[2006年文献] 左側R波増高は,血圧とは独立して心血管疾患死亡リスクと関連する
心電図における左室肥大所見の必須要素である左側R波増高が,随時収縮期血圧とは独立して心血管疾患死亡の予測因子となるかどうかについて,全国から無作為抽出した日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究によって検討した。10年間の追跡の結果,左側R波増高は,収縮期血圧を含めたその他の危険因子とは独立して,心血管疾患死亡リスクと有意に関連することが示された。この結果より,心血管疾患の高リスク者を同定して予後を改善するために,簡便な心電図による左側R波増高のスクリーニングを行うことが勧められる。
Nakamura K, et al.; NIPPON DATA90 Research Group. Electrocardiogram screening for left high R-wave predicts cardiovascular death in a Japanese community-based population: NIPPON DATA90. Hypertens Res. 2006; 29: 353-60.
- コホート
- NIPPON DATA90。
1990年の第4次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の8384人(男性3504人,女性4880人)のうち,冠動脈疾患または脳卒中既往のある261人,心房細動所見のあった147人,降圧薬を服用していた1202人,ベースライン健診データに不備のあった122人,住所の情報に不備があり連絡がとれなかった182人を除いた6688人(男性2853人,女性3835人)を,2000年11月15日まで10年間追跡(64340人・年)。
ベースライン時の12誘導心電図検査で,以下のいずれかの所見がみられる場合に「左側R波増高(left high R-wave)」とした。
・V5またはV6誘導のR波>2.6 mV
・I,II,IIIまたはaVF誘導のR波>2.0 mV
・aVL誘導のR波>1.2 mV(ミネソタコード3-1)
・I誘導のR波>1.5 mVかつ≦2.0 mV
・V1誘導のS波+V5/V6誘導のR波>3.5 mV(ミネソタコード3-3)
ST-T異常の定義は,ST-T部分の低下(ミネソタコード4-1~4-3),もしくは平坦または陰性のT波がみられる場合(ミネソタコード5-1~5-3)とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢50.7歳。
左側R波増高の頻度は9.4%で,高血圧者(2413人)では12.4%,正常血圧者(4275人)では4.1%であった。
左側R波増高のある人で,ない人にくらべて有意に高値を示していたのは年齢,禁酒者の割合(男性のみ),収縮期血圧,拡張期血圧,高血圧の割合,ST-T異常の割合,および糖尿病の割合(女性のみ)で,有意に低値を示していたのはBMI(女性のみ)(いずれもP<0.05)。
追跡期間中に死亡したのは521人で,うち55人が脳卒中死亡,73人が心疾患死亡であった。
◇ 左側R波増高と全死亡リスク
左側R波増高のある人における全死亡の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,有意な関連がみとめられた(*P<0.05 vs. ない人)。
性別にみると,男性でのみ有意な関連がみとめられた。
(†年齢,BMI,喫煙,飲酒,糖尿病,高脂血症,収縮期血圧で調整)
全体: 1.47(1.16-1.85)*
男性: 1.64(1.24-2.16)*
女性: 1.21(0.78-1.87)
◇ 左側R波増高と心血管疾患死亡リスク
左側R波増高のある人における心血管疾患死亡の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,有意な関連がみとめられた(*P<0.05 vs. ない人)。
性別にみると,女性でのみ有意な関連がみとめられた。
全体: 1.88(1.22-2.89)*
男性: 1.68(0.95-2.98)
女性: 2.12(1.10-4.09)*
心血管疾患死亡に対する左側R波増高の人口寄与リスク割合(population attributable risk percent)は7.6%であった。
◇ 左側R波増高と脳卒中死亡リスク
左側R波増高のある人における脳卒中死亡の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,有意な関連はみられなかった。
全体: 1.93(0.99-3.74)
男性: 1.97(0.74-5.21)
女性: 2.04(0.80-5.16)
◇ 左側R波増高と心疾患死亡リスク
左側R波増高のある人における心疾患死亡の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,有意な関連がみとめられた(*P<0.05 vs. ない人)。
性別にみると,女性でのみ有意な関連がみとめられた。
全体: 2.06(1.16-3.64)*
男性: 1.69(0.82-3.46)
女性: 2.57(1.00-6.58)*
◇ 層別解析
高血圧の有無による層別解析を行った結果,高血圧の人では,左側R波増高が心血管疾患死亡リスクと有意に関連しており(多変量調整ハザード比†1.97[95%信頼区間1.20-3.24] vs. 増高なし,P<0.01),心血管疾患死亡リスクに対する左側R波増高の人口寄与リスク割合は12.4%であった。
一方,正常血圧の人では有意な関連はみられず,心血管疾患死亡リスクに対する左側R波増高の人口寄与リスク割合は4.1%であった。
◇ 結論
心電図における左室肥大所見の必須要素である左側R波増高が,随時収縮期血圧とは独立して心血管疾患死亡の予測因子となるかどうかについて,全国から無作為抽出した日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究によって検討した。10年間の追跡の結果,左側R波増高は,収縮期血圧を含めたその他の危険因子とは独立して,心血管疾患死亡リスクと有意に関連することが示された。この結果より,心血管疾患の高リスク者を同定して予後を改善するために,簡便な心電図による左側R波増高のスクリーニングを行うことが勧められる。