[2017年文献] 高血圧は,「若年高齢者」(60~74歳)でも後期高齢者(75歳以上)でも脳卒中の独立した危険因子
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究のデータを用いて,若年高齢者(young-old,60~74歳)と後期高齢者(old-old,75歳以上)における心血管危険因子と脳卒中発症リスクとの関連を,死亡による競合リスクも考慮したうえで比較した。約8~13年間の追跡の結果,高血圧は,若年高齢者でも後期高齢者でも,脳卒中の独立した危険因子であった。一方,年齢,糖尿病および最終学歴(中学卒業)は,若年高齢者の場合と異なり,後期高齢者では脳卒中の独立した危険因子とはならなかった。以上の結果は,年齢層に応じた脳卒中予防戦略の重要性を裏付けるものである。
Murakami K, et al. Risk Factors for Stroke among Young-Old and Old-Old Community-Dwelling Adults in Japan: The Ohasama Study. J Atheroscler Thromb. 2017; 24: 290-300.
- コホート
- 1998年に自己記入式質問票による調査に参加した60歳以上の2348人(参加率89.8%)のうち,脳卒中既往のある236人,追跡調査への参加を拒否した46人,およびベースライン時点での死亡があとからわかった1人を除いた2065人を,2010年11月30日まで追跡した。
追跡期間の中央値は,若年高齢者†(young-old,60~74歳)については12.8年間(16472人・年),後期高齢者(old-old,75歳以上)については7.9年間(4367人・年)。
†高齢者医療制度における前期高齢者の年齢は65~74歳。
質問票への回答に基づき,以下の心血管危険因子の保有状況と脳卒中発症リスクとの関連を検討した。
その際に用いられたCox比例ハザードモデルでは,死亡による競合リスク(competing risk)を考慮し,脳卒中を除く死因で死亡した人に重み付けした部分分布ハザード回帰モデルによる調整が行われた。
・高血圧: 過去に高血圧と診断されたことがある,または降圧薬服用中
・BMI: 自己申告された身長と体重から算出
・糖尿病・高脂血症・心疾患・腎疾患: 過去にこれらの診断を受けたことがある,または治療薬服用中
・喫煙(未経験/禁煙/現在喫煙)
・飲酒(未経験または禁酒/現在飲酒)
・婚姻状況(既婚/単身・離婚または配偶者死別)
・最終学歴(中学卒業/高校卒業以上)
・運動習慣(しない・ほとんどしない/週1~2時間/週3時間以上)
・高血圧家族歴: いずれか一方の親に高血圧既往がある場合
・脳卒中家族歴: いずれか一方の親に脳卒中既往がある場合 - 結 果
- ◇ 対象背景
若年高齢者(young-old,60~74歳)および後期高齢者(old-old,75歳以上)のおもな対象背景はそれぞれ以下のとおり。
男性の割合: 43.1%,34.1%(P<0.001)
BMI 25.0 kg/m2以上: 31.3%,22.7%(BMIに関するP<0.001)
高血圧: 43.7%,54.9%(P<0.001)
糖尿病: 13.2%,11.4%(P=0.27)
高脂血症: 13.7%,10.8%(P=0.089)
心疾患: 8.9%,15.3%(P<0.001)
腎疾患: 2.5%,5.0%(P=0.005)
現在喫煙率: 18.8%,9.6%(喫煙状況に関するP<0.001)
現在飲酒率: 34.6%,22.9%(P<0.001)
婚姻率: 79.7%,46.1%(P<0.001)
最終学歴(中学卒業): 83.1%,89.8%(P<0.001)
運動習慣(なし・ほとんどなし): 73.0%,78.4%(運動習慣に関するP=0.030)
高血圧家族歴: 20.2%,13.1%(P<0.001)
脳卒中家族歴: 29.0%,23.1%(P=0.007)
追跡期間中の死亡は,若年高齢者324人,後期高齢者371人であった。
脳卒中の初回発症はそれぞれ163人(うち致死性11.7%),111人(11.7%)であった。
◇ 若年高齢者と後期高齢者における脳卒中の危険因子の違い
すべての対象者において,脳卒中発症との関連がみられた因子(性・年齢調整後,P<0.20)は,年齢(+1 SD[7.6歳]),性別(男性),高血圧,糖尿病,心疾患,現在飲酒,および最終学歴(中学卒業)であった。
これらの因子について若年高齢者と後期高齢者に分けた層別解析を行い,脳卒中発症の多変量調整ハザード比‡(95%信頼区間)を比較した結果は以下のとおりで,高血圧は年齢層を問わず脳卒中の独立した危険因子であったが,糖尿病は,若年高齢者でのみ独立した危険因子であった。
後期高齢者では,多変量調整後も脳卒中発症リスクとの独立した関連がみられたのは高血圧のみであった。
(‡年齢,性,高血圧,糖尿病,心疾患,現在飲酒および最終学歴で調整)
・年齢(+1 SD[7.6歳]): 若年高齢者: 1.47(1.10-1.95),後期高齢者1.24(0.91-1.69),P for interaction=0.55
・性別(男性 vs. 女性): 1.14(0.77-1.69),1.13(0.74-1.73),P for interaction=0.54
・高血圧(vs. なし): 2.12(1.51-2.98),1.59(1.07-2.36),P for interaction=0.17
・糖尿病(vs. なし): 1.50(1.00-2.25),0.65(0.33-1.29),P for interaction=0.035
・心疾患(vs. なし): 1.34(0.84-2.14),1.00(0.59-1.70),P for interaction=0.29
・現在飲酒(vs. 未経験または禁酒): 1.42(0.96-2.12),0.96(0.60-1.54),P for interaction=0.18
・最終学歴(中学卒業 vs. 高校卒業以上): 1.84(1.09-3.10),1.45(0.67-3.14),P for interaction=0.68
以上の結果は,脳卒中のうち脳梗塞のみに関して行った解析でもほぼ同様で,糖尿病は,若年高齢者でのみ,独立した危険因子であった。
一方,出血性脳卒中のみに関して行った解析では,若年高齢者でのみ,現在飲酒が独立した危険因子であった。
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究のデータを用いて,若年高齢者(young-old,60~74歳)と後期高齢者(old-old,75歳以上)における心血管危険因子と脳卒中発症リスクとの関連を,死亡による競合リスクも考慮したうえで比較した。約8~13年間の追跡の結果,高血圧は,若年高齢者でも後期高齢者でも,脳卒中の独立した危険因子であった。一方,年齢,糖尿病および最終学歴(中学卒業)は,若年高齢者の場合と異なり,後期高齢者では脳卒中の独立した危険因子とはならなかった。以上の結果は,年齢層に応じた脳卒中予防戦略の重要性を裏付けるものである。