[2012年文献] 日本では大気中の粒子状物質への長期的な曝露と心血管死亡リスクの関連は示されず

これまで,欧米において粒子状物質による大気汚染への長期的な曝露と心血管死亡リスクとの関連が明らかにされているが,日本ではその関連は示されていない。その理由として,日本と欧米では心血管疾患の疾病構造が異なることや,大気中の粒子状物質の成分が異なることなどが考えられている。そこで,日本全国から無作為に抽出した一般住民を対象に,大気中の粒子状物質への長期的な曝露と24年間の心血管疾患死亡リスクとの関連を検討した。その結果,大気中の粒子状物質への長期的な曝露と心血管死亡リスクとの関連は示されなかった。

Ueda K, et al.; NIPPON DATA80 Research Group. Exposure to particulate matter and long-term risk of cardiovascular mortality in Japan: NIPPON DATA80. J Atheroscler Thromb. 2012; 19: 246-54.pubmed

コホート
NIPPON DATA80。
1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の10546人のうち,一般環境大気測定局から10km超に居住する,あるいは1985~2004年における居住地域の粒子状物質データが8年以上不明の3110人,冠動脈疾患または脳卒中の既往のある186人を除いた7250人(232地区)を解析対象とした。
追跡期間は24年(1980~2004年,137440人・年)。

大気質(air quality)については,全国にある一般環境大気測定局において,日本の大気質基準に従って粒子状物質(直径10μmのフィルターを通過する粒子)の濃度を地域ごとに測定。
居住地域における大気中粒子状物質の平均年間濃度(1985~2004年)により,全体を以下のように五分位に分けて解析した。
  Q1[濃度がもっとも低い地域に居住する人]:<27.3 μg/m3(1490人)
  Q2:27.3~33.0 μg/m3(1484人)
  Q3:33.1~36.6 μg/m3(1390人)
  Q4:36.7~43.1 μg/m3(1437人)
  Q5[濃度がもっとも高地域に居住する人]:≧43.2 μg/m3(1449人)
結 果
◇ 対象背景
大気中粒子状物質の年間濃度がもっとも高い地域に居住する人のカテゴリー(Q5)では,年齢が若く,血糖値が低く,喫煙率が低く,毎日飲酒する割合が高く,居住市町村の規模が大きい人の割合が高い傾向にあった。
女性の割合,BMI,収縮期血圧,および血清コレステロール値は,粒子状物質濃度のカテゴリーと関連しなかった。

追跡期間における全死亡は1716人,心血管疾患(CVD)死亡は571人,冠動脈疾患(CHD)死亡は116人,脳卒中死亡は250人。

◇ 大気中粒子状物質の濃度とCVD死亡リスク
居住地域の大気中粒子状物質の年間濃度が10μg/m3上昇すると,CVD死亡リスクが減少する傾向がみとめられた(多変量調整ハザード比*[HR]0.90,95%信頼区間0.81-1.00)。
*性別,年齢,BMI,血圧,総コレステロール,血糖,喫煙状況,飲酒状況,居住する市町村の規模により調整(以下同様)

粒子状物質濃度の各カテゴリーにおけるCVD死亡の多変量調整HR(95%信頼区間)は以下のとおりで,カテゴリー間に有意な差はみとめられなかった。
  Q1:1.00 (対照)
  Q2:1.04 (0.82-1.33)
  Q3:0.94 (0.73-1.22)
  Q4:0.88 (0.68-1.15)
  Q5:0.78 (0.59-1.04)

◇ 大気中の粒子状物質の濃度とCHD死亡リスク
居住地域の大気中粒子状物質の年間濃度の10μg/m3上昇は,CHD死亡リスクと関連しなかった(多変量調整HR 0.92,95%信頼区間0.73-1.17)。

カテゴリーごとの検討では,居住地域の粒子状物質濃度のカテゴリーとCHD死亡リスクにU字型の関連がみとめられ,Q3でもっともリスクが低かった。
各カテゴリーにおけるCHD死亡の多変量調整HR(95%信頼区間)は以下のとおり。
  Q1:1.00 (対照)
  Q2:0.63 (0.37-1.09)
  Q3:0.55 (0.30-0.98)
  Q4:0.64 (0.37-1.13)
  Q5:0.80 (0.46-1.41)

◇ 粒子状物質と脳卒中死亡リスク
居住地域の大気中粒子状物質の年間濃度が10μg/m3上昇すると,脳卒中死亡の多変量調整HRは減少する傾向がみられた(HR 0.86,95%信頼区間0.74-1.01)。

粒子状物質の年間濃度が高いカテゴリーでは,脳卒中死亡の多変量調整HR(95%信頼区間)が低くなる傾向がみられた。
  Q1:1.00 (対照)
  Q2:1.26 (0.88-1.80)
  Q3:1.08 (0.73-1.59)
  Q4:0.88 (0.58-1.32)
  Q5:0.76 (0.48-1.19)

◇ 粒子状物質と全死亡リスク
居住地域の大気中粒子状物質の年間濃度が10μg/m3上昇した場合の全死亡のHR上昇は0.98(95%信頼区間0.92-1.04)と有意ではなく,粒子状物質濃度の各カテゴリーの検討でも有意な差はみられなかった。

◇ 結論
これまで,欧米において粒子状物質による大気汚染への長期的な曝露と心血管死亡リスクとの関連が明らかにされているが,日本ではその関連は示されていない。その理由として,日本と欧米では心血管疾患の疾病構造が異なることや,大気中の粒子状物質の成分が異なることなどが考えられている。そこで,日本全国から無作為に抽出した一般住民を対象に,大気中の粒子状物質への長期的な曝露と24年間の心血管疾患死亡リスクとの関連を検討した。その結果,大気中の粒子状物質への長期的な曝露と心血管死亡リスクとの関連は示されなかった。


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