[2010年文献] 心血管危険因子の集積は,手段的ADL低下と関連

5年間の手段的日常生活動作(IADL)低下と,心血管危険因子の集積との関連について,一般住民を対象とした検討を行った。その結果,保有する心血管危険因子の数が多いほどIADLスコアが低下することが示された。日本人高齢者において,心血管危険因子が集積しないように適切に管理を行うことで,IADL低下を防ぐことができると考えられる。

Hayakawa T, et al. Relationship between 5-year decline in instrumental activity of daily living and accumulation of cardiovascular risk factors: NIPPON DATA90. J Atheroscler Thromb. 2010; 17: 64-72.pubmed

コホート
NIPPON DATA90。
1990年の第4次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区の30歳以上の8384人(男性3504人,女性4880人)のうち,1995年,245地区の65歳以上(1995年当時)の人を対象に日常生活動作(ADL)の調査が実施された。該当する1945人のうち,死亡または転居した301人,参加をとりやめた36人,連絡がとれなかった89人,2000年の追跡調査時のデータに不備のある297人を除いた1222人(男性492人,女性730人)を解析の対象とした。
追跡期間は2000年11月までの5年間。

ADLの調査では,自宅訪問での面接や電話などにより,手段的ADL(instrumental ADL: IADL)ならびに基本的ADL(basic ADL: BADL)の両者を調べた。
IADLについては,東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)による老研式活動能力指標を用いた。具体的には,「手段的自立」「知的能動性」「社会的役割」の3つに関する計13項目についてたずね,「はい」を1点),「いいえ」を0点として13点満点で評価した(低値ほどIADL低下)。
BADLについては,5つの項目(食事,排泄,着替え,入浴,移動[室内での歩行])に関してそれぞれ「1人で行える」,「部分的に人の助けが必要」,「全面的に人の助けが必要」のいずれに該当するかをたずね,1つでも部分的または全面的な助けが必要な項目を有する場合に「ADL低下」とした。

以下の7つを心血管危険因子として定義し,危険因子の保有数によって全体を「0」「1」「2」「3」「4以上」の計5カテゴリーに分けて解析した。
高血圧(≧140 / 90 mmHg),糖尿病(随時血糖値≧200 mg/dLまたはHbA1c(JDS)値≧6.0%),高脂血症(総コレステロール値≧240 mg/dL),低HDL-C血症(HDL-C値<40 mg/dL),高トリグリセリド血症(トリグリセリド値≧150 mg/dL),肥満(BMI≧25 kg/m2),喫煙
結 果
◇ 対象背景
日常生活動作(ADL)の調査が行われた1995年時の平均年齢は,男性71.9歳,女性72.8歳。
老研式活動能力指標による手段的ADL(instrumental ADL: IADL)スコアは,男女とも,年齢が高くなるほど有意に低かった。
また,5年間のIADLスコアの低下幅も,年齢が高くなるほど有意に大きかった。

◇ IADLと心血管危険因子の集積
心血管危険因子の保有数が0,1,2,3,4以上のカテゴリーにおけるIADLスコアの変化は,それぞれ-0.90,-1.03,-1.05,-1.67,-1.25であった。

7つの心血管危険因子のそれぞれの有無ごとにIADLスコアの変化を比較した結果,性別をとわず,いずれの因子についても,保有する人のほうが保有しない人よりも低下幅が大きかった(男性の高脂血症と高トリグリセリド血症を除く)。ただし,女性の低HDL-C血症を除いて,有意な差はみとめられなかった。

多変量モデルにおいて,5年間のIADLスコアの変化と心血管危険因子の保有数との関連を検討した結果,保有する心血管危険因子の数とIADLスコアの変化には有意な逆相関がみとめられた(P=0.011)。
また,心血管危険因子が1つ増えることによるIADL低下(IADLスコア低下幅が2以上)のオッズ比は1.16(95%信頼区間1.04-1.29,P=0.008)と有意に高かった。
この結果は,ベースライン時に基本的ADLの低下がなかった人のみを対象にした解析でも同様であった。


◇ 結論
5年間の手段的日常生活動作(IADL)低下と,心血管危険因子の集積との関連について,一般住民を対象とした検討を行った。その結果,保有する心血管危険因子の数が多いほどIADLスコアが低下することが示された。日本人高齢者において,心血管危険因子が集積しないように適切に管理を行うことで,IADL低下を防ぐことができると考えられる。


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