[2015年文献] 高血圧に対する過体重・肥満の影響は,1980年から2010年にかけて大きくなってきている
NIPPON DATA80,90,第5次循環器疾患基礎調査,ならびにNIPPON DATA2010のベースラインデータ(それぞれ1980年,1990年,2000年,2010年における断面調査)を用いて,高血圧に対する過体重および肥満の影響が長期的にどのように推移しているかを検討した。その結果,男女とも高血圧の有病率は経時的に低下していた一方で,過体重・肥満の割合は男性では増加,女性では不変の傾向であった。高血圧に対する過体重・肥満の影響は,性を問わず経時的に増加していたことから,今後の高血圧予防の観点においても,適正な体重管理が重要と考えられる。
Nagai M, et al. Secular trends of the impact of overweight and obesity on hypertension in Japan, 1980-2010. Hypertens Res. 2015;
- コホート
- NIPPON DATA80,90,第5次循環器疾患基礎調査ならびにNIPPON DATA2010。
・NIPPON DATA80: 1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の10546人のうち,BMIのデータに不備のある2人,および80歳以上または実際には30歳未満だった173人を除いた10371人(男性4568人,女性5803人)。
・NIPPON DATA90: 1990年の第4次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の8383人のうち,BMIのデータに不備のある122人,および80歳以上または実際には30歳未満だった256人を除いた8005人(男性3357人,女性4648人)。
・第5次循環器疾患基礎調査: 2000年の調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の5565人のうち,BMIのデータに不備のある5人,および80歳以上または実際には30歳未満だった233人を除いた5327人(男性2188人,女性3139人)。これ以降の循環器疾患基礎調査は,国民健康・栄養調査に統合された。
・NIPPON DATA2010: 無作為に抽出された日本各地の300地区で実施された2010年の国民健康・栄養調査の対象者のうち,循環器疾患基礎調査の後継調査(「循環器病の予防に関する調査」)への参加に同意した20歳以上の2898人。このうちBMIのデータに不備のある10人,および30歳未満または80歳以上の341人を除いた2547人(男性1081人,女性1466人)。
ベースライン時のBMIにより,対象者を低体重(18.5 kg/m2未満),正常体重(18.5~24.9 kg/m2),過体重・肥満(25.0 kg/m2以上)の3つのカテゴリーのいずれかに分類した。 - 結 果
- ◇ 対象背景
NIPPON DATA80,90,第5次循環器疾患基礎調査,およびNIPPON DATA2010の各ベースライン時において,分散分析(ANOVA)による有意な差がみとめられた項目は以下のとおり(それぞれ1980年,1990年,2000年,2010年の値)。
・男性
年齢(歳): 49.9,52.4,55.9,59.8(P<0.001)
BMI(kg/m2): 22.5,23.0,23.6,24.0(P<0.001)
喫煙状況(P<0.001)
喫煙未経験者: 17.9%,20.9%,26.4%,26.8%
禁煙者: 18.6%,23.4%,27.6%,43.1%
喫煙者: 63.5%,55.8%,46.0%,30.1%
飲酒状況(P<0.001)
飲酒習慣なし: 19.7%,34.6%,35.9%,57.3%
禁酒者: 5.5%,6.7%,9.2%,3.1%
飲酒習慣あり: 74.8%,58.7%,54.9%,39.7%
食塩摂取量(g/日): 15.1,14.7,14.5,12.0(P<0.001)
降圧薬服用率: 10.1%,13.7%,20.1%,30.8%(P<0.001)
・女性
年齢(歳): 50.0,51.7,54.3,57.7(P<0.001)
喫煙状況(P<0.001)
喫煙未経験者: 87.8%,87.7%,87.0%,84.0%
禁煙者: 2.4%,2.7%,2.7%,9.0%
喫煙者: 9.8%,9.6%,10.4%,7.0%
飲酒状況(P<0.001)
飲酒習慣なし: 77.9%,92.2%,89.4%,92.1%
禁酒者: 1.7%,1.1%,1.5%,1.4%
飲酒習慣あり: 20.5%,6.7%,9.1%,6.6%
食塩摂取量(g/日): 13.0,12.8,12.6,10.4(P<0.001)
収縮期血圧(mmHg): 133.5,133.0,132.2,130.8(P<0.001)
拡張期血圧(mmHg): 79.6,79.5,78.9,78.3(P<0.001)
降圧薬服用率: 11.6%,15.9%,18.8%,23.0%(P<0.001)
◇ 過体重・肥満の割合の推移
過体重・肥満の割合(それぞれ1980年,1990年,2000年,2010年の値)は以下のとおりで,男性では増加がみられたが,女性では不変の傾向であった。
男性: 18.2%,24.1%,29.4%,35.6%
女性: 22.9%,24.7%,24.4%,21.5%
◇ 高血圧有病率の推移
高血圧の有病率(それぞれ1980年,1990年,2000年,2010年の値)は以下のとおりで,男女とも低下がみとめられた。
男性: 54.2%,49.7%,50.1%,50.1%
女性: 47.4%,45.9%,41.9%,37.8%
性・BMI(正常体重/過体重・肥満)別にみた高血圧有病率は以下のとおりで,男女とも正常体重者にくらべて過体重・肥満の人では経時的な低下の幅が小さかった。
男性(過体重・肥満): 65.0%,61.4%,64.6%,63.3%
男性(正常体重): 52.8%,47.2%,44.8%,43.1%
女性(過体重・肥満): 59.8%,59.7%,58.7%,56.6%
女性(正常体重): 44.9%,42.4%,37.6%,33.9%
◇ 高血圧に対する過体重・肥満の影響
過体重・肥満の人における高血圧の多変量調整オッズ比†(vs. 正常体重)(それぞれ1980年,1990年,2000年,2010年の値)は以下のとおりで(†年齢,喫煙状況,飲酒状況,食塩摂取量で調整),最近になるほど,高血圧に対する過体重・肥満の影響が大きくなっていた。
男性: 1.94(95%信頼区間1.64-2.28),2.00(1.67-2.39),2.58(52.9-3.19),2.82(2.07-3.83)
女性: 2.37(2.05-2.73),2.64(2.25-3.10),3.07(2.52-3.73),3.48(2.57-4.72)
◇ 結論
NIPPON DATA80,90,第5次循環器疾患基礎調査,ならびにNIPPON DATA2010のベースラインデータ(それぞれ1980年,1990年,2000年,2010年における断面調査)を用いて,高血圧に対する過体重および肥満の影響が長期的にどのように推移しているかを検討した。その結果,男女とも高血圧の有病率は経時的に低下していた一方で,過体重・肥満の割合は男性では増加,女性では不変の傾向であった。高血圧に対する過体重・肥満の影響は,性を問わず経時的に増加していたことから,今後の高血圧予防の観点においても,適正な体重管理が重要と考えられる。