[2013年文献] 心電図上のJ点上昇は心疾患(とくに冠動脈疾患)死亡の独立した予測因子
心電図上でよくみられるJ点(QRS-ST接合部)の上昇は,以前は良性の所見と考えられていたが,近年,心疾患死亡や突然死リスクと関連することが報告されている。そこで,日本人一般住民を対象とした15年間の追跡研究によって,J点上昇の長期的な予後を検討した。その結果,標準的な12誘導心電図で診断したJ点上昇は,既知の危険因子,および心電図上の左室肥大や冠動脈疾患疑いの所見とは独立して,心疾患(とくに冠動脈疾患)死亡のリスクと有意に関連していた。この結果は,とくに60歳未満の若年者で顕著であった。
Hisamatsu T, et al.; for the NIPPON DATA90 Research Group. Association Between J-Point Elevation and Death From Coronary Heart Disease. Circ J. 2013; 77: 1260-1266.
- コホート
- NIPPON DATA90。
1990年の第4次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区の30歳以上の8383人のうち,心筋梗塞または脳卒中既往のある247人,伝導障害(QRS幅≧120 ms)またはBrugara型心電図所見のある172人,心電図データのない334人を除いた7630人(男性3108人,女性4522人)を2005年まで15年間追跡した。平均年齢は52.4歳。
心電図によるJ点上昇の定義は,ミネソタコード9.2にしたがい,少なくとも1つの誘導で以下の所見がみられるものとした。- 前胸部誘導: V1~V4で0.2 mV以上,V5で0.1 mV以上
- 下壁誘導(II,III,aVF)および側壁誘導(I, aVL,V6): 0.1 mV以上
- 結 果
- ◇ 対象背景
J点上昇がみられたのは264人(3.5%)。
うち240人(3.1%)が前胸部誘導,24人(0.3%)が下壁または側壁誘導での所見であった。
J点上昇ありの人となしの人とで有意差がみられたおもな項目は以下のとおり。
年齢: J点上昇あり49.4歳,なし52.5歳(P<0.001)
男性の割合: 95.8%,38.8%(P<0.001)
現在喫煙率: 53.8%,27.3%(P<0.001)
飲酒率: 63.3%,26.5%(P<0.001)
拡張期血圧: 83.6 mmHg,81.1 mmHg(P<0.001)
徐脈(心拍数50拍/分以下): 3.0%,1.5%(P=0.047)
左室肥大: 32.6%,10.2%(P<0.001)
◇ J点上昇と心血管疾患死亡リスク
追跡期間中に死亡したのは1159人で,心血管疾患死亡は325人(脳卒中死亡136人,心疾患死亡173人)であった。心疾患死亡のうち,冠動脈疾患による死亡は71人(うち急性心筋梗塞が59人),心不全による死亡は66人,不整脈による死亡は12人。
Kalpan-Meier分析によりJ点上昇ありの人となしの人の予後を比較すると,全心血管疾患死亡については,ベースラインから8年前後からJ点上昇のある人の死亡リスクが高まる傾向がみられたが,有意差はなかった。心疾患死亡,および冠動脈疾患死亡については,いずれもJ点上昇ありの人における有意なリスク上昇がみとめられた(それぞれP=0.001,P<0.001)。
多変量Cox比例ハザード解析による,J点上昇ありの人の全心血管疾患死亡,心疾患死亡,冠動脈疾患死亡の多変量調整ハザード比*(vs. J点上昇なし)は以下のとおり。
全心血管疾患死亡: 1.49(95%信頼区間0.88-2.50,P=0.136)
心疾患死亡: 2.54(1.40-4.58,P=0.002)
冠動脈疾患死亡: 4.66(2.30-9.46,P<0.001)
*年齢,性別,BMI,喫煙,服薬状況,収縮期血圧,心拍数,左室肥大,心電図上の冠動脈疾患疑い,飲酒習慣,総コレステロール,HbA1cにより調整
◇ 年齢による層別化解析
年齢(60歳未満/60歳以上)による層別化解析を行ったところ,J点上昇ありの人における全心血管疾患死亡,心疾患死亡,および冠動脈疾患死亡の多変量調整ハザード比(vs. J点上昇なし)は以下のとおりで,いずれも60歳未満の人において有意かつ顕著なハザード比の増加がみられたが,60歳以上の人では有意ではなかった。
全心血管疾患死亡: 60歳未満3.87(1.85-8.10,P<0.001),60歳以上0.79(0.36-1.75)
心疾患死亡: 5.26(2.33-11.88,P<0.001),1.46(0.57-3.74)
冠動脈疾患死亡: 10.71(3.75-30.57,P<0.001),2.66(0.91-7.83)
60歳未満の人について,J点上昇所見がみられた誘導ごとに,J点上昇による死亡の多変量調整ハザード比(vs. J点上昇なし)を比較した結果,下壁または側壁誘導でJ点が上昇している人の全心血管疾患死亡,心疾患死亡および冠動脈疾患死亡のハザード比は,前壁誘導でJ点が上昇している人のハザード比にくらべて高かった。
◇ 結論
心電図上でよくみられるJ点(QRS-ST接合部)の上昇は,以前は良性の所見と考えられていたが,近年,心疾患死亡や突然死リスクと関連することが報告されている。そこで,日本人一般住民を対象とした15年間の追跡研究によって,J点上昇の長期的な予後を検討した。その結果,標準的な12誘導心電図で診断したJ点上昇は,既知の危険因子,および心電図上の左室肥大や冠動脈疾患疑いの所見とは独立して,心疾患(とくに冠動脈疾患)死亡のリスクと有意に関連していた。この結果は,とくに60歳未満の若年者で顕著であった。