[2008年文献] 高血圧の家族歴は本人の脳卒中死亡リスクと有意に関連するが,脳卒中家族歴は関連せず

全国から無作為に抽出された日本人一般住民を対象に,質問票を用いて調査した脳卒中家族歴または高血圧家族歴の有無によって,本人の脳卒中死亡リスクを予測できるかどうかを検討した。平均17.5年間の追跡の結果,脳卒中家族歴と脳卒中死亡リスクとの関連はみとめられず,家族歴が脳卒中の遺伝的なリスクの指標とはならないことが示唆された。一方,60歳以上の男性,および60歳未満の女性における高血圧の家族歴と本人の脳卒中死亡リスクとのあいだには有意な関連がみられた。このことから,高血圧家族歴のある人に対しては,脳卒中予防の観点から,種々の心血管危険因子や塩分摂取をはじめとした高血圧の危険因子をきちんと管理すべきと考えられる。

Kadota A, et al.; NIPPON DATA80 Research Group. Relationships between family histories of stroke and of hypertension and stroke mortality: NIPPON DATA80, 1980-1999. Hypertens Res. 2008; 31: 1525-31.pubmed

コホート
NIPPON DATA80。
1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の10546人のうち,追跡に必要な住所のデータに不備のあった908人,冠動脈疾患または脳卒中既往のある697人,およびベースライン健診データに不備のあった904人を除いた8037人(男性3586人,女性4451人)を,1999年11月まで19年間追跡(平均追跡期間は17.5年間,14万340人・年)。

ベースライン健診時に実施した質問票調査により,親の高血圧および脳卒中既往歴(なし/両親にあり/父親にあり/母親にあり)をたずね,両親またはどちらかの親に既往歴があると回答した場合に「家族歴あり」とした。
結 果
◇ 対象背景
高血圧家族歴を有していたのは31.1%,脳卒中家族歴を有していたのは20.6%であった。

高血圧家族歴のある人では,ない人よりも脳卒中家族歴ありの割合が高かった。
年齢,BMI,血圧,総コレステロール,血糖,高血圧の割合,降圧薬服用率,喫煙率および飲酒率について,高血圧家族歴や脳卒中家族歴の有無による有意差はみとめられなかった。

追跡期間中に死亡したのは1570人。
うち脳卒中死亡は261人であった(脳内出血死亡58人,虚血性脳卒中死亡152人,その他の脳卒中死亡51人)。

◇ 脳卒中家族歴と脳卒中死亡リスク
脳卒中家族歴のある人の脳卒中死亡の多変量調整ハザード比(vs. 家族歴のない人)は以下のとおりで,男女とも有意な関連はみとめられなかった。これらの結果は,さらに収縮期血圧で調整しても同様であった。
年齢,血糖,総コレステロール,喫煙,飲酒で調整)

  脳卒中死亡: 男性0.73(95%信頼区間0.47-1.15),女性1.32(0.85-2.04)
   脳内出血死亡: 0.77(0.31-1.90),1.36(0.52-3.51)
   虚血性脳卒中死亡: 0.64(0.35-1.15),1.41(0.78-2.57)

性および年齢層(60歳未満/以上)ごとにみても,男女とも,年齢層を問わず脳卒中家族歴と本人の脳卒中死亡リスクとの関連はみられなかった。

◇ 高血圧家族歴と脳卒中死亡リスク
高血圧家族歴のある人の脳卒中死亡の多変量調整ハザード比(vs. 家族歴のない人)は以下のとおり。家族歴のある男性では,虚血性脳卒中死亡リスクが有意に高くなっていたが,女性では有意な関連はみられなかった。これらの結果は,さらに収縮期血圧で調整しても同様であった。
年齢,血糖,総コレステロール,喫煙,飲酒で調整)
  脳卒中死亡: 男性1.38(95%信頼区間0.97-1.96),女性1.08(0.73-1.59)
   脳内出血死亡: 1.16(0.56-2.39),1.87(0.82-4.26)
   虚血性脳卒中死亡: 1.68(1.08-2.60),0.74(0.42-1.29)

性および年齢層(60歳未満/以上)ごとにみると,男性では60歳以上,女性では60歳未満において,高血圧家族歴と脳卒中死亡リスクとの有意な関連がみとめられた(それぞれの多変量調整ハザード比1.52[1.02-2.27],3.06[1.37-6.86] vs. 家族歴なし)。
これらの結果は,さらに収縮期血圧で調整しても同様であった。


◇ 結論
全国から無作為に抽出された日本人一般住民を対象に,質問票を用いて調査した脳卒中家族歴または高血圧家族歴の有無によって,本人の脳卒中死亡リスクを予測できるかどうかを検討した。平均17.5年間の追跡の結果,脳卒中家族歴と脳卒中死亡リスクとの関連はみとめられず,家族歴が脳卒中の遺伝的なリスクの指標とはならないことが示唆された。一方,60歳以上の男性,および60歳未満の女性における高血圧の家族歴と本人の脳卒中死亡リスクとのあいだには有意な関連がみられた。このことから,高血圧家族歴のある人に対しては,脳卒中予防の観点から,種々の心血管危険因子や塩分摂取をはじめとした高血圧の危険因子をきちんと管理すべきと考えられる。


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