[2007年文献] 低コレステロールが喫煙とCVD死亡率との関連を弱める
日本全国から無作為に抽出した30歳以上の一般住民を対象としたコホート研究において,喫煙と心血管疾患(CVD)死亡との関連に対する総コレステロール値の影響について検討した。19年間の追跡の結果,総コレステロール高値の男性では喫煙とCVD死亡リスクとの関連がみとめられるが,低値の男性では有意な関連がみられないという違いが示された。日本人は喫煙率が高いにもかかわらず冠動脈疾患死亡率が低いことで知られているが,この背景には総コレステロール値が低いことが関係している可能性がある。
Hozawa A, et al.; Hirotsugu Ueshima for NIPPON DATA80 Research group. Is weak association between cigarette smoking and cardiovascular disease mortality observed in Japan explained by low total cholesterol? NIPPON DATA80. Int J Epidemiol. 2007; 36: 1060-7.
無作為抽出された国内300地区に住み,1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録された30歳以上の10546人のうち,脳卒中既往(117人),冠動脈疾患既往(163人),その他の心疾患既往(475人),交絡因子データの不足(4人),喫煙または総コレステロールのデータの不足(28人),追跡不可能(847人)を除いた8912人(男性3963人,女性4949人)を19年間追跡した。
平均年齢は50.1歳。
ベースライン時の血中総コレステロール値により,以下のように全体を四分位に分けて解析を行った。
Q1: 164 mg/dL未満,Q2: 165-185 mg/dL,Q3: 186-208 mg/dL,Q4: 209 mg/dL以上
ベースライン時の血中総コレステロール値の平均は,男性186.2 mg/dL,女性190.2 mg/dLだった。
ベースライン時の喫煙率は以下のとおり。
男性: 喫煙者 63.7 %,禁煙者 18.1 %,喫煙未経験者 18.2 %
女性: 喫煙者 8.8 %,禁煙者 2.1 %,喫煙未経験者 89.2 %
Q1: 68.8 %,7.7 %
Q2: 65.6 %,8.6 %
Q3: 62.0 %,9.3 %
Q4: 57.6 %,9.3 %
男女とも,TCが高い群ほどBMI,収縮期血圧,および降圧薬服用率が高い傾向が見られた。
女性では,TCが高い群ほど平均年齢が高い傾向が見られたが,男性では明らかな違いはなかった。
喫煙者および喫煙未経験者に比べ,禁煙者の平均年齢と降圧薬服用率は高く,糖尿病の有病率も高い傾向が見られた。
心血管疾患(CVD)による死亡は男性313人,女性291人。
Q1~Q4の各群において喫煙状態ごとのCVD死亡リスクを算出した結果,もっともTCの高いQ4の喫煙者の男性では,CVD死亡の相対ハザードが2.36(95 %信頼区間1.14-4.87,vs. Q4の喫煙未経験者)と上昇したが,よりTCの低いQ1~Q3では,喫煙未経験者に対する禁煙者および喫煙者のCVDリスク上昇は有意ではなかった。
疾患ごとに喫煙状態とTCの関連を分析したところ,男性では,冠動脈疾患死亡でP=0.03,虚血性心血管疾患(冠動脈疾患+脳梗塞)死亡でP=0.01と,いずれにおいても有意な関連を示した。
女性では,冠動脈疾患死亡と脳梗塞死亡では喫煙状態とTCの有意な関連が見られなかったものの,虚血性心血管疾患(冠動脈疾患+脳梗塞)死亡ではP=0.02と有意な関連が見られた。
◇ 結論
日本全国から無作為に抽出した30歳以上の一般住民を対象としたコホート研究において,喫煙と心血管疾患(CVD)死亡との関連に対する総コレステロール値の影響について検討した。19年間の追跡の結果,総コレステロール高値の男性では喫煙とCVD死亡リスクとの関連がみとめられるが,低値の男性では有意な関連がみられないという違いが示された。日本人は喫煙率が高いにもかかわらず冠動脈疾患死亡率が低いことで知られているが,この背景には総コレステロール値が低いことが関係している可能性がある。