[1999年文献] 食後高血糖は心血管疾患死亡と有意に相関するが,空腹時高血糖は相関なし

日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,耐糖能異常(IGT)および空腹時血糖高値(IFG)が心血管疾患死亡の危険因子となるかどうかを検討した。7年間の追跡の結果,IGTは心血管疾患死亡の有意な危険因子であったが,IFGは有意な危険因子とはならなかった。経口糖負荷試験を要するIGTの診断にくらべるとIFGの診断はたしかに簡便だが,心血管疾患予防の観点からは,IFGのみでは不十分であるといえる。

Tominaga M, et al. Impaired glucose tolerance is a risk factor for cardiovascular disease, but not impaired fasting glucose. The Funagata Diabetes Study. Diabetes Care. 1999; 22: 920-4.pubmed

コホート
1990~1992年にベースライン健診を受けた40歳以上の2995人のうち,脳血管疾患既往がある,もしくは追跡困難となるような障害のある344人を除いた2651人(男性1165人,女性1486人)を1996年まで7年間追跡した。
外来受診歴から糖尿病の既往が明らかであった117人を除いた2534人について75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行った。
結 果
ベースライン健診の結果をもとに1985年のWHOの基準を用いて診断したところ,正常2106人,耐糖能異常(impaired glucose tolerance,IGT)382人,糖尿病253人(糖尿病既往が明らかであった117人を含む)であった。
一方,1997年の米国糖尿病学会(ADA)基準を用いた場合,正常2307人,空腹時高血糖(impaired fasting glucose,IFG)155人,糖尿病189人(糖尿病既往が明らかであった117人を含む)であった。

◇WHO基準に基づくIGTと心血管疾患死亡リスク
全死因死亡率から7年間の累積生存率を求めると,糖尿病群では0.898,IGT群では0.916と,いずれも正常群(0.954)にくらべて有意に低かった(P<0.05)。
同様に心血管疾患死亡率から7年間の累積生存率を求めると,糖尿病群では0.954,IGT群では0.962と,いずれも正常群(0.988)にくらべて有意に低かった(P<0.05)。

コックス比例ハザードモデルによると,IGTおよび糖尿病は,心血管疾患死亡の有意な危険因子だった。全死因死亡では有意なリスク上昇はなかった。
各群の全死因死亡および心血管疾患死亡のハザード比はそれぞれ以下のとおり。(*P<0.05)。
   全死因死亡: [正常] 1.00,[IGT]1.313(95%信頼区間0.837-2.059),[糖尿病]1.205(0.742-1.957)
   心血管疾患死亡: [正常] 1.00,[IGT] 2.219*(1.076-4.577),[糖尿病] 2.274*(1.069-4.838)
また,人・年法によるオッズ比を用いた解析でも同様の結果が得られた。

◇ADA基準に基づくIFGと心血管疾患死亡リスク
全死因死亡率から7年間の累積生存率を求めると,IFG群は0.919,正常群は0.951で,両群間の有意差はみられなかった。
同様に心血管疾患死亡率から7年間の累積生存率を求めても,IFG群(0.977)と正常群(0.985)のあいだに有意差はみられなかった。

コックス比例ハザードモデルによると,IFGは全死亡および心血管疾患死亡の有意な危険因子ではなかった。IFG群および正常群の全死因死亡および心血管疾患死亡のハザード比はそれぞれ以下のとおり(*P<0.05)。
   全死因死亡: [正常] 1.00,[IFG] 1.236(95%信頼区間0.643-2.378),[糖尿病] 1.706*(1.072-2.715)
   心血管疾患死亡: [正常] 1.00,[IFG] 1.136(0.345-3.734),[糖尿病] 2.484*(1.226-5.033)
人・年法によるオッズ比を用いた解析でも同様の結果が得られた。

e008_0_0010 ◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,耐糖能異常(IGT)および空腹時血糖高値(IFG)が心血管疾患死亡の危険因子となるかどうかを検討した。7年間の追跡の結果,IGTは心血管疾患死亡の有意な危険因子であったが,IFGは有意な危険因子とはならなかった。経口糖負荷試験を要するIGTの診断にくらべるとIFGの診断はたしかに簡便だが,心血管疾患予防の観点からは,IFGのみでは不十分であるといえる。


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