[2016年文献] 家庭血圧と自由行動下血圧の両方の測定による「部分白衣高血圧」は,脳卒中リスクと有意に関連
白衣高血圧は,診察室のみでみられる高血圧として特徴づけられるが,その予後についてはまだ一致した見解がなく,白衣高血圧の診断に家庭血圧値を用いた場合と24時間自由行動下血圧を用いた場合とで予後との関連が異なるとの指摘もある。そこで,日本人一般住民を対象としたコホート研究において,診察室血圧に加えて家庭血圧と24時間自由行動下血圧の両方を測定し,両者で高血圧がみられる場合(完全白衣高血圧)や一方のみで高血圧がみられる場合(部分白衣高血圧)も含めて脳卒中発症リスクとの関連を検討した。17.1年間(中央値)の追跡の結果,部分白衣高血圧の人では,仮面高血圧や持続性高血圧と同程度まで脳卒中発症リスクが有意に高くなっていたが,完全白衣高血圧の人ではリスク増加はみられなかった。以上の結果から,脳卒中リスクを正確に評価するためには,家庭血圧測定と24時間自由行動下血圧の両方を測定する必要があると考えられる。
Satoh M, et al. Long-Term Stroke Risk Due to Partial White-Coat or Masked Hypertension Based on Home and Ambulatory Blood Pressure Measurements: The Ohasama Study. Hypertension. 2016; 67: 48-55.
- コホート
- 1988~1995年の健診を受診した,日中に在宅していて体に不自由のない35歳以上の3092人(参加率84.7%)のうち,脳卒中既往のある149人,家庭血圧測定期間が3日間未満の318人,24時間自由行動下血圧の測定に不備があった1049人,診察室血圧を測定していなかった60人,および診察室・家庭・自由行動下血圧の測定間隔が3年以上あった52人を除いた1464人(降圧薬服用者461人を含む)を,2010年11月30日まで17.1年間(中央値)追跡。
家庭血圧での高血圧(≧135 / 85 mmHg),24時間自由行動下血圧での高血圧(≧130 / 80 mmHg),および診察室血圧での高血圧(≧140 / 90 mmHg)の有無によって,対象者を以下の6つのカテゴリーに分類した。
・持続性正常血圧: 家庭高血圧なし・24時間自由行動下高血圧なし・診察室高血圧なし
・白衣高血圧(完全[complete]): なし・なし・あり
・白衣高血圧(部分[partial]): あり・なし・あり,もしくは,なし・あり・あり
・仮面高血圧(部分): あり・なし・なし,もしくは,なし・あり・なし
・仮面高血圧(完全): あり・あり・なし
・持続性高血圧: あり・あり・あり
24時間自由行動下血圧のかわりに昼間の自由行動下血圧を用いる場合は,高血圧の定義を≧135 / 85 mmHgとし,夜間の自由行動下血圧を用いる場合は≧120 / 70 mmHgとした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢60.6歳,男性31.8%。
持続性正常血圧は53.0%,白衣高血圧(完全)は9.4%,白衣高血圧(部分)は8.0%,仮面高血圧(部分)は12.3%,仮面高血圧(完全)は6.8%,持続性高血圧は10.5%であった。
年齢,降圧薬服用率,測定法ごとの血圧値,BMI,男性の割合,喫煙率,飲酒率,および心血管疾患既往歴の割合は,6つのカテゴリー間で有意に異なっていた(いずれも分散分析のP≦0.04)。
◇ 血圧のカテゴリーと脳卒中の累積発症率
追跡期間中に脳卒中をはじめて発症したのは212人で,うち脳梗塞が156人,脳内出血が41人,くも膜下出血が13人,その他の病型が2人であった。
持続性正常血圧カテゴリーの人では,そのほかのすべてのカテゴリーに対し,脳卒中の累積発症率が有意に低かった(P<0.0001)。
また,白衣高血圧(部分)カテゴリーにおける脳卒中累積発症率には,仮面高血圧(部分)(P=1.0),仮面高血圧(完全)(P=1.0),および持続性高血圧(P=0.3)のいずれとも有意差がみられなかったが,白衣高血圧(完全)にくらべると高めだった(P=0.07)。
◇ 血圧のカテゴリーと脳卒中発症リスク
血圧カテゴリーごとにみた脳卒中発症の多変量調整ハザード比†は以下のとおりで,白衣高血圧(完全)を除くすべてのカテゴリーで,持続性正常血圧に比した有意なリスク増加がみとめられた(*P<0.05)。
(†性,年齢,BMI,喫煙,飲酒,糖尿病,総コレステロール,心血管疾患既往および降圧薬服用で調整)
持続性正常血圧: 1.00(対照)
白衣高血圧(完全): 1.38(0.82-2.32)
白衣高血圧(部分): 2.16(1.36-3.43)*
仮面高血圧(部分): 2.08(1.37-3.16)*
仮面高血圧(完全): 2.05(1.24-3.41)*
持続性高血圧: 2.46(1.61-3.77)*
白衣高血圧(部分)のうち,家庭高血圧あり・24時間自由行動下高血圧なしの人の多変量調整ハザード比†(vs. 持続性正常血圧)は1.84(95%信頼区間1.02-3.33),家庭高血圧なし・24時間自由行動下高血圧ありの人では2.65(1.47-4.79)であった。
また,仮面高血圧(部分)のうち,家庭高血圧あり・24時間自由行動下高血圧なしの人の多変量調整ハザード比†(vs. 持続性正常血圧)は2.26(95%信頼区間1.32-3.89),家庭高血圧なし・24時間自由行動下高血圧ありの人では1.93(1.15-3.24)であった。
以上の結果に,性・年齢(65歳未満/以上)・降圧薬服用の有無による相互作用はみとめられなかった。
また,以上の結果は,ベースラインから5年以内の脳卒中発症を除外した解析でも同様であった。
◇ 昼間および夜間の自由行動下血圧を用いた解析
24時間自由行動下血圧のかわりに昼間および夜間の自由行動下血圧を用いて6つのカテゴリー分類を行い,脳卒中発症の多変量調整オッズ比†を比較した結果は以下のとおりで,いずれも24時間自由行動下血圧を用いた場合の結果と同様であった。
・昼間の自由行動下血圧を用いた場合
持続性正常血圧: 1.00(対照)
白衣高血圧(完全): 1.51(0.89-2.55)
白衣高血圧(部分): 1.92(1.19-3.09)*
仮面高血圧(部分): 2.02(1.33-3.06)*
仮面高血圧(完全): 2.25(1.36-3.72)*
持続性高血圧: 2.71(1.77-4.16)*
・夜間の自由行動下血圧を用いた場合
持続性正常血圧: 1.00(対照)
白衣高血圧(完全): 1.63(0.99-2.68)
白衣高血圧(部分): 1.88(1.17-3.01)*
仮面高血圧(部分): 1.86(1.23-2.83)*
仮面高血圧(完全): 2.05(1.24-3.39)*
持続性高血圧: 2.39(1.55-3.69)*
■ 結論
白衣高血圧は,診察室のみでみられる高血圧として特徴づけられるが,その予後についてはまだ一致した見解がなく,白衣高血圧の診断に家庭血圧値を用いた場合と24時間自由行動下血圧を用いた場合とで予後との関連が異なるとの指摘もある。そこで,日本人一般住民を対象としたコホート研究において,診察室血圧に加えて家庭血圧と24時間自由行動下血圧の両方を測定し,両者で高血圧がみられる場合(完全白衣高血圧)や一方のみで高血圧がみられる場合(部分白衣高血圧)も含めて脳卒中発症リスクとの関連を検討した。17.1年間(中央値)の追跡の結果,部分白衣高血圧の人では,仮面高血圧や持続性高血圧と同程度まで脳卒中発症リスクが有意に高くなっていたが,完全白衣高血圧の人ではリスク増加はみられなかった。以上の結果から,脳卒中リスクを正確に評価するためには,家庭血圧測定と24時間自由行動下血圧の両方を測定する必要があると考えられる。