[2020年文献] 青年期~中年期の孤立性収縮期高血圧はその後のCVD死亡リスクと独立した正の関連を示す
収縮期血圧は,拡張期血圧とは異なり,加齢による動脈壁硬化(動脈スティフネス)の増加と動脈伸展性(動脈コンプライアンス)の低下に伴い上昇する。そのため,孤立性収縮期高血圧(ISH)は加齢現象と特徴づけられている。青年期~中年期のISHが偽性高血圧かどうかについては議論がわかれており,その長期予後予測能も明らかではない。そこで,NIPPON DATA80のデータを用いて,青年期~中年期のISHと心血管疾患(CVD)死亡の関連を評価した。その結果,ISHは29年後のCVD死亡リスクと独立して関連することが示された。降圧治療や生活習慣の是正により青年期~中年期のISHを改善することで,将来のCVDリスクを軽減できるか検討する必要がある。
Hisamatsu T, et al. NIPPON DATA80 Research Group. Isolated systolic hypertension and 29-year cardiovascular mortality risk in Japanese adults aged 30--49 years. J Hypertens. 2020; 38: 2230-2236.
- コホート
- NIPPON DATA80に参加した30~49歳の5532人のうち,追跡不能の568人,心血管疾患(CVD)の既往/現病を有する27人,降圧薬治療を受けている154人,ベースラインの血圧値および共変量データに不備があった7人を除外した4776人(うち女性55.4%)を解析対象とした。追跡期間は2009年までの29年間(中央値)。
ベースライン時の血圧により対象を6つのカテゴリーに分類し,孤立性収縮期高血圧(ISH)とCVD死亡(冠動脈疾患[CHD]死亡,脳卒中死亡を含む)との関連を評価した。
[正常血圧]収縮期血圧(SBP)<120 mmHgかつ拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
[正常高値血圧]SBP 120~129 mmHgかつDBP<80 mmHg
[高値血圧]SBP 130~139 mmHgかつDBP 80~89 mmHg,SBP 130~139 mmHgかつDBP<80 mmHg,SBP<130 mmHgかつDBP 80~89 mmHg
[ISH]SBP≧140 mmHgかつDBP<90 mmHg
[孤立性拡張期高血圧(IDH)]SBP<140 mmHgかつDBP≧90 mmHg
[収縮期・拡張期高血圧(SDH)]SBP≧140 mmHgかつDBP≧90 mmHg - 結 果
- 追跡期間中のCVD死亡は115人(各カテゴリーで10人,11人,30人,18人,8人,38人),CHD死亡は28人(2人,1人,6人,8人,2人,9人),脳卒中死亡は49人(2人,3人,15人,8人,3人,18人)。
◇対象背景
ベースラインの対象者の背景は以下のとおり。
対象者数(人): [正常血圧]1240,[正常高値血圧]746,[血圧上昇]1563,[ISH]389,[IDH]234,[SDH]604
年齢(歳): 37.8,38.3,39.4,41.7,40.0,42.2,P<0.001
女性: 71.6%,61.4%,50.9%,49.9%,36.3%,37.4%,P<0.001
喫煙(過去): 5.2%,4.7%,8.6%,10.8%,12.4%,10.9%
喫煙(現在): 25.0%,33.0%,35.3%,37.0%,35.9%,43.9%,P<0.001
習慣飲酒: 39.4%,44.9%,50.4%,50.1%,59.4%,64.7%,P<0.001
BMI(kg/m2): 21.8,22.1,22.8,23.4,23.9,24.1,P<0.001
総コレステロール(mg/dL): 178.7,178.9,183.9,183.9,192.8,191.4,P<0.001
糖尿病: 1.3%,1.5%,2.1%,4.4%,3.9%,4.6%,P<0.001
SBP(mmHg): 109.6,123.0,127.4,145.5,130.7,155.5,P<0.001
DBP(mmHg): 67.6,71.5,80.7,81.7,92.3,97.5,P<0.001
12誘導心電図の心拍数(bpm)*: 67.8,70.0,69.7,72.8,70.3,73.3,P<0.001
*各カテゴリーの評価症例数は1204人,721人,1519人,380人,226人,585人
◇ ベースライン血圧とCVD死亡の関連
正常血圧(対照)と比較した各カテゴリーのCVD死亡の多変量調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。正常血圧に比べ,ISHはCVD死亡リスクが有意に高かった。また,高値血圧,IDH,SDHも正常血圧にくらべCVD死亡リスクが有意に高かった。ISHとCVD死亡の関連に男女差や年齢差は認められなかった(† 年齢,性別,喫煙状況,飲酒,BMI,総コレステロール,糖尿病で調整)。
[正常血圧]1,[正常高値血圧]1.69(0.72-3.98),[高値血圧]2.05(1.01-4.23),P<0.05,[ISH]4.10(1.87-9.03),P<0.001,[IDH]3.38(1.31-8.72),P<0.05,[SDH]5.41(2.63-11.14),P<0.001
◇ ベースライン血圧とCHD死亡および脳卒中死亡の関連
正常血圧(対照)と比較した各カテゴリーのCHD死亡および脳卒中死亡の多変量調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。ISHはCHD死亡および脳卒中死亡と有意に関連したが,信頼区間の範囲は広かった。
[正常血圧](CHD死亡)1,(脳卒中死亡)1
[正常高値血圧]0.73(0.07-8.03),2.32(0.39-13.91)
[高値血圧]1.64(0.33-8.17),5.56(1.26-24.58)*
[ISH]7.20(1.50-34.50)*,10.51(2.18-50.75)**
[IDH]2.70(0.37-19.55),7.38(1.20-45.56)*
[SDH]4.13(0.87-19.69),15.25(3.40-68.53)***
*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001
◇ 結論
収縮期血圧は,拡張期血圧とは異なり,加齢による動脈壁硬化(動脈スティフネス)の増加と動脈伸展性(動脈コンプライアンス)の低下に伴い上昇する。そのため,孤立性収縮期高血圧(ISH)は加齢現象と特徴づけられている。青年期~中年期のISHが偽性高血圧かどうかについては議論がわかれており,その長期予後予測能も明らかではない。そこで,NIPPON DATA80のデータを用いて,青年期~中年期のISHと心血管疾患(CVD)死亡の関連を評価した。その結果,ISHは29年後のCVD死亡リスクと独立して関連することが示された。降圧治療や生活習慣の是正により青年期~中年期のISHを改善することで,将来のCVDリスクを軽減できるか検討する必要がある。