[2012年文献] 無症候性脳血管病変は夜間ABPと,頸動脈硬化は家庭血圧と関連が強い
一般住民を対象に,24時間自由行動下血圧(ABP),家庭血圧,および診察室血圧と無症候性脳血管疾患との関連を検討したはじめての研究である。その結果,脳MRIでみた無症候性脳血管病変(SCL)ともっとも強い関連を示していたのは夜間ABPで,超音波でみた頸動脈硬化ともっとも強い関連を示していたのは家庭血圧であった。ABPと家庭血圧は,いずれも高血圧性の心血管疾患の評価に非常に有用だが,それぞれのリスク予測能は臓器によって異なる可能性があり,今後,前向き研究によるさらなる検討が必要である。
Hara A, et al. Ambulatory versus home versus clinic blood pressure: the association with subclinical cerebrovascular diseases: the Ohasama Study. Hypertension. 2012; 59: 22-8.
- コホート
- 1998年に健診を受診し,24時間自由行動下血圧,家庭血圧および随時血圧の測定を実施し,頭部MRI検査を受けた55歳以上の大迫町住民1007人(断面解析)。
頭部MRI検査において,グレード1以上の大脳白質病変,またはラクナ梗塞の所見がみられた場合に「無症候性脳血管病変(SCL)あり」とした。
また,対象者のうち頸部超音波検査を受診した583人において,平均頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)>0.9 mm,または局所プラーク所見がみられた場合に「頸動脈硬化あり」とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢66.3歳,女性67.4%。
個人の24時間自由行動下血圧(ABP)の測定回数の平均は43.6回(昼間[目覚めている時間]: 28.3回,夜間[睡眠時間]: 15.3回)で,家庭血圧の測定回数は49.0回(朝:24.7回,夜: 24.2回)であった。
無症候性脳血管病変(silent cerebrovascular lesion: SCL)の有無ごとに対象背景をみると,SCLありのグループにおいて,なしのグループに比して有意に高値を示していたのは年齢,男性の割合,降圧薬服用率,心血管疾患既往の割合,24時間ABPの収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP),昼間ABPのSBPとDBP,夜間ABPのSBPとDBP,家庭血圧のSBPとDBPで,有意に低値を示していたのはBMI。
これらの結果は頸動脈硬化の有無ごとにみてもおおむね同様で,頸動脈硬化ありのグループでは,なしのグループよりもすべてのABPおよび家庭血圧の値が有意に高かった(昼間ABPのDBPを除く)。
◇ 各血圧指標とSCL
多重ロジスティック回帰分析における,各血圧指標(いずれもSBP)の1 SD増加あたりのSCLの多変量調整オッズ比†(95%信頼区間)の増加率は以下のとおりで,24時間ABP,昼間ABP,夜間ABP,家庭血圧はいずれもSCLリスクとの有意な関連を示していたが,診察室血圧ではSCLとの関連はみられなかった。
(†年齢,性,BMI,喫煙,飲酒,降圧薬服用,心血管疾患既往,心房細動,高脂血症,糖尿病で調整)
24時間ABP: 32%(14%-53%)
昼間ABP: 26%(9%-46%)
夜間ABP: 36%(17%-58%)
家庭血圧: 22%(4%-42%)
診察室血圧: 1%(-12%-17%)
24時間ABP,昼間ABPまたは夜間ABPのいずれかと家庭血圧を同時に含めた解析を行ったところ,家庭血圧とSCLとの関連は有意ではなくなったが,いずれのABPについてもSCLとの有意な関連は維持された。
昼間ABPと夜間ABPを同時に含めた解析では,SCLとの関連は夜間ABPのほうが強く,昼間ABPとSCLとの関連は有意ではなくなった。
24時間ABP,昼間ABP,夜間ABPまたは家庭血圧のいずれかと随時/診察室血圧を同時に含めた解析でも,随時/診察室血圧とSCLとの有意な関連はみとめられなかった。
以上の結果は,SCLを大脳白質病変とラクナ梗塞とに分けた解析を行っても同様であった。
また,SBPのかわりにDBPを用いた解析を行っても同様の結果がみとめられた。
降圧薬服用の有無による有意な相互作用はみられなかった。
さらに昼間ABP(SBP)の変動性,夜間ABP(SBP)の変動性,夜間降圧,モーニングサージのそれぞれについても検討した結果,いずれもSCLとの有意な関連はみられなかった。
24時間自由行動下心拍数,昼間の自由行動下心拍数,夜間の自由行動下心拍数,家庭心拍数,および随時/診察室心拍数は,いずれもSCLとの有意な関連を示してなかった。
◇ 各血圧指標と頸動脈硬化
多重ロジスティック回帰分析における,各血圧指標(いずれもSBP)の1 SD増加あたりの頸動脈硬化の多変量調整オッズ比†(95%信頼区間)の増加率は以下のとおりで,24時間ABP,昼間ABP,夜間ABP,家庭血圧はいずれも頸動脈硬化リスクとの有意な関連を示していたが,診察室血圧では頸動脈硬化との関連はみられなかった。
24時間ABP: 43%(17%-76%)
昼間ABP: 38%(13%-68%)
夜間ABP: 38%(13%-69%)
家庭血圧: 54%(23%-92%)
診察室血圧: 15%(-5%-39%)
24時間ABP,昼間ABPまたは夜間ABPのいずれかと家庭血圧を同時に含めた解析を行ったところ,頸動脈硬化との関連は,どのABPに対しても家庭血圧のほうが優れていた。
昼間ABPと夜間ABPを同時に含めた解析の結果,両者の頸動脈硬化との関連は同程度であった。
24時間ABP,昼間ABP,夜間ABPまたは家庭血圧のいずれかを含めた解析でも,診察室血圧と頸動脈硬化との有意な関連はみとめられなかった。
以上の結果は,SBPのかわりにDBPを用いた解析を行っても同様であった。
また,降圧薬服用の有無による有意な相互作用はみられなかった。
さらに昼間ABP(SBP)の変動性,夜間ABP(SBP)の変動性,夜間降圧,モーニングサージのそれぞれについても検討した結果,夜間ABPの変動性についてのみ,1 SDの増加が頸動脈硬化の多変量調整オッズ比の有意な増加と関連していた。ただし,このモデルに夜間ABP(SBP)を含めると,夜間ABPの変動性と頸動脈硬化との関連は有意ではなくなった。
24時間自由行動下心拍数,昼間の自由行動下心拍数,夜間の自由行動下心拍数,家庭心拍数,および診察室心拍数は,いずれも頸動脈硬化との有意な関連を示していなかった。
◇ 結論
一般住民を対象に,24時間自由行動下血圧(ABP),家庭血圧,および診察室血圧と無症候性脳血管疾患との関連を検討したはじめての研究である。その結果,脳MRIでみた無症候性脳血管病変(SCL)ともっとも強い関連を示していたのは夜間ABPで,超音波でみた頸動脈硬化ともっとも強い関連を示していたのは家庭血圧であった。ABPと家庭血圧は,いずれも高血圧性の心血管疾患の評価に非常に有用だが,それぞれのリスク予測能は臓器によって異なる可能性があり,今後,前向き研究によるさらなる検討が必要である。