[2006年文献] 女性のγ-GTPは,CVD死亡の危険因子
日本全国から無作為に抽出した30歳以上の一般住民(一般的に飲酒および喫煙する割合がきわめて低いことが知られている中年以降の日本人女性を含む)を対象としたコホート研究において,「血中γ-GTP(グルタミルトランスペプチダーゼ)値は飲酒者のみならず飲酒未経験者においても心血管疾患死亡リスクを予測する」という仮説を検証した。9.6年間の追跡の結果,女性では血中γ-GTPとCVD死亡リスクとの間に有意な関連がみられ,この関連は飲酒とは独立したものであった。一方,男性ではこのような相関がみられなかったが,その理由が飲酒による交絡のみだとは考えにくい。今後の研究で,γ-GTPとCVD死亡との関連の背景にあるメカニズムをより詳細に明らかにしていくことがのぞまれる。
Hozawa A, et al.; NIPPON DATA90 Research Group. gamma-Glutamyltransferase predicts cardiovascular death among Japanese women. Atherosclerosis. 2007; 194: 498-504.
- コホート
- NIPPON DATA90
無作為抽出された国内300地区に住み,1990年の第4次循環器疾患基礎調査に登録された30歳以上の8384人のうち,ベースライン時のγ-GTP* データがなかった662人,血中GOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ),GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)のいずれかが50 U/L以上だった519人,冠動脈疾患もしくは脳卒中既往がある209人,ベースライン時の交絡因子データが不足していた3人,追跡のための住所などのデータが不足していた145人を除いた6846人(男性2724人,女性4122人)を,2000年11年まで平均9.6年間追跡した(男性25830人・年,女性39918人・年)。
* 血中γ-GTP(グルタミルトランスペプチダーゼ)は肝機能および飲酒の指標として用いられるほか,最近の研究で冠動脈や大脳動脈のプラークにおける活性が確認されたことから,潜在的動脈硬化や心血管疾患危険因子のマーカーとしても注目されている。
ベースライン時の血中γ-GTP値により,全体を以下の4つのグループに分けて解析を行った。
低い(対照): 1~12 U/L
中程度: 13~24 U/L
やや高い: 25~49 U/L
高い: 50 U/L以上 - 結果
-
ベースライン時の血中γ-GTPの中央値は,男性で27 U/L,女性で14 U/Lだった。
ベースライン時の飲酒状況は以下のとおりだった。
男性: 飲酒者 59 %,禁酒者 7 %,飲酒未経験者 35 %
女性: 飲酒者 7 %,禁酒者 1 %,飲酒未経験者 93%
◇ 女性
死亡は274人。うち心血管疾患(CVD)による死亡は82人だった(脳卒中38人,冠動脈疾患12人,その他の心疾患27人,その他のCVD5人)。
γ-GTPが高い群におけるCVD死亡のリスクは,年齢,飲酒状況,喫煙などで補正後も,低い群より有意に高いことがわかった。
各群のCVD死亡ハザード比(1000人・年あたり)は以下のとおり。
低い(対照): 1.00
中程度: 1.17(95%信頼区間 0.69-1.98)
やや高い: 1.86(0.98-3.53)
高い: 2.88(1.14-7.28,P<0.05)
飲酒未経験者のみで解析を行っても,同様にγ-GTPが高い群におけるCVD死亡リスクは有意に高かった(vs. 低い群,ハザード比1.62,1.11-2.37,P<0.05)。
また,全死因死亡リスクもγ-GTPが高い群で有意に高くなった(vs. 低い群,ハザード比2.07,1.20-3.59,P<0.05)。
◇ 男性
死亡は292人。うち心血管疾患(CVD)による死亡は83人だった(脳卒中29人,冠動脈疾患23人,その他の心疾患26人,その他のCVD5人)。
男性では,γ-GTPとCVD死亡リスクとの有意な関連はみられなかった。この結果は,年齢,飲酒状況,喫煙などで補正後も変わらなかった。
飲酒未経験者のみで解析を行っても,有意な関連はみられなかった。
また,γ-GTPと全死因死亡リスクでも有意な関連はみられなかった。
◇ 結論
日本全国から無作為に抽出した30歳以上の一般住民(一般的に飲酒および喫煙する割合がきわめて低いことが知られている中年以降の日本人女性を含む)を対象としたコホート研究において,「血中γ-GTP(グルタミルトランスペプチダーゼ)値は飲酒者のみならず飲酒未経験者においても心血管疾患死亡リスクを予測する」という仮説を検証した。9.6年間の追跡の結果,女性では血中γ-GTPとCVD死亡リスクとの間に有意な関連がみられ,この関連は飲酒とは独立したものであった。一方,男性ではこのような相関がみられなかったが,その理由が飲酒による交絡のみだとは考えにくい。今後の研究で,γ-GTPとCVD死亡との関連の背景にあるメカニズムをより詳細に明らかにしていくことがのぞまれる。