[2001年文献] β3アドレナリン受容体遺伝子のアミノ酸多型Trp64Argのうち,Arg/Arg型は肥満および糖尿病と有意に関連していた
日本の農村地域の一般住民を対象としたコホート研究における断面解析により,β3アドレナリン受容体遺伝子のアミノ酸多型(Trp64Arg)と,肥満および2型糖尿病との関連を検討した。その結果,β3アドレナリン受容体遺伝子のTrp64Argのうち,Arg/Arg型が肥満および糖尿病に有意に関与していることがはじめて示された。ただし,少数例であるBMI高値の人や空腹時高血糖の人がArg/Arg群に多く分布していたことから,集団のなかの特定の性質をもつ人においてのみ,Arg/Arg型が肥満もしくは糖尿病に関与する可能性も示唆される。
Oizumi T, et al.; Funagata Diabetes Study. Genotype Arg/Arg, but not Trp/Arg, of the Trp64Arg polymorphism of the beta(3)-adrenergic receptor is associated with type 2 diabetes and obesity in a large Japanese sample. Diabetes Care. 2001; 24: 1579-83.
- コホート
- 1995~1997年にベースライン健診を受けた35歳以上の舟形町住民2013人のうち,調査への同意が得られた1685人(男性750人,女性935人,平均年齢58.7歳)について,末梢血から白血球細胞を採取し,β3アドレナリン受容体遺伝子*の遺伝子型を決定した。
*β3アドレナリン受容体遺伝子はおもに脂肪組織で発現しており,脂質代謝や熱の発生に関与していると考えられている。これまでに,遺伝子産物であるβ3アドレナリン受容体蛋白の64番目のアミノ酸がトリプトファン(Trp)からアルギニン(Arg)に置換するアミノ酸多型(Trp64Arg)が,肥満やインスリン抵抗性,糖尿病と関連しているという報告がある。その一方で関連はなかったとする報告もあり,より大規模な集団での検討がのぞまれてきた。また,日本人ではArg/Arg型が多いとの報告もある。
決定した遺伝子型により,全体をTrp/Trp型を持つ人,Trp/Arg型を持つ人,Arg/Arg型を持つ人の3群にわけて解析を行った。人数,平均年齢は以下のとおり。
Trp/Trp群 1155人(男性539人,女性616人),58.8歳
Trp/Arg群 486人(男性193人,女性293人),58.5歳
Arg/Arg群 44人(男性18人,女性26人),57.7歳
これらの遺伝子型の出現率がハーディー・ワインベルグ平衡にあることから,今回の対象者集団に遺伝的な偏りがなく,これまでに報告されてきた日本人集団とも近い集団であることが示された。 - 結 果
- Arg/Arg群における肥満の割合は,Trp/Arg群,Trp/Trp群にくらべ,それぞれ有意に高かった(いずれもP<0.001)。
Arg/Arg群における2型糖尿病の割合も, Trp/Arg群,Trp/Trp群にくらべ,それぞれ有意に高かった(P=0.051,P=0.007)。
肥満および2型糖尿病の割合は以下のとおり(それぞれArg/Arg群,Trp/Arg群,Trp/Trp群における割合,*P<0.05)。
肥満: 13.6 %,2.06 %*,3.29 %*
糖尿病: 13.6 %,5.97 %,4.16 %*
肥満や糖尿病,高血圧,脂質代謝異常などに関連するとされる因子のうち,Arg/Arg群でTrp/Trp群よりも有意に高い値を示したのは以下の3項目。
空腹時血中インスリン(Arg/Arg群 5.84 microU/mL,Trp/Trp群 4.50 microU/mL,P=0.036)
BMI(25.07 kg/m2,23.63 kg/m2,P=0.018)
体脂肪率(28.82%,25.96%,P=0.038)
Trp/Arg群では,いずれの因子についてもTrp/Trp群と有意な差はみられなかった。
BMIおよび空腹時血糖値の分布のパターンを調べたところ,大半を占める正常者(BMI 30kg/m2未満)の分布については各遺伝子型間で有意差がなかったものの,BMI 30kg/m2以上の人の割合はArg/Arg群でTrp/Trp群よりも有意に高かった。Trp/Arg群ではTrp/Trp群と有意差はなかった。
空腹時血糖値でも同様に,大半を占める正常者(空腹時血糖110 mg/dL未満)の分布については各遺伝子型間で有意差がなかったものの,空腹時血糖が高い人の分布はArg/Arg群とTrp/Trp群で有意に異なっていた。Trp/Arg群ではTrp/Trp群と有意差はなかった。
これらの結果より,集団のなかの限られた人においてのみ,Arg/Arg型が肥満もしくは糖尿病に関与している可能性が示唆される。
◇ 結論
日本の農村地域の一般住民を対象としたコホート研究における断面解析により,β3アドレナリン受容体遺伝子のアミノ酸多型(Trp64Arg)と,肥満および2型糖尿病との関連を検討した。その結果,β3アドレナリン受容体遺伝子のTrp64Argのうち,Arg/Arg型が肥満および糖尿病に有意に関与していることがはじめて示された。ただし,少数例であるBMI高値の人や空腹時高血糖の人がArg/Arg群に多く分布していたことから,集団のなかの特定の性質をもつ人においてのみ,Arg/Arg型が肥満もしくは糖尿病に関与する可能性も示唆される。