[2014年文献] 非特異的な心電図所見(電気軸,構造,再分極の異常)をもつ人では,心血管疾患死亡リスクが高い
健診などで高頻度にみられる非特異的な心電図所見(電気軸異常,構造異常,再分極異常)が,長期的な心血管疾患(CVD)死亡リスクと関連するかどうかについて,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究における検討を行った。平均17.9年間の追跡の結果,非特異的な心電図所見のある人では,ない人よりも全死亡リスクおよびCVD死亡リスクが有意に高くなっていた。とくにCVD死亡について,異なる種類の異常をあわせもつ人ではさらにリスクが高いことが示され,冠動脈疾患死亡,心不全死亡および脳卒中死亡リスクについても同様の結果であった。以上のことから,一般住民において,CVDのリスクが高い人のスクリーニングのために心電図検査が有用である可能性が示唆される。
Inohara T, et al.; for the NIPPON DATA 80/90 Research Group. Cumulative impact of axial, structural, and repolarization ECG findings on long-term cardiovascular mortality among healthy individuals in Japan: National Integrated Project for Prospective Observation of Non-Communicable Disease and its Trends in the Aged, 1980 and 1990. Eur J Prev Cardiol. 2014; 21: 1501-8.
- コホート
- NIPPON DATA80および90。
1980年の第3次循環器疾患基礎調査または1990年の第4次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区の30歳以上の18929人(1980年: 10546人,1990年: 8383人)のうち,住所の不備により追跡ができなかった1388人,ベースライン健診のデータに不備のある118人,心筋梗塞または脳卒中既往のある392人,ベースライン健診時の心電図検査時に特異的な異常(中等度~重度のQ波異常,完全房室ブロック,Wolff–Parkinson–White症候群,または心房細動/粗動)がみられた215人を除いた16816人を,平均17.9年間追跡(30万924人・年)。
ベースライン健診時の12誘導心電図検査における以下の3種類の非特異的な所見の有無によって,対象者を「なし/1種類/2種類以上」のいずれかに分類した。なお,同じ種類の異常(たとえば左軸偏位と時計回り回転)をあわせもつ場合は「1種類」とした。
・電気軸異常(1441人): 左軸偏位または時計回り回転(ミネソタコード[MC]2-1,9-4-2)
・構造異常(2270人): 左室肥大または心房拡大(MC 3-1,3-3,9-3-1,9-3-2)
・再分極異常(1655人): 高度または軽度ST-T異常(MC 4-1,4-2,4-3,4-4,5-1,5-2,5-3,5-4) - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢51.2歳,男性42.7%。
非特異的な電図所見が「なし」は12613人,「1種類」は3648人,「2種類」は555人であった。すなわち,全体の25%が1種類以上の非特異的心電図所見を有していた。
保有する非特異的な心電図所見の種類が多いほど高い値を示していたのは,年齢,収縮期血圧,拡張期血圧,空腹時血糖,血清クレアチニン,高血圧の割合,糖尿病の割合,および現在喫煙率であった。
◇ 非特異的な心電図所見の種類と心血管疾患(CVD)死亡率
追跡期間中にCVDにより死亡したのは1218人。
うち248人が冠動脈疾患,239人が心不全,548人が脳卒中により死亡していた。
Kaplan-Meier分析により,非特異的な心電図所見の有無ごとにCVD死亡の非発生率を比較すると,1種類以上の所見をもつ人では,「なし」にくらべて有意に低かった(P<0.001)。
◇ 非特異的な心電図所見の種類とCVD死亡リスク
非特異的心電図所見の保有状況ごとの全死亡および死因別死亡の多変量調整ハザード比†(vs. 「なし」)は以下のとおりで,2種類以上の所見をもつ人のCVD死亡リスクは,1種類の人よりもさらに高くなっていた(†年齢,性,BMI,喫煙,糖尿病,収縮期血圧,総コレステロールおよび血清クレアチニンで調整)。
全死亡: 1種類1.23(95%信頼区間1.14-1.32)[P<0.001],2種類以上1.44(1.26-1.64)[P<0.001]
CVD死亡: 1.29(1.13-1.48)[P=0.001],2.10(1.73-2.53)[P<0.001]
冠動脈疾患死亡: 1.33(1.00-1.78)[P=0.053],2.24(1.47-3.43)[P<0.001]
心不全死亡: 1.36(1.02-1.83)[P=0.038],1.82(1.17-2.83)[P=0.008]
脳卒中死亡: 1.25(1.02-1.51)[P=0.028],1.93(1.45-2.57)[P<0.001]
このうちCVD死亡リスクについて,非特異的な心電図所見の種類ごとに多変量調整ハザード比†を比較した結果は以下のとおりで,いずれもリスク増加と有意に関連していた。
なし: 1(対照)
1種類(電気軸異常): 1.30(95%信頼区間1.05-1.61)
1種類(構造異常): 1.25(1.04-1.50)
1種類(再分極異常): 1.37(1.11-1.70)
◇ 結論
健診などで高頻度にみられる非特異的な心電図所見(電気軸異常,構造異常,再分極異常)が,長期的な心血管疾患(CVD)死亡リスクと関連するかどうかについて,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究における検討を行った。平均17.9年間の追跡の結果,非特異的な心電図所見のある人では,ない人よりも全死亡リスクおよびCVD死亡リスクが有意に高くなっていた。とくにCVD死亡について,異なる種類の異常をあわせもつ人ではさらにリスクが高いことが示され,冠動脈疾患死亡,心不全死亡および脳卒中死亡リスクについても同様の結果であった。以上のことから,一般住民において,CVDのリスクが高い人のスクリーニングのために心電図検査が有用である可能性が示唆される。