[2012年文献] インスリン抵抗性指標であるMatsuda-DeFronzo Indexは,高血圧の予測因子としてHOMA-IRより優れている
肝臓を中心としたインスリン抵抗性を示すHOMA-IRにくらべ,肝臓および骨格筋の両方のインスリン抵抗性を反映する指標であるMatsuda-DeFronzo Index(ISI-M)のほうが高血圧発症リスクの予測能が高いという仮説を,日本人地域住民を対象としたコホート研究により検討した。その結果,ISI-MのほうがHOMA-IRよりも高血圧発症のよりよい予測因子であること,さらに若年者ではBMIにかかわらずISI-M低値が高血圧発症と強く関連することが示された。これらの結果より,ISI-Mが反映している骨格筋のインスリン抵抗性が高血圧発症に何らかの役割を果たしている可能性が示唆される。
Furugen M, et al. Matsuda-DeFronzo insulin sensitivity index is a better predictor than HOMA-IR of hypertension in Japanese: the Tanno-Sobetsu study. J Hum Hypertens. 2012; 26: 325-33.
- コホート
- (1)断面解析
1991~1992年にベースライン健診を受けた1399人のうち,高血圧・糖尿病・脂質異常症の治療を受けている人,未治療高血圧の人,トリグリセリド値>400 mg/dLの人を除いた740人。
(2)縦断解析
(1)の対象者を10年後の2001~2002年まで追跡し,追跡健診を受けなかった133人を除外した607人(男性254人,女性353人,平均年齢57.6歳)を縦断解析の対象とした。
インスリン抵抗性の指標として,homeostasis model assessment of insulin resistance(HOMA-IR),およびMatsuda-DeFronzo Index*を用いた。
* Matsuda-DeFronzo Index=10,000/(糖負荷前血糖値×糖負荷前血清インスリン値×OGTT中の平均血糖値×OGTT中の平均血清インスリン値)1/2として算出。この値が低いほど,インスリン抵抗性が高い状態を示している。HOMA-IRが肝臓を中心としたインスリン抵抗性を示す指標であるのに対し,Matsuda-DeFronzo Indexは全身のインスリン抵抗性を評価するために開発された。 - 結 果
- (1)断面解析
BMI, homeostasis model assessment of insulin resistance(HOMA-IR),およびMatsuda-DeFronzo Index(ISI-M)に有意な男女差はみられなかった。男性で女性より有意に高い値を示したのはトリグリセリド値,有意に低い値を示したのはHDL-C値,LDL-C値。
収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)は,いずれも,HOMA-IRと有意な正の相関,ISI-Mと有意な負の相関を示した。ただし,相関係数はISI-MのほうがHOMA-IRよりも有意に大きかった。
SBPは,インスリン抵抗性のほかにも空腹時血糖値,負荷後血糖値,空腹時血中インスリン値,負荷後血中インスリン値と有意な正の相関を示した。
多重線形回帰分析(変数: 空腹時血糖値,負荷後血糖値,空腹時血中インスリン値,負荷後血中インスリン値,HOMA-IR,ISI-M)によりSBPおよびDBPと関連する因子を検討した結果,SBPはISI-Mと有意に関連していたが,HOMA-IRとは関連していなかった。DBPは,ISI-M,HOMA-IRのいずれとも有意に関連していた。
(2)縦断解析
10年間の追跡期間中,241人(39.1%)が高血圧を新規発症した。
HOMA-IRおよびISI-Mの四分位ごとに高血圧発症率を比較すると,HOMA-IRについては四分位間の有意差はみられなかったが,ISI-Mについては,値が低いほど高血圧発症率が高い有意な傾向がみとめられた(P for trend<0.01)。
多重線形回帰分析(変数: 年齢,性別,トリグリセリド,ベースライン時のSBP,HOMA-IRまたはISI-M)により高血圧発症に関連する因子を検討した結果,ISI-M,トリグリセリド,ベースライン時のSBPが高血圧発症と有意な関連を示したが,HOMA-IRは関連していなかった。
さらに変数としてBMIを加えると,年齢,トリグリセリド,ベースライン時のSBPおよびBMIが高血圧発症と有意な関連を示したが,ISI-M,HOMA-IRは関連していなかった。
BMIを加えたモデルにおける希釈バイアスの影響の可能性を考え,BMI(三分位)および年齢(60歳以上/未満)による層別化解析を行った。
・ HOMA-IR(過去の報告に基づき,1.73をカットオフ値とした): 60歳未満の人では,BMIがもっとも低い,およびもっとも高い三分位において,HOMA-IR高値の人の高血圧発症のオッズ比の有意な増加がみとめられた(vs. 低値)。一方,60歳以上の人では,BMIにかかわらず,HOMA-IR値によるオッズ比の差はみとめられなかった。
・ ISI-M(中央値である10.7をカットオフ値とした): BMIにかかわらず,60歳未満の年齢層では,ISI-M低値の人の高血圧発症のオッズ比の有意な増加がみとめられ(vs. 高値),60歳以上の年齢層では,ISI-M値によるオッズ比の差はみとめられなかった。
◇ 結論
肝臓を中心としたインスリン抵抗性を示すHOMA-IRにくらべ,肝臓および骨格筋の両方のインスリン抵抗性を反映する指標であるMatsuda-DeFronzo Index(ISI-M)のほうが高血圧発症リスクの予測能が高いという仮説を,日本人地域住民を対象としたコホート研究により検討した。その結果,ISI-MのほうがHOMA-IRよりも高血圧発症のよりよい予測因子であること,さらに若年者ではBMIにかかわらずISI-M低値が高血圧発症と強く関連することが示された。これらの結果より,ISI-Mが反映している骨格筋のインスリン抵抗性が高血圧発症に何らかの役割を果たしている可能性が示唆される。