[2016年文献] HDL-C高値(60~79 mg/dL)の人の冠動脈疾患死亡リスクは低い

欧米にくらべてHDL-Cが高いとされる日本人一般住民において,HDL-C高値と全死亡ならびに死因別死亡リスクとの関連を検討した。平均18年間の追跡の結果,HDL-Cと死亡リスクとの有意な関連はみとめられなかった。HDL-C高値(60~79 mg/dL)のカテゴリーでは,対照(40~59 mg/dL)に比して冠動脈疾患死亡リスクが有意に低かったが,超高値(80 mg/dL以上)では有意差はみとめられなかった。HDL-C超高値カテゴリーにおける死亡の数が十分ではなかったことから,今後,より大規模なコホート研究やメタ解析研究による検討も行う必要があると考えられる。

Hirata A, et al.; NIPPON DATA90 Research Group. The Relationship between Very High Levels of Serum High-Density Lipoprotein Cholesterol and Cause-Specific Mortality in a 20-Year Follow-Up Study of Japanese General Population. J Atheroscler Thromb. 2016; 23: 800-9.pubmed

コホート
NIPPON DATA90。
1990年の第4次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本国内の300地区に住む30歳以上の8383人(男性3504人,女性4879人,参加率76.5%)のうち,冠動脈疾患または脳卒中既往のある248人,脂質低下薬を服用していた267人,ベースライン健診データに不備のあった662人,追跡不可能だった304人を除いた7019人(男性2946人,女性4073人)を,2010年11月15日まで平均18.0年間追跡した(12万6481人・年)。

HDL-Cについて,過去の報告(pubmed)に基づく以下の4つのカテゴリーに対象者を分類した。
  低値(40 mg/dL未満): 男性702人,女性425人
  対照(40~59 mg/dL): 1554人,2009人
  高値(60~79 mg/dL): 554人,1341人
  超高値(80 mg/dL以上): 136人,298人
結 果
追跡期間中の死亡は1598人で,うち心血管疾患(CVD)死亡は450人であった。

◇ HDL-Cと全死亡および死因別死亡リスク
HDL-Cのカテゴリーごとにみた全死亡および死因別死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで(*P<0.05),いずれの死亡リスクについても有意な関連はみとめられなかった。
HDL-C「高値」のカテゴリーにおける冠動脈疾患死亡のリスクは,対照に比して有意に低かったが,「超高値」では有意差はみられなかった。
これらの結果は,男女別に行った解析でもほぼ同様であった。
性,年齢,BMI,トリグリセリド,non-HDL-C,高血圧,糖尿病,喫煙,および飲酒で調整)

・全死亡(P for trend=0.06): 低値1.12(0.98-1.29),対照1.00,高値0.93(0.81-1.05),超高値1.01(0.80-1.27)

・CVD死亡(P for trend=0.25)
 1.27(0.99-1.63),1.00,0.89(0.69-1.14),1.14(0.74-1.74)

・冠動脈疾患死亡(P for trend=0.47)
 1.29(0.76-2.20),1.00,0.38(0.19-0.75)*,1.23(0.54-2.79)

・脳卒中死亡(P for trend=0.76)
 1.10(0.73-1.67),1.00,1.03(0.70-1.52),1.53(0.84-2.81)

・脳梗塞死亡(P for trend=0.84)
 0.99(0.59-1.68),1.00,1.05(0.64-1.70),1.33(0.56-3.16)

・脳出血死亡(P for trend=0.89)
 1.25(0.52-3.04),1.00,0.91(0.40-2.05),1.62(0.52-5.02)

◇ 層別解析
HDL-Cと全死亡リスクおよびCVD死亡リスクとの関連について,高血圧,喫煙,飲酒,糖尿病,non-HDL-C高値(140 mg/dL以上),高トリグリセリド血症(107 mg/dL以上)の有無による層別解析を行ったが,いずれのサブグループについても大きな違いはみとめられなかった。


◇ 結論
欧米にくらべてHDL-Cが高いとされる日本人一般住民において,HDL-C高値と全死亡ならびに死因別死亡リスクとの関連を検討した。平均18年間の追跡の結果,HDL-Cと死亡リスクとの有意な関連はみとめられなかった。HDL-C高値(60~79 mg/dL)のカテゴリーでは,対照(40~59 mg/dL)に比して冠動脈疾患死亡リスクが有意に低かったが,超高値(80 mg/dL以上)では有意差はみとめられなかった。HDL-C超高値カテゴリーにおける死亡の数が十分ではなかったことから,今後,より大規模なコホート研究やメタ解析研究による検討も行う必要があると考えられる。


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