[2002年文献] 耐糖能障害と糖尿病は,いずれも無症候性脳虚血性病変の危険因子ではなかった
日本の農村地域の一般住民を対象としたコホート研究における断面解析により,耐糖能異常が無症候性脳虚血病変の危険因子となるかどうかを検討した。その結果,耐糖能異常と糖尿病は,いずれも無症候性脳虚血性病変の危険因子ではないことが示された。この結果から,耐糖能異常は無症候性脳虚血性病変の形成に有意な寄与をしていないことが示唆される。
Saitoh T, et al. Type 2 diabetes is not a risk factor for asymptomatic ischemic brain lesion--the Funagata study. Intern Med. 2002; 41: 351-6.
- コホート
- 1998~1999年に日常生活動作が正常で脳卒中既往のない187人を登録し,ベースライン時の神経学検査で異常がみつかった11人を除いた175人(男性82人,女性93人)を対象として解析した。
75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)により,1985年のWHO診断基準にしたがって糖尿病と耐糖能異常(impaired glucose tolerance, IGT)を診断した。糖尿病については,健診ではじめて診断されたものを短期糖尿病,健診以前からすでに診断されていたものを長期糖尿病とした。
また,無症候性脳虚血性病変の診断のためにMRIを行い,T1強調,T2強調およびFLAIR法(fluid-attenuated inversion recovery)による画像を得た。さらに大脳皮質,大脳基底核,視床,脳幹,小脳などの各領域について,病変の有無および大きさを独自の虚血評価スケールにより点数化して評価を行った。 - 結 果
- 正常,耐糖能異常(IGT),短期糖尿病,長期糖尿病の人数および平均年齢は以下のとおり。
正常: 48人(男性21人,女性27人,60歳)
IGT: 62人(28人,34人,62歳)
短期糖尿病: 20人(10人,10人,61歳)
長期糖尿病: 45人(23人,22人,63歳)
ヘモグロビンA1cの平均値を各群で比べると,長期糖尿病>短期糖尿病>IGT>正常となった。また,BMIと血中トリグリセリドの値は,短期糖尿病群のほうが正常群よりも有意に高かった。高脂血症,高血圧,収縮期血圧,年齢,性別,血中総コレステロール,および喫煙率では有意差はみられなかった。
MRIにより無症候性脳虚血性病変が見つかった人の割合は以下のとおりで,各群間に有意差はみられなかった。
正常: 81%
IGT: 74%
短期糖尿病: 65%
長期糖尿病: 78%
虚血評価スケールの点数でも,各群間の有意差はみられなかった。
多変量回帰分析によると,無症候性脳虚血性病変の有意な危険因子は,年齢および収縮期血圧(それぞれP=0.0001,P=0.006)。
また,多変量ロジスティック回帰分析によると,年齢の1歳の増加の無症候性脳虚血性病変のオッズ比は1.09倍(95%信頼区間1.04-1.15,P=0.0006)で,高血圧(160 / 90 mmHg以上)を有する場合は3.08倍(1.33-7.14,P=0.009, vs. 正常血圧)となることがわかった。
◇ 結論
日本の農村地域の一般住民を対象としたコホート研究における断面解析により,耐糖能異常が無症候性脳虚血病変の危険因子となるかどうかを検討した。その結果,耐糖能異常と糖尿病は,いずれも無症候性脳虚血性病変の危険因子ではないことが示された。この結果から,耐糖能異常は無症候性脳虚血性病変の形成に有意な寄与をしていないことが示唆される。