[2007年文献] メタボリックシンドロームに肥満を必須とするとリスクを見落とす

全国300地区から無作為に抽出した一般住民を対象として,代謝系危険因子の集積と心血管疾患死亡リスクとの関連について,高血糖および肥満による層別化解析を行った。その結果,血糖値による層別化解析では,高血糖を有する人でのみ因子集積によるCVD死亡リスクの有意な上昇がみられたが,肥満による層別化解析では,非肥満者でも因子集積によるCVD死亡リスクの上昇がみとめられた。以上の結果より,非肥満者でも複数の代謝系危険因子をあわせもつ人は高いCVD死亡リスクを有しており,メタボリックシンドロームの診断基準に肥満を必須とすることで,そうした高リスク者を見落としてしまう可能性が示唆された。

Kadota A, et al.; NIPPON DATA Research Group. Relationship between metabolic risk factor clustering and cardiovascular mortality stratified by high blood glucose and obesity: NIPPON DATA90, 1990-2000. Diabetes Care. 2007; 30: 1533-8.pubmed

コホート
NIPPON DATA90。
無作為抽出された国内300地区に住み,1990年の第4次循環器疾患基礎調査に登録された30歳以上の8384人のうち,冠動脈疾患または脳卒中既往のある371人,ベースライン時データに不備があった636人,追跡不可能となった158人を除いた7219人(男性2999人,女性4220人)を2000年11月まで平均9.6年間追跡(69170人・年)。

次の5つを「メタボリック因子」として解析を行った。
(1) 肥満: BMI≧25 kg/m2(1706人)
(2) 高血圧: 収縮期血圧≧130 mmHg,拡張期血圧≧85 mmHg,降圧薬服用のいずれか(4530人)
(3) 高血糖: 食後血糖値≧140 mg/dLまたは治療中(579人)
(4) 高トリグリセリド血症: 非空腹時トリグリセリド≧200 mg/dLまたは治療中(1259人)
(5) 低HDL-C血症: HDL-Cが男性≦40 mg/dL,女性≦50 mg/dL。(2224人)
結 果
◇ メタボリック因子の集積と心血管疾患(CVD)死亡リスク
死亡は625人。うち心CVDによる死亡は173人だった。

メタボリック因子の数ごとにCVD死亡のハザード比を比較すると,因子の数が多いほどリスクが高い傾向がみられたが,有意ではなかった。
また,この結果に男女差はみられなかったため,男女を合わせて解析を行った。

メタボリック因子の数ごとの心疾患死および脳卒中死のハザード比は以下のとおり(95 %信頼区間)。
・ 心疾患死
   3つ: 2.08(0.67-6.48)
   4つ: 3.97(1.24-12.72)
   5つ: 該当なし
・ 脳卒中死
   3つ: 2.07(0.67-6.37)
   4つ: 1.23(0.30-5.05)
   5つ: 6.26(1.13-34.60)

全死亡についても同様の傾向がみられたが,ハザード比の有意な上昇はみられなかった。

◇ 高血糖の有無による層別化解析
高血糖の有無による層別化解析を行った結果,高血糖をもたない人では,高血糖を除くメタボリック因子の集積によるCVD死リスクの有意な上昇はみられなかった。
一方,高血糖を有する人では,メタボリック因子を2つもつ人,および3つもつ人において有意なハザード比の上昇がみられた(それぞれ3.67[1.49-9.03],3.25[1.31-8.06],vs. 高血糖もその他メタボリック因子ももたない人)。

◇ 肥満の有無による層別化解析
肥満の有無による層別化解析を行った結果,非肥満者(BMI 25 kg/m2未満)において,肥満を除くメタボリック因子を3つ以上もつ場合にCVD死のリスクが有意に上昇し(ハザード比2.83,95 %信頼区間1.25-6.39,vs. 肥満もその他のメタボリック因子ももたない人),肥満者でも同様の傾向がみられた。
この結果は,BMIが18.5 kg/m2以下の人を除外しても変わらなかった。


◇ 結論
全国300地区から無作為に抽出した一般住民を対象として,代謝系危険因子の集積と心血管疾患死亡リスクとの関連について,高血糖および肥満による層別化解析を行った。その結果,血糖値による層別化解析では,高血糖を有する人でのみ因子集積によるCVD死亡リスクの有意な上昇がみられたが,肥満による層別化解析では,非肥満者でも因子集積によるCVD死亡リスクの上昇がみとめられた。以上の結果より,非肥満者でも複数の代謝系危険因子をあわせもつ人は高いCVD死亡リスクを有しており,メタボリックシンドロームの診断基準に肥満を必須とすることで,そうした高リスク者を見落としてしまう可能性が示唆された。


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