[2006年文献] ネフリン遺伝子上の3つの一塩基多型は,糖尿病と有意に関連した
日本人一般住民を対象としたコホート研究における断面解析により,ネフリン遺伝子多型と2型糖尿病との関連を検討した。その結果,ネフリン遺伝子上の3つのSNPがいずれも糖尿病と有意に関連していた。このことから,ネフリンが糖尿病の病態生理に何らかの重要な役割を果たしている可能性が示唆される。
Daimon M, et al. Association of nephrin gene polymorphisms with type 2 diabetes in a Japanese population: The Funagata study. Diabetes Care. 2006; 29: 1117-9.
- コホート
- 1995~1997年にベースライン健診を受け,調査に同意した35歳以上の舟形町住民726人。
以下の2つの集団において,ネフリン*をコードする遺伝子上の3つの一塩基多型(SNP)が耐糖能異常および糖尿病と関連しているかを調べた。
集団1: 糖尿病 72人,耐糖能異常75人,正常 227人
集団2: 糖尿病 31人,耐糖能異常77人,正常 244人
* ネフリンは,糸球体上皮細胞に局在し,スリット膜を形成してサイズ選択的バリアとして機能すると考えられる蛋白。その異常は重症のネフローゼと関連するとされている。最近,膵臓のランゲルハンス島細胞などでもネフリンが発現していることがわかり,糖尿病の病態生理にも何らかの役割を担っている可能性が示唆されている。 - 結 果
- ネフリン遺伝子上にある以下の3つの一塩基多型(single nucleotide polymorphism,SNP)が糖尿病に関連しているかどうかを集団1で調べたところ,すべてのSNPが糖尿病との有意な関連を示した。
C294T: 開始コドンから294番目の塩基(エキソン3)の位置にあるC→T変異(サイレント変異),P=0.0028。
-61C/G: イントロン5/エキソン6のスプライシング部位から61塩基上流の位置にあるC→G変異,P=0.0336。
C2289T: エキソン17の開始コドンから2289塩基の位置にあるC→T変異(サイレント変異),P=0.0007。
また,いずれのSNPにおいても,ハイリスクな遺伝子型を持つ人の割合は,正常より耐糖能異常,耐糖能異常より糖尿病の人で有意に高かった。
C294T ハイリスク(TT+CC): 正常17.3%,耐糖能異常21.3%,糖尿病34.7% (P for trend=0.0026)。
-61C/G ハイリスク(GG+CG): 正常9.3%,耐糖能異常13.5%,糖尿病19.4% (P for trend=0.0215)。
C2289T ハイリスク(TT+CT): 正常18.5%,耐糖能異常28.0%,糖尿病38.9% (P for trend=0.0003)。
このうちC2289Tについて,集団2であらためて糖尿病との関連を調べた。その結果,集団1と同様に糖尿病との有意な関連がみとめられた(P=0.0463)。
また,集団1と集団2をあわせて解析をおこなった結果,C2289Tは耐糖能異常,および糖尿病と有意な関連を示した。この有意性は,各群間で有意差のあった血中トリグリセリド,BMIおよび収縮期血圧で補正を行ったのちも変わらなかった。
ハプロタイプ分析を行った結果,これらのSNPがたがいに連鎖不平衡の状態にあるハプロタイプが6つ見出された。
このうち,C294T,-61C/G,C2289TのいずれのSNPについても非リスク遺伝子型をもつハプロタイプ1では,糖尿病のオッズ比が0.42(P=0.0008)と,有意なリスク低下がみられた。
また,タイプ1を2つ持つディプロタイプ*では,やはり糖尿病のオッズ比が0.35(P=0.0005)と,有意なリスク低下がみられた。
*ディプロタイプ: ハプロタイプの組み合わせ
C2289Tでハイリスクな遺伝子型を持つ人と非リスク遺伝子型を持つ人の対象背景を比較した結果,2群間で有意差があったのは空腹時血中インスリンのみだった。
◇ 結論
日本人一般住民を対象としたコホート研究における断面解析により,ネフリン遺伝子多型と2型糖尿病との関連を検討した。その結果,ネフリン遺伝子上の3つのSNPがいずれも糖尿病と有意に関連していた。このことから,ネフリンが糖尿病の病態生理に何らかの重要な役割を果たしている可能性が示唆される。