[2005年文献] 禁煙2年でも心血管疾患死亡リスクが低下
日本人一般住民を対象とした約10年間の大規模コホート研究により,喫煙状況と心血管疾患(CVD)死亡リスクとの関連を検討した。その結果,喫煙は全CVD死亡,脳卒中死亡,冠動脈疾患死亡リスクといずれも有意に関連しており,禁煙により死亡リスクが抑制できることが示唆された。また,禁煙者では禁煙してからの期間が長いほどリスク低下度が大きかったが,冠動脈疾患死亡と全CVD死亡については禁煙後2年以内,脳卒中死亡でも禁煙後2~4年でリスクの低下がみられた。以上の結果より,CVD予防のためには,年齢にかかわらず禁煙することが重要であると考えられる。
Iso H, et al.; JACC Study Group. Smoking cessation and mortality from cardiovascular disease among Japanese men and women: the JACC Study. Am J Epidemiol. 2005; 161: 170-9.
- コホート
- 国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加した40~79歳の110,792人のうち,喫煙状況に関するデータに不備がある,または脳卒中・冠動脈疾患・癌の既往がある人を除いた94,683人(男性41,782人,女性52,901人)を平均9.9年間追跡。
- 結 果
- ◇ 対象背景
喫煙者の割合は男性54 %,女性5 %で,以前喫煙していたが現在はしていない人(禁煙者)の割合は26 %,2 %だった。
平均年齢は,喫煙未経験者が男性56.6歳,女性57.1歳,禁煙者が59.5歳,60.0歳,喫煙者が56.0歳,56.1歳だった。
喫煙者は喫煙未経験者よりも年齢が若い,教育年数が短い,精神的ストレスが多い,糖尿病が多い,アルコール摂取量が多いなどの傾向がみとめられた。
禁煙者については,喫煙未経験者よりも年齢が高い,教育年数が長い,精神的ストレスが多い,高血圧および糖尿病が多い,身体活動をする割合が低い,アルコール摂取量が多いなどの傾向がみとめられた。
◇ 喫煙状況と心血管疾患(CVD)死亡リスク
CVDにより死亡したのは男性1,555人,女性1,155人で,内訳は以下のとおり。
脳卒中死亡: 698人,550人
脳梗塞死亡: 269人,189人
脳出血死亡: 180人,120人
くも膜下出血死亡: 75人,123人
冠動脈疾患(CHD)死亡: 348人,199人
喫煙未経験者,禁煙者,喫煙者のそれぞれにおける多変量調整相対危険度(95 %信頼区間)は以下のとおり。
・ 男性
全CVD死亡: 1.0,1.09 (0.94-1.28),1.60 (1.39-1.84)
全脳卒中死亡: 1.0,0.95 (0.76-1.20),1.39 (1.13-1.70)
脳梗塞死亡: 1.0,0.84 (0.59-1.19),1.23 (0.90-1.69)
脳出血死亡: 1.0,1.05 (0.66-1.68),1.48 (0.97-2.24)
くも膜下出血死亡: 1.0,1.67 (0.68-4.14),2.98 (1.34-6.63)
CHD死亡: 1.0,1.66 (1.15-2.39),2.51 (1.79-3.51)
・ 女性
全CVD死亡: 1.0,1.33 (0.94-1.87),2.06 (1.69-2.51)
全脳卒中死亡: 1.0,1.20 (0.71-2.03),1.65 (1.21-2.25)
脳梗塞死亡: 1.0,1.24 (0.54-2.88),1.64 (0.97-2.79)
脳出血死亡: 1.0,1.20 (0.38-3.83),1.10 (0.51-2.40)
くも膜下出血死亡: 1.0,0.90 (0.22-3.69),3.25 (1.92-5.52)
CHD死亡: 1.0,0.90 (0.33-2.45),3.35 (2.23-5.02)
◇ 禁煙後の経過期間とCVD死亡リスク
喫煙者を対照として,禁煙者における禁煙後の経過期間とCVD死亡リスクの低下度の関連を検討した。
冠動脈疾患死亡と全CVD死亡については禁煙後2年以内,脳卒中死亡でも禁煙後2~4年からリスクの低下がみられた。また,いずれの死亡リスクについても低下度は禁煙後10~14年でもっとも大きくなり,喫煙未経験者と同程度となった。
以下はそれぞれ,喫煙者,禁煙後0~1年,2~4年,5~9年,10~14年,15年以上,および喫煙未経験者の死亡の相対危険度(95 %信頼区間)。
・ 全CVD死亡: 1.0,0.81 (0.59-1.11),0.88 (0.71-1.10),0.73 (0.59-0.90),0.54 (0.42-0.71),0.56 (0.46-0.67),0.47 (0.37-0.60)
・ 脳卒中死亡: 1.0,1.03 (0.66-1.60),0.73 (0.50-1.06),0.75 (0.54-1.04),0.48 (0.31-0.74),0.71 (0.55-0.92),0.53 (0.37-0.76)
・ CHD死亡: 1.0,0.33 (0.12-0.88),0.91 (0.59-1.40),0.83 (0.56-1.24),0.47 (0.27-0.83),0.42 (0.28-0.63),0.43 (0.23-0.78)
◇ 喫煙開始年齢とCVD死亡リスク
喫煙者,および禁煙者における喫煙開始年齢とCVD死亡リスクとの関連を検討した結果,喫煙者におけるCHD死亡リスクを除き,有意な関連はみとめられなかった。
喫煙者における喫煙開始年齢ごとのCHD死亡リスク(vs. 喫煙未経験者)は以下のとおり。
20歳未満: 3.68 (95 %信頼区間2.33-5.74)
20~24歳: 2.96 (2.06-4.26)
25~29歳: 2.31 (1.41-3.77)
30歳以上: 1.80 (1.15-2.82)
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした約10年間の大規模コホート研究により,喫煙状況と心血管疾患(CVD)死亡リスクとの関連を検討した。その結果,喫煙は全CVD死亡,脳卒中死亡,冠動脈疾患死亡リスクといずれも有意に関連しており,禁煙により死亡リスクが抑制できることが示唆された。また,禁煙者では禁煙してからの期間が長いほどリスク低下度が大きかったが,冠動脈疾患死亡と全CVD死亡については禁煙後2年以内,脳卒中死亡でも禁煙後2~4年でリスクの低下がみられた。以上の結果より,CVD予防のためには,年齢にかかわらず禁煙することが重要であると考えられる。