[2016年文献] 非特異的な心電図所見(電気軸,構造,再分極の異常)は,既存のリスクスコアの心血管疾患死亡リスク予測能を改善させる
健診などで高頻度にみられる非特異的な心電図所見(電気軸異常,構造異常,再分極異常)が,既知の危険因子を用いたリスクスコア(フラミンガムリスクスコアおよびNIPPON DATA80リスクチャート)による評価とは独立した心血管疾患(CVD)死亡リスク予測能を示すかどうかについて,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究における検討を行った。15年間(中央値)の追跡の結果,非特異的な心電図所見のある人では,性別や所見の種類を問わず,リスクスコアによる調整後も心血管疾患死亡リスクが有意に高くなっていた。また,複数の所見をもつ人では,CVD死亡リスクがさらに高くなっていた。以上の結果から,非特異的な心電図所見を用いることで既存のリスクスコアの予測能を改善できることが示唆され,一般住民における心電図検査の有用性があらためて裏付けられたといえる。
Sawano M, et al.; NIPPON DATA 80/90 Research Group. Independent Prognostic Value of Single and Multiple Non-Specific 12-Lead Electrocardiographic Findings for Long-Term Cardiovascular Outcomes: A Prospective Cohort Study. PLoS One. 2016; 11: e0157563.
- コホート
- NIPPON DATA80および90。
1980年の第3次循環器疾患基礎調査または1990年の第4次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区の30歳以上の18929人(1980年: 10546人,1990年: 8383人)のうち,住所の不備により追跡ができなかった1388人,ベースライン健診のデータに不備のある118人,心筋梗塞または脳卒中既往のある392人,ベースライン健診時の心電図検査で特異的な異常(中等度~重度のQ波異常,完全房室ブロック,Wolff–Parkinson–White症候群,または心房細動/粗動)がみられた215人を除いた16816人を15年間(中央値)追跡した(30万924人・年)。
ベースライン健診時の12誘導心電図検査における以下の3種類の非特異的な所見の有無および数によって,対象者を「なし/1つ/2つ以上」のいずれかに分類した。
・構造異常(2252人[13.4%]): 左室肥大または心房拡大(ミネソタコード[MC]3-1,3-3,9-3)
・電気軸異常(1362人[8.1%]): 左軸偏位または時計回り回転(MC 2-1,9-4-2)
・再分極異常(1184人[7.0%]): 高度または軽度ST-T異常(MC 4-1,4-1-2,4-2,4-3,4-4,5-2,5-3) - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢51.2歳,男性43%。
非特異的な心電図所見が「1つ」の人は3648人(21.7%),「2つ以上」の人は555人(3.3%)であった。
◇ リスクスコアでみた対象者の心血管疾患リスク
・フラミンガムリスクスコア
フラミンガムリスクスコアとして推算した10年間の心血管イベント発症リスク(中央値)は,男性3.81%(四分位数間範囲0.86-18.9%),女性1.1%(0.34-4.05%)であった。
・NIPPON DATA80リスクチャート
NIPPON DATA80のリスクチャートから推算した10年間の心血管疾患(CVD)死亡リスク(中央値,血糖値のデータに不備のあった男性221人,女性296人は除外)は,男性0.73%(四分位数間範囲0.21-3.08%),女性0.56%(0.14-2.63%)であった。
◇ 非特異的心電図所見とCVD死亡リスク
追跡期間中に死亡したのは3794人(22.6%)。
CVDにより死亡したのは1218人(7.2%)で,このうち248人(1.5%)が冠動脈疾患による死亡,548人(3.3%)が脳卒中による死亡であった。
(1)フラミンガムリスクスコアで調整した場合
非特異的心電図所見のある人におけるCVD死亡,冠動脈疾患死亡および脳卒中死亡のハザード比(vs. ない人,フラミンガムリスクスコアで調整)は以下のとおりで,性を問わず,いずれの非特異的心電図所見もCVD死亡の有意なリスク増加と関連していた。
・男性
CVD死亡: 構造異常1.42(95%信頼区間1.19-1.70),電気軸異常1.95(1.56-2.42),再分極異常4.58(3.66-5.73)
冠動脈疾患死亡: 1.53(1.04-2.23),1.56(0.93-2.59),4.33(2.65-7.07)
脳卒中死亡: 1.48(1.14-1.91),1.99(1.45-2.72),3.89(2.74-5.50)
・女性
CVD死亡: 2.87(2.34-3.53),1.34(1.03-1.78),3.09(2.55-3.73)
冠動脈疾患死亡: 2.66(1.64-4.29),1.49(0.82-2.72),3.75(2.48-5.66)
脳卒中死亡: 2.90(2.13-3.97),1.22(0.79-1.90),3.03(2.26-4.06)
(2)NIPPON DATA80リスクチャートで調整した場合
非特異的心電図所見のある人におけるCVD死亡,冠動脈疾患死亡および脳卒中死亡のハザード比(vs. ない人,NIPPON DATA80リスクチャートで調整)は以下のとおりで,いずれの非特異的心電図所見もCVD死亡の有意なリスク増加と関連していた(女性の電気軸異常を除く)。
・男性
CVD死亡: 1.40(1.17-1.68),1.72(1.38-2.14),1.98(1.57-2.50)
冠動脈疾患死亡: 1.46(0.99-2.14),1.39(0.83-2.31),2.23(1.34-3.71)
脳卒中死亡: 1.33(1.03-1.73),1.50(1.16-1.94),1.76(1.28-2.42)
・女性
CVD死亡: 1.83(1.48-2.26),1.20(0.92-1.59),1.65(1.36-2.01)
冠動脈疾患死亡: 1.78(1.09-2.89),1.38(0.76-2.53),2.14(1.40-3.28)
脳卒中死亡: 1.82(1.32-2.50)1.08(0.70-1.68),1.58(1.17-2.14)
◇ 非特異的な心電図所見の数とCVD死亡リスク
(1)フラミンガムリスクスコアで調整した場合
非特異的心電図所見が「1つ」または「2つ以上」の人におけるCVD死亡,冠動脈疾患死亡および脳卒中死亡のハザード比(vs. ない人,フラミンガムリスクスコアで調整)は以下のとおりで,性を問わず,所見が2つ以上の場合はCVD死亡リスクが大きく増加していた。
・男性
CVD死亡: 1つ1.26(95%信頼区間1.06-1.50),2つ以上4.27(3.35-5.45)
冠動脈疾患死亡: 1.32(0.91-1.91),3.63(2.08-6.33)
脳卒中死亡: 1.26(0.98-1.62),4.17(2.91-5.98)
・女性
CVD死亡: 1.72(1.43-2.05),4.83(3.76-6.22)
冠動脈疾患死亡: 1.80(1.21-2.70),5.15(2.94-9.02)
脳卒中死亡: 1.65(1.25-2.17),4.78(3.25-7.06)
(2)NIPPON DATA80リスクチャートで調整した場合
非特異的心電図所見が「1つ」または「2つ以上」の人におけるCVD死亡,冠動脈疾患死亡および脳卒中死亡のハザード比(vs. ない人,NIPPON DATA80リスクチャートで調整)は以下のとおりで,性を問わず,所見が2つ以上の場合はCVD死亡リスクの有意な増加がみられた。
・男性
CVD死亡: 1.22(95%信頼区間1.03-1.45),2.39(1.87-3.07)
冠動脈疾患死亡: 1.23(0.85-1.79),2.26(1.29-4.00)
脳卒中死亡: 1.23(0.95-1.57),2.32(1.62-3.35)
・女性
CVD死亡: 1.33(1.11-1.60),2.04(1.58-2.64)
冠動脈疾患死亡: 1.47(0.98-2.20),2.32(1.31-4.12)
脳卒中死亡: 1.23(0.93-1.63),2.01(1.35-2.98)
◇ 結論
健診などで高頻度にみられる非特異的な心電図所見(電気軸異常,構造異常,再分極異常)が,既知の危険因子を用いたリスクスコア(フラミンガムリスクスコアおよびNIPPON DATA80リスクチャート)による評価とは独立した心血管疾患(CVD)死亡リスク予測能を示すかどうかについて,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究における検討を行った。15年間(中央値)の追跡の結果,非特異的な心電図所見のある人では,性別や所見の種類を問わず,リスクスコアによる調整後も心血管疾患死亡リスクが有意に高くなっていた。また,複数の所見をもつ人では,CVD死亡リスクがさらに高くなっていた。以上の結果から,非特異的な心電図所見を用いることで既存のリスクスコアの予測能を改善できることが示唆され,一般住民における心電図検査の有用性があらためて裏付けられたといえる。