[2009年文献] 睡眠時間と全死亡リスクはU字型に関連し,女性の短い睡眠時間は冠動脈疾患死亡リスク
睡眠時間と全死亡および死因別死亡リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした大規模コホート研究(14.3年間追跡)における検討を行った。その結果,睡眠時間と全死亡リスクはU字型の関連を示し,もっともリスクが低いのは睡眠時間7時間のカテゴリーであった。死因別にみると,睡眠時間が4時間以下と短い人では,7時間の人にくらべ,男女とも非癌・非心血管疾患死亡のリスクが有意に高く,女性では冠動脈疾患死亡リスクも有意に高かった。一方,睡眠時間が10時間以上と長い人では,男女とも全脳卒中死亡,虚血性脳卒中死亡,全心血管疾患死亡,非癌・非心血管疾患死亡リスクが有意に高くなっていた。
Ikehara S, et al.; JACC Study Group. Association of sleep duration with mortality from cardiovascular disease and other causes for Japanese men and women: the JACC study. Sleep. 2009; 32: 295-301.
- コホート
- 国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加した40~79歳の110792人のうち,データに不備のある6782人,癌・脳卒中・冠動脈疾患既往のある5376人を除いた98634人(男性41489人,女性57145人)を14.3年間(中央値)追跡(1270585人・年)。
睡眠時間は質問票により調査し,対象者を4時間以下,5時間,6時間,7時間,8時間,9時間,10時間以上の7つのカテゴリーに分類した(小数点第1位を四捨五入)。 - 結 果
- ◇ 対象背景
睡眠時間の分布は以下のとおりとなった。
4時間以下: 男性1%,女性1%
5時間: 3%,5%
6時間: 13%,20%
7時間: 32%,38%
8時間: 39%,29%
9時間: 8%,5%
10時間以上: 4%,2%
睡眠時間が7時間より長いまたは短いカテゴリーでは,年齢,および抑うつ症状をもつ人の割合が高かった。また,睡眠時間が短いカテゴリーでは自覚的精神的ストレスの割合が高く,長いカテゴリーでは大学卒業者の割合が低かった。
◇ 睡眠時間と全死亡リスク
追跡期間中に死亡したのは14540人(男性8548人,女性5992人)で,内訳は以下のとおり。
全心血管疾患死亡: 4287人(2297人,1990人)
脳卒中死亡: 1964人(1038人,926人)
冠動脈疾患死亡: 881人(508人,373人)
癌死亡: 5465人(3432人,2033人)
睡眠時間のカテゴリーごとの全死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,男女とも,長いカテゴリー,短いカテゴリーのいずれにおいても有意なリスク増加がみとめられた。
4時間以下: 男性1.29(1.02-1.64),女性1.28(1.03-1.60)
5時間: 1.02(0.90-1.16),1.11(0.98-1.25)
6時間: 1.08(1.00-1.16),1.05(0.97-1.14)
7時間: 1.00,1.00(対照)
8時間: 1.06(1.00-1.12),1.16(1.08-1.24)
9時間: 1.13(1.05-1.22),1.32(1.20-1.45)
10時間以上: 1.41(1.29-1.54),1.56(1.40-1.75)
◇ 睡眠時間と死因別死亡リスク
死因ごとに,睡眠時間7時間を対照として死亡のハザード比をカテゴリー間で比較した結果は以下のとおりであった。
- 全脳卒中死亡: 男女とも,7時間のカテゴリーにくらべ,睡眠時間が長いカテゴリーで有意なリスク増加がみられた。
- 出血性脳卒中死亡: 男女とも,睡眠時間による有意な差はみとめられなかった。男性では4時間以下のカテゴリーでリスクが高めであったことから,アルコール摂取状況による層別化解析を行った結果,睡眠時間が短い人(4時間以下+5時間)の出血性脳卒中死亡リスク(vs. 7時間)は,現在飲酒者で2.03(95%信頼区間1.01-4.08)と有意に高かったが,禁酒者および飲酒未経験者では1.33(0.38-4.66)と有意差はみられなかった。
- 虚血性脳卒中死亡: 男女とも,睡眠時間が長いカテゴリーで有意なリスク増加がみられた。
- 冠動脈疾患死亡: 男性では,睡眠時間による有意な差はみとめられなかったが,女性では,睡眠時間が4時間以下,5時間,および9時間のカテゴリーで有意なリスク増加がみられた。
- 全心血管疾患死亡: 男女とも,睡眠時間が長いカテゴリーで有意なリスク増加がみられた。
- 癌死亡: 男女とも,睡眠時間による有意な差はみとめられなかった。
- 非癌・非心血管疾患死亡: 男女とも,睡眠時間が長いカテゴリー,および短いカテゴリーのいずれにおいても有意なリスク増加がみとめられた。
◇ 結論
睡眠時間と全死亡および死因別死亡リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした大規模コホート研究(14.3年間追跡)における検討を行った。その結果,睡眠時間と全死亡リスクはU字型の関連を示し,もっともリスクが低いのは睡眠時間7時間のカテゴリーであった。死因別にみると,睡眠時間が4時間以下と短い人では,7時間の人にくらべ,男女とも非癌・非心血管疾患死亡のリスクが有意に高く,女性では冠動脈疾患死亡リスクも有意に高かった。一方,睡眠時間が10時間以上と長い人では,男女とも全脳卒中死亡,虚血性脳卒中死亡,全心血管疾患死亡,非癌・非心血管疾患死亡リスクが有意に高くなっていた。