[2010年文献] 女性の肺炎クラミジア感染は冠動脈疾患死亡リスクと関連していたが,男性では関連なし
冠動脈疾患(CHD)例の約半数は,脂質異常症などの既知の危険因子を有しておらず,発症に至る病因が不明といわれている。そのようななかで,動脈硬化に関与しているとされる慢性的な炎症を引き起こす微生物の感染,とくに肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)の感染が注目されている。そこで,肺炎クラミジア感染と虚血性心疾患死亡との関連について,日本人一般住民を対象とした13年間の大規模コホート研究による検討を行った。その結果,女性では,肺炎クラミジアのIgA抗体価指数が高いとCHD死亡リスクが有意に増加することが示された。IgA抗体価高値は持続的な感染や繰り返す感染を反映しており,そうした状態が女性のCHD死亡のリスクとなる可能性が示唆された。
Sakurai-Komada N, et al. Chlamydia pneumoniae infection was associated with risk of mortality from coronary heart disease in Japanese women but not men: the JACC Study. J Atheroscler Thromb. 2010; 17: 510-6.
- コホート
- 国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加した40~79歳の110792人のうち,39242人について研究参加への同意を得て血液検査を実施した。このうち,心血管疾患または癌の既往のある1473人を除外した37769人(男性13282人,女性24487人)を2003年末(4地区は1999年)にかけて13年間追跡。
追跡期間中の冠動脈疾患死亡例のそれぞれについて,性別,年齢(±5歳),居住地区が一致する対照者を選び出し,検討を行った(コホート内症例対照研究)。
血中の肺炎クラミジアIgA抗体価,IgG抗体価を測定し,それぞれの結果により全体を以下のように三分位に分けて検討を行った。
・ 肺炎クラミジアIgA抗体価指数: <0.95,0.95~1.90,≧1.91
・ 肺炎クラミジアIgG抗体価指数: <1.67,1.67~2.87,≧2.88 - 結 果
- ◇ 対象背景
追跡期間中に冠動脈疾患(CHD)により死亡したのは209人(男性113人,女性96人)。
CHD死亡者の平均年齢は,男性67.7歳,女性64.2歳。
CHD死亡者では,対照者にくらべ,ベースライン時の高血圧の割合,糖尿病の割合,および高感度CRP値が有意に高かった。1日のアルコール摂取量,およびHDL-Cについては有意差はみとめられなかった。
◇ 肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)感染とCHD死亡リスク
肺炎クラミジアIgGおよびIgAの抗体価指数による三分位ごとにCHD死亡リスクを比較した結果,男性では,いずれもCHD死亡リスクとの関連はみられなかった。
女性では,IgGおよびIgAの抗体価指数が高くなるほど,CHD死亡リスクが増加する傾向がみとめられた。IgA抗体価指数がもっとも高い三分位におけるCHD死亡のオッズ比は,多変量調整後,もっとも低い三分位に比して有意となった(オッズ比2.69,95%信頼区間1.00-7.20,P=0.049)。一方,IgG抗体価指数については,多変量調整後も,もっとも高い三分位における有意なCHD死亡リスクの増加はみられなかった(オッズ比1.69,0.60-4.77,P=0.32)。
◇ 結論
冠動脈疾患(CHD)例の約半数は,脂質異常症などの既知の危険因子を有しておらず,発症に至る病因が不明といわれている。そのようななかで,動脈硬化に関与しているとされる慢性的な炎症を引き起こす微生物の感染,とくに肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)の感染が注目されている。そこで,肺炎クラミジア感染と虚血性心疾患死亡との関連について,日本人一般住民を対象とした13年間の大規模コホート研究による検討を行った。その結果,女性では,肺炎クラミジアのIgA抗体価指数が高いとCHD死亡リスクが有意に増加することが示された。IgA抗体価高値は持続的な感染や繰り返す感染を反映しており,そうした状態が女性のCHD死亡のリスクとなる可能性が示唆された。