[2013年文献] 夜間の自由行動下血圧はCKD発症の予測因子
自由行動下で測定した血圧と慢性腎臓病(CKD)発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究による検討を行った。その結果,昼間の血圧にかかわらず,夜間の血圧はCKD発症の有意な予測因子であることがはじめて示された。自由行動下血圧の測定は,血圧管理ならびにCKD発症リスクの評価に有用と考えられる。
Kanno A, et al. Night-time blood pressure is associated with the development of chronic kidney disease in a general population: the Ohasama Study. J Hypertens. 2013; 31: 2410-7.
- コホート
- 1992~1997年の健診(ベースライン)ならびに2002~2010年の健診(追跡)を受診した40歳以上の2528人のうち,研究参加への同意が得られなかった55人,ベースライン時に慢性腎臓病(CKD)を有していた322人(蛋白尿91人,推算糸球体濾過量60mL/min/1.73 m2未満231人),ベースライン時の自由行動下血圧値が得られていない1293人,自由行動下血圧測定回数が昼間12回未満または夜間6回未満の14人を除外した843人。
追跡期間は8.3年間(中央値)。
血清クレアチニン値を用いて日本人向けの式により推算した糸球体濾過量が60 mL/min/1.73 m2未満,または試験紙法による蛋白尿が陽性の場合にCKDと診断した。 - 結 果
- ◇ 対象背景
年齢62.9歳,女性71.3%,降圧薬服用率23.7%,高脂血症28.6%,糖尿病12.9%,心血管疾患既往4.3%,推算糸球体濾過量(eGFR)81.1 mL/min/1.73 m2。
◇ 自由行動下血圧(ABP)の各指標とCKD発症リスク,およびCKD発症+全死亡リスク
追跡期間中に慢性腎臓病(CKD)を発症したのは220人。
うちeGFR<60 mL/min/1.73 m2のみを満たしていたのは151人(69%),蛋白尿陽性のみを満たしていたのは42人(19%),両方を満たしていたのは27人(12%)。
また,追跡期間中に152人が死亡した。
各血圧指標の1 SD増加あたりのCKD発症,ならびにCKD発症+全死亡の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,いずれについても,夜間ABP(収縮期血圧[SBP],拡張期血圧[DBP]とも)とリスク増加との有意な関連がみとめられた。24時間ABP,昼間ABP,および随時血圧については,SBP・DBPを問わず,CKD発症,CKD発症+全死亡のいずれのリスクとも有意な関連はみられなかった(24時間ABPのSBPを除く)(*P<0.05,**P<0.03)。
(†性別,年齢,BMI,喫煙,飲酒,糖尿病,高脂血症,心血管疾患既往,降圧薬服用,ベースラインのeGFR,追跡健診受診回数,ベースライン健診受診年で調整)
・CKD発症
24時間 ABPSBP[+12.5 mmHg]: 1.16(1.00-1.34)*
昼間ABPSBP[+13.5 mmHg]: 1.13(0.97-1.30)
夜間ABPSBP[+13.3 mmHg]: 1.21(1.04-1.39)**
随時血圧SBP[+16.3 mmHg]: 1.12(0.97-1.29)
24時間ABPDBP[+7.5 mmHg]: 1.15(0.99-1.33)
昼間ABPDBP[+8.2 mmHg]: 1.11(0.96-1.29)
夜間ABPDBP[+7.6 mmHg]: 1.20(1.04-1.39)**
随時血圧DBP[+10.6 mmHg]: 1.09(0.95-1.25)
・CKD発症+全死亡
24時間ABPSBP: 1.09(0.97-1.23)
昼間ABPSBP: 1.06(0.95-1.20)
夜間ABPSBP: 1.14(1.02-1.27)**
随時血圧SBP: 1.10(0.98-1.23)
24時間ABPDBP: 1.09(0.98-1.24)
昼間ABPDBP: 1.07(0.95-1.20)
夜間ABPDBP: 1.16(1.03-1.29)**
随時血圧DBP: 1.07(0.96-1.19)
昼間ABP(SBP)と夜間ABP(SBP)の両者を含めた解析を行っても,夜間ABP(SBP)はCKD発症,およびCKD発症+全死亡リスクとの有意な関連は維持された。この結果は,DBPについても同様であった。
昼間ABPと夜間ABPの共線性(collinearity)が存在するかどうかについて,分散拡大要因(variance inflation factor: VIF)を算出して検討したところ,VIFはいずれも<2.4と小さく,多重共線性はないと考えられた。
夜間降圧度,ならびにノンディッパーの有無についても解析を行ったが,いずれもCKD発症リスク,CKD発症+全死亡リスクとは関連していなかった。
夜間ABP(SBP)とCKD発症リスク,ならびにCKD発症+全死亡リスクとの関連について,性別,年齢層(60歳未満/以上),降圧薬服用の有無による層別化解析を行ったが,いずれのサブグループでも同様の結果が得られ,有意な相互作用はなかった。
また,Jaffe法により測定した血清クレアチニン値を酵素法での値に対応させるために0.234 mg/dLを引いた値を用いて行った解析でも,結果は同様であった。さらに,eGFRの推算にCKD-EPI式を用いた解析でも,おもな結果は変わらなかった。
◇ 夜間ABPとCKD発症リスク,およびCKD発症+全死亡リスク
対象者を夜間ABP(SBP)値の三分位により3つのカテゴリーに分け,CKD発症ならびにCKD発症+全死亡の多変量調整ハザード比†との関連を検討した結果は以下のとおりで,いずれも,もっとも値の低いカテゴリーに比し,もっとも値の高いカテゴリーで有意なリスク増加がみとめられた。
・CKD発症
<102 mmHg: 1(対照)
103~115 mmHg: 1.26(95%信頼区間0.88-1.81)
≧116 mmHg: 1.46(1.14-2.37),P<0.01
・CKD発症+全死亡
<102 mmHg: 1(対照)
103~115 mmHg: 1.26(0.94-1.69)
≧116 mmHg: 1.46(1.09-1.96),P<0.02
◇ 結論
自由行動下で測定した血圧と慢性腎臓病(CKD)発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究による検討を行った。その結果,昼間の血圧にかかわらず,夜間の血圧はCKD発症の有意な予測因子であることがはじめて示された。自由行動下血圧の測定は,血圧管理ならびにCKD発症リスクの評価に有用と考えられる。