[2015年文献] 心電図上のPR延長は,長期的な全死亡および心血管疾患死亡リスクとは関連しない

房室伝導の遅延を反映する心電図上PR間隔延長所見について,アジア人を対象に長期的な予後との関連を検討したはじめての報告。日本人一般住民を平均24.3年間追跡した前向きコホート研究から,PR間隔延長所見のある人とない人で,全死亡リスクおよび心血管疾患死亡リスクに有意差はないことが示された。

Hisamatsu T, et al.; for the NIPPON DATA80 Research Group. Long-term outcomes associated with prolonged PR interval in the general Japanese population. Int J Cardiol. 2015; 184C: 291-293.pubmed

コホート
NIPPON DATA80。
1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30~95歳の一般住民のうち,冠動脈疾患や脳卒中の既往のない9051人を2009年まで平均24.3年間追跡。

ベースライン時の12誘導心電図検査におけるPR間隔≧220 msを「PR間隔延長」とした。
結 果
◇ 対象背景
ベースライン時にPQ間隔延長がみられたのは180人(1.9%)。

PR間隔延長の有無ごとのおもな対象背景は以下のとおり。
 年齢: あり54.3歳,なし49.8歳
 女性の割合: 37.8%,56.6%
 喫煙率: 37.8%,32.6%
 飲酒率: 49.4%,43.7%
 BMI: 23.6 kg/m2,22.7 kg/m2
 血圧: 139.7 / 81.9 mmHg,135.7 / 81.3 mmHg
 降圧薬服用率: 17.2%,10.3%
 心拍数: 66.0拍/分,69.7拍/分
 心電図上の左室肥大所見: 18.9%,15.8%
 心電図上の冠動脈疾患(CHD)疑い: 8.3%,5.6%

◇ PR間隔延長と心血管疾患(CVD)死亡リスク
追跡期間中に死亡した3269人のうち,1101人がCVDによる死亡であった。
内訳は,491人が脳卒中死亡,559人が心疾患死亡(うち,CHD死亡は227人)。

PR間隔延長のある人のCVD死亡,およびその内訳の多変量調整ハザード比(vs. ない人)は以下のとおりで,いずれの死亡についても有意なリスク増加はみとめられなかった。
年齢,性,BMI,収縮期血圧,総コレステロール,糖尿病,降圧薬服用,喫煙,飲酒,心拍数,心電図上左室肥大および心電図上CHD疑いで調整)

  全死因死亡 1.06(95%信頼区間0.85-1.31),P=0.610
  CVD死亡: 0.94(0.65-1.37),P=0.763
  心疾患死亡: 1.13(0.69-1.83),P=0.636
  CHD死亡: 1.49(0.76-2.92),P=0.249
  脳卒中死亡: 0.70(0.37-1.31),P=0.259

以上の結果は,地区,性,および年齢(60歳未満/以上)に関する層別解析を行っても同様であった。


◇ 結論
房室伝導の遅延を反映する心電図上PR間隔延長所見について,アジア人を対象に長期的な予後との関連を検討したはじめての報告。日本人一般住民を平均24.3年間追跡した前向きコホート研究から,PR間隔延長所見のある人とない人で,全死亡リスクおよび心血管疾患死亡リスクに有意差はないことが示された。


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