[2016年文献] 高次生活機能(とくに知的活動)の低下は脳卒中の予測因子
脳卒中発症者における生活機能の低下は,脳卒中の後遺症ととらえられがちだが,その一部は脳卒中発症前にすでに生じていると考えられる。なかでも,社会的に自立した生活を送るために必要な高次生活機能の低下が脳卒中の予測因子となるかどうかについては,まだ十分に検討されていない。そこで,基本的な日常生活動作(ADL)に問題のない日本人一般住民を対象に,高次生活機能の低下と脳卒中の初発リスクとの関連を,前向きコホート研究により検討した。平均10.4年間の追跡の結果,高次生活機能の低下は,脳卒中の初発リスクと有意に関連していた。3つのサブスケール(手段的ADL,知的活動,社会的役割)のなかでは,知的活動の低下のみが脳卒中の初発リスクと関連したが,75歳以上の人では社会的役割の低下も脳卒中リスクと関連していた。以上の結果より,基本的なADLのみならず,高次生活機能の低下にも注意することが,脳卒中の発症予防に有用である可能性がある。
Murakami K, et al. Impaired Higher-Level Functional Capacity as a Predictor of Stroke in Community-Dwelling Older Adults: The Ohasama Study. Stroke. 2016; 47: 323-8.
- コホート
- 1998年2月1日~3月28日に健診を受診した60歳以上の2348人(参加率89.8%)のうち,脳卒中既往のある236人,基本的な日常生活動作(ADL)に関する質問票への回答に不備のあった183人,基本的なADLを独立して行えない115人,高次生活機能(higher-level functional capacity)レベルに関するデータに不備のあった289人を除く1525人。
追跡健診への参加を拒否した32人を除き,2010年11月30日まで平均10.4年間追跡できた1493人(平均年齢70.1歳)を解析の対象とした。
高次生活機能の評価には,老研式活動能力指標(Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology Index of Competence: TMIG)スコア†を用い,9点以下を「低下」とした。
†手段的ADL(instrumental ADL,5点満点),知的活動(intellectual activity: 4点満点),社会的役割(social role,4点満点)の3つのサブスケールの合計(13点満点)で評価し,高得点ほど活動能力が高いことを示す。
また,TMIGの以下の3つのサブスケールについて,それぞれ満点に満たない場合に「低下」とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
ベースライン時の高次生活機能低下者は258人。
高次生活機能低下者では,非低下者にくらべて年齢,および喫煙未経験者・飲酒未経験者・身体活動の習慣のない人の割合が高く,BMIおよび高脂血症の割合が低かった。
追跡期間中に脳卒中をはじめて発症したのは191人であった(うち92.1%でCTまたはMRIによる画像診断を実施)。
◇ 高次生活機能の低下と脳卒中発症リスク
高次生活機能低下者における脳卒中発症の多変量調整ハザード比‡は,非低下者に比して1.64(95%信頼区間1.15-2.33)と有意に高かった。
(‡年齢,性,喫煙,飲酒,運動習慣,BMI,高血圧,糖尿病,高脂血症,および心疾患で調整)
高次生活機能の3つのサブスケールについてみた結果は以下のとおりで,知的活動の低下者でのみ,有意な脳卒中発症リスクの増加がみとめられた。
手段的ADLの低下: 1.32(0.91-1.93)
知的活動の低下: 1.64(1.21-2.22)
社会的役割の低下: 1.25(0.91-1.71)
◇ 層別解析
年齢,性,および高血圧の有無による層別解析を行った結果は以下のとおり。
・年齢(60~74歳/75歳以上): 60~74歳では,高次生活機能の低下者,および知的活動の低下者において,それぞれ非低下者に比した有意な脳卒中発症リスクの増加がみられた。75歳以上では,社会的役割の低下者でのみ,有意な脳卒中発症リスクの増加がみられた。
・性: 男性では,高次生活機能の低下者,および3つのサブスケールの低下者のいずれにおいても,脳卒中発症リスクに非低下者との有意差はみられなかった。女性では,高次生活機能の低下者および知的活動の低下者において,有意な脳卒中発症リスクの増加がみられた。
・高血圧の有無: 高血圧有病者では,高次生活機能の低下者,および知的活動の低下者において,それぞれ非低下者に比した有意な脳卒中発症リスクの増加がみられた。高血圧非有病者では,手段的ADLの低下者でのみ,有意な脳卒中発症リスクの増加がみられた。
◇ 結論
脳卒中発症者における生活機能の低下は,脳卒中の後遺症ととらえられがちだが,その一部は脳卒中発症前にすでに生じていると考えられる。なかでも,社会的に自立した生活を送るために必要な高次生活機能の低下が脳卒中の予測因子となるかどうかについては,まだ十分に検討されていない。そこで,基本的な日常生活動作(ADL)に問題のない日本人一般住民を対象に,高次生活機能の低下と脳卒中の初発リスクとの関連を,前向きコホート研究により検討した。平均10.4年間の追跡の結果,高次生活機能の低下は,脳卒中の初発リスクと有意に関連していた。3つのサブスケール(手段的ADL,知的活動,社会的役割)のなかでは,知的活動の低下のみが脳卒中の初発リスクと関連したが,75歳以上の人では社会的役割の低下も脳卒中リスクと関連していた。以上の結果より,基本的なADLのみならず,高次生活機能の低下にも注意することが,脳卒中の発症予防に有用である可能性がある。