m2以上または未満(二値変数)を用いたモデルの両方で検討を行ったが,いずれのモデルにおいても,ラクナ梗塞のリスクとの独立した関連を示していたのは腎機能低下,24時間収縮期血圧,性別(男性),年齢,および降圧薬服用であった。CCrの1 SD低下ごとのラクナ梗塞のオッズ比は1.22(95%信頼区間1.01-1.47,P<0.05),CCr 60 mL/分/1.73 m2未満の60 mL/分/1.73 m2以上に対するラクナ梗塞のオッズ比は1.68(1.15-2.44,P<0.05)。

腎機能低下とラクナ梗塞の関連については,24時間ABPのかわりに昼間および夜間の自由行動下血圧を用いた場合も同様の結果が得られた。
また,24時間自由行動下収縮期血圧と随時収縮期血圧の両方を含めたモデルで検討を行うと,24時間自由行動下収縮期血圧のみがラクナ梗塞との有意な関連を示していた。
腎機能低下とラクナ梗塞との関連について,年齢,性別,降圧薬服用による有意な相互作用はみとめられなかった。
MDRD(Modification of Diet in Renal Disease)式を用いて推算したCCrを用いた検討を行っても,結果は同様であった。

◇ 腎機能低下および血圧高値とラクナ梗塞リスク
腎機能低下(CCr<60 mL/分/1.73 m2)および血圧高値(24時間ABP≧130 / 80 mmHg)とラクナ梗塞リスクについて検討を行った結果,腎機能低下および血圧高値は,いずれも互いに独立してラクナ梗塞リスクと関連していることが示された。
腎機能低下と血圧高値をあわせもつ場合は,ラクナ梗塞リスクがさらに増加していた(オッズ比2.64,95%信頼区間1.51-4.61)。
また,腎機能低下を有する場合は,24時間ABPが130 / 80 mmHg未満であっても,ラクナ梗塞リスクは有意に高くなっていた(1.62,1.01-2.59)。
ラクナ梗塞リスクに対して,腎機能低下と24時間ABPとの有意な相互作用はみとめられなかった(相互作用のP=0.25)ことから,この2つはラクナ梗塞に対して相加的な影響をもつと考えられた。

◇ 腎機能低下と白質病変との関連
白質病変のカテゴリー(グレード0/グレード1/グレード2または3)ごとに背景を比較した結果,白質病変のグレードと有意な関連を示していたのは年齢,男性の割合,24時間血圧,降圧薬服用者の割合,心疾患既往の割合,血清クレアチニン値,CCr,およびCCr<60 mL/分/1.73 m2の人の割合であった。
重回帰分析を行った結果,腎機能低下の指標としてCCr(連続変数)を用いたモデル,およびCCrが60 mL/分/1.73 m2以上または未満(二値変数)を用いたモデルのいずれにおいても,腎機能と白質病変リスクとの有意な関連はみられなかった。


◇ 結論
腎機能低下と無症候性ラクナ梗塞リスクおよび大脳白質病変リスクについて,24時間自由行動下血圧とは独立した関連がみられるかどうか検討した研究はこれまでにない。そこで日本人一般住民を対象とした断面研究を実施した結果,クレアチニンクリアランスにより評価した腎機能低下は,24時間自由行動下血圧を含むいくつかの心血管疾患危険因子とは独立して,ラクナ梗塞リスクと強く関連することが示された。この結果から,高齢者における腎機能低下は,無症候性ラクナ梗塞の危険因子や予測因子となる可能性が示唆された。


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