[2008年文献] 耐糖能異常(IGT)は脳卒中の危険因子
耐糖能異常が脳卒中の危険因子であるかどうかについて,日本人一般住民を対象とした追跡研究による検討を行った。その結果,耐糖能異常は脳卒中の独立した危険因子であることが示された。空腹時高血糖と脳卒中との関連はみとめられなかった。
Oizumi T, et al. Impaired glucose tolerance is a risk factor for stroke in a Japanese sample--the Funagata study. Metabolism. 2008; 57: 333-8.
- コホート
- 1990~1992年にベースライン健診を受けた40歳以上の2658人,および1993~1997年にベースライン健診を受けた35歳以上の824人の計3482人を平均116.5か月間追跡。
ベースライン健診時に,脳卒中既往または試験への参加が困難となるような障害をもつ377人を除外した。
追跡率は84.3 %。
外来受診歴または保健師の問診により糖尿病の治療をしていることが明らかであった167人を除いた全参加者について,75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行った。 - 結 果
- ◇ 対象背景
ベースラインの経口ブドウ糖負荷試験の結果をもとに1998年のWHOの基準を用いて診断したところ,正常耐糖能(NGT: normal glucose tolerance)2189人,耐糖能異常(IGT: impaired glucose tolerance)429人,糖尿病(DM: diabetes mellitus)320人(糖尿病既往が明らかであった167人を含む)であった。
なお,空腹時血糖による空腹時高血糖(IFG: impaired fasting glucose)および糖尿病の診断もあわせて行ったところ,正常空腹時血糖2520人,空腹時高血糖172人,糖尿病246人(糖尿病既往が明らかであった167人を含む)であった。
NGT群,IGT群,DM群における対象背景はそれぞれ以下のとおり(*P<0.05 vs. NGT)。
年齢(歳): 55.4,60.8*,65.0*
体重(kg): 56.6,57.9*,59.9*
空腹時血糖(mg/dL): 90.5,101.7*,130.2*
食後2時間血糖(mg/dL): 99.2,150.2*,244.0*
腹囲(cm): 78.4,83.2*,86.7*
ウエスト/ヒップ比: 0.856,0.893*,0.910*
BMI(kg/m2): 23.33,24.81*,25.89*
高血圧(%): 21.4,35.2,51.9
◇ 耐糖能異常と心血管疾患発症率
脳卒中の発症は158人(5.4 %)で,うち脳梗塞は104人,脳出血は45人,病型不明は7人。
冠動脈疾患の発症は94人(3.2 %)。
各群における心血管疾患発症のオッズ比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
・ 全心血管疾患
NGT群: 1
IGT群: 1.77 (1.68-1.87)
DM群: 2.55 (2.35-2.75)
・ 脳卒中
NGT群: 1
IGT群: 1.87 (1.73-2.03)
DM群: 3.57 (3.21-3.98)
・ 冠動脈疾患
NGT群: 1
IGT群: 1.53 (1.31-1.78)
DM群: 3.47 (2.91-4.14)
◇ 耐糖能異常・空腹時高血糖と心血管疾患発症リスク
Cox比例ハザード解析により,全心血管疾患,脳卒中,冠動脈疾患の危険因子を検討した結果のハザード比は以下のとおり(95 %信頼区間)で,DMは全心血管疾患および冠動脈疾患の有意な危険因子,IGTは脳卒中の有意な危険因子であった。IFGは,いずれの疾患とも有意な関連を示さなかった。
・ 全心血管疾患
年齢(+1歳): 1.06 (1.05-1.08,P<0.001)
性別(女性): 0.54 (0.42-0.70,P<0.001)
高血圧: 1.62 (1.25-2.11,P<0.001)
IGT(vs. NGT): 1.37 (0.99-1.89,P=0.054)
DM(vs. NGT): 1.50 (1.08-2.10,P=0.017)
・ 脳卒中
年齢(+1歳): 1.06 (1.05-1.08,P<0.001)
性別(女性): 0.63 (0.46-0.86,P=0.004)
高血圧: 1.26 (1.03-1.54,P=0.025)
IGT(vs. NGT): 1.51 (1.02-2.24,P=0.039)
DM(vs. NGT): 1.47 (0.96-2.25,P=0.079)
・ 冠動脈疾患
年齢(+1歳): 1.07 (1.05-1.09,P<0.001)
性別(女性): 0.45 (0.29-0.68,P<0.001)
高血圧: 1.06 (0.80-1.41,P=0.679)
IGT(vs. NGT): 1.21 (0.69-2.13,P=0.509)
DM(vs. NGT): 1.97 (1.18-3.28,P=0.010)
◇ 結論
耐糖能異常が脳卒中の危険因子であるかどうかについて,日本人一般住民を対象とした追跡研究による検討を行った。その結果,耐糖能異常は脳卒中の独立した危険因子であることが示された。空腹時高血糖と脳卒中との関連はみとめられなかった。