[2010年文献] 喫煙は心血管疾患死亡リスクに独立して関連
喫煙およびメタボリックシンドローム(MetS)は心血管疾患(CVD)の危険因子であるが,アジア諸国では肥満者は依然として増加し,男性における喫煙率も高い。そこで,日本人を対象とした15年間のコホート研究において,喫煙およびMetSの有無によるCVD死亡リスクを評価した。その結果,喫煙者は非MetSまたは非肥満であっても極めて高いCVD死亡率を示し,CVD死亡の人口寄与割合(PAF)も大きかった。したがって,喫煙率が高い日本人においてCVD死亡を予防するためには,MetSまたは肥満の有無にかかわらず,喫煙者を標的とした介入が重要であることが示唆された。
Takashima N, et al. Population Attributable Fraction of Smoking and Metabolic Syndrome on Cardiovascular Disease Mortality in Japan: a 15-Year Follow Up of NIPPON DATA90. BMC Public Health. 2010; 10: 306.
- コホート
- NIPPON DATA90に登録された30~70歳の7329人のうち,冠動脈疾患または脳卒中の既往のある249人,およびベースラインデータ不明の130人などを除いた6650人を15年間追跡(1990~2005年)。
男性2752人,女性3898人。
メタボリックシンドローム(MetS)については,日本の基準に基づき,以下のMetS構成因子のうち,肥満およびその他の因子2つ以上をあわせもつ場合に有病とした。また,いずれかのMetS構成因子2つ以上をあわせもつ場合に「MetS構成因子が集積している」とした。
- 肥満: BMI 25 kg/m2以上
- 血圧高値: 130 / 85 mmHg以上または降圧薬服用
- 血糖高値: 空腹時血糖値110 mg/dL以上またはインスリン/経口糖尿病薬服用
- 脂質異常症: トリグリセリド150 mg/dL以上またはHDL-C 40 mg/dL未満または脂質低下薬服用
- 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢は男性49.9歳,女性49.0歳,平均BMIはそれぞれ23.1 kg/m2,22.9 kg/m2,喫煙率は58.0%,9.6%,高血圧罹患率は66.9%,54.4%,肥満は25.1%,23.4%であった。
◇ 喫煙状況,肥満と心血管疾患(CVD)死亡リスク
肥満の有無にかかわらず,喫煙状況(喫煙未経験/禁煙/喫煙)とCVD死亡リスクは,男女ともに有意に関連した。
喫煙状況と肥満の有無の組み合わせによる各カテゴリーのCVD死亡の調整ハザード比(HR)(95%信頼区間),ならびにCVD死亡に対する人口寄与割合(PAF)は以下のとおり。
・ 男性
喫煙未経験+非肥満:1(対照)
喫煙未経験+肥満:0.67(0.08-5.53),PAF は算出できず
禁煙+非肥満:1.93(0.75-4.96),PAF 8.8%
禁煙+肥満:1.52(0.46-4.99),PAF 2.0%
喫煙+非肥満:3.13(1.33-7.36),PAF 36.8%
喫煙+肥満:2.92(1.09-7.82),PAF 9.1%
・ 女性
喫煙未経験+非肥満:1(対照)
喫煙未経験+肥満:1.34(0.74-2.45),PAF 7.1%
禁煙+非肥満:1.43(0.19-10.61),PAF 0.5%
禁煙+肥満:2.46(0.33-18.09),PAF 1.0%
喫煙+非肥満:4.32(1.99-9.37),PAF 11.3%
喫煙+肥満:4.74(1.66-13.58),PAF 5.2%
◇ 喫煙状況,メタボリックシンドローム(MetS)とCVD死亡リスク
CVD死亡リスクは,非MetSの喫煙未経験者にくらべ,MetSの有無にかかわらず喫煙者で有意に高かった。
喫煙状況とMetSの有無の組み合わせによる各カテゴリーのCVD死亡の調整HR(95%信頼区間),ならびにCVD死亡に対するPAFは以下のとおり。
・ 男性
喫煙未経験+非MetS:1(対照)
喫煙未経験+MetS:1.32(0.16-10.97),PAF 0.3%
禁煙+非MetS:2.13(0.84-5.39),PAF 11.0%
禁煙+MetS:1.49(0.37-6.01),PAF 1.1%
喫煙+非MetS:3.47(1.48-8.12),PAF 40.9%
喫煙+MetS:3.19(1.13-9.03),PAF 7.1%
・ 女性
喫煙未経験+非MetS:1(対照)
喫煙未経験+MetS:0.83(0.38-1.78),PAFは算出できず
禁煙+非MetS:1.06(0.15-7.81),PAF 0.1%
禁煙+MetS:2.98(0.41-21.79),PAF 1.1%
喫煙+非MetS:3.63(1.75-7.50),PAF 11.9%
喫煙+MetS:4.94(1.52-16.09),PAF 3.9%
◇ 喫煙状況,MetS構成因子の集積とCVD死亡リスク
喫煙状況とMetS構成因子の集積の有無の組み合わせによる各カテゴリーのCVD死亡の調整HR(95%信頼区間),ならびにCVD死亡に対するPAFは以下のとおり。
・ 男性
喫煙未経験+集積なし:1(対照)
喫煙未経験+集積あり:1.94(0.38-10.00),PAF 2.8%
禁煙+集積なし:2.41(0.50-11.65),PAF 4.7%
禁煙+集積あり:3.37(0.76-14.96),PAF 11.3%
喫煙+集積なし:4.17(0.98-17.71),PAF 20.1%
喫煙+集積あり:5.85(1.40-24.38),PAF 34.3%
・ 女性
喫煙未経験+集積なし:1(対照)
喫煙未経験+集積あり:1.55(0.82-2.95),PAF 18.7%
禁煙+集積なし:HRおよびPAFは算出できず
禁煙+集積あり:3.08(0.69-13.81),PAF 2.2%
喫煙+集積なし:4.56(1.62-12.87),PAF 6.4%
喫煙+集積あり:5.86(2.41-14.23),PAF 10.9%
◇ 結論
喫煙およびメタボリックシンドローム(MetS)は心血管疾患(CVD)の危険因子であるが,アジア諸国では肥満者は依然として増加し,男性における喫煙率も高い。そこで,日本人を対象とした15年間のコホート研究において,喫煙およびMetSの有無によるCVD死亡リスクを評価した。その結果,喫煙者は非MetSまたは非肥満であっても極めて高いCVD死亡率を示し,CVD死亡の人口寄与割合(PAF)も大きかった。したがって,喫煙率が高い日本人においてCVD死亡を予防するためには,MetSまたは肥満の有無にかかわらず,喫煙者を標的とした介入が重要であることが示唆された。