[2010年文献] 食物繊維の摂取量は,水溶性,不溶性ともに冠動脈疾患死亡リスクと負の関連

日本人一般住民を対象とした大規模コホート研究(平均14.3年間追跡)により,食物繊維の摂取量と心血管疾患死亡リスクとの関連を検討した。その結果,全食物繊維,不溶性食物繊維,水溶性食物繊維,シリアル由来の食物繊維,果物由来の食物繊維の摂取量は,いずれも冠動脈疾患死亡リスクとの有意な負の関連を示していた。これらの結果は男女でほぼ同様であり,冠動脈疾患死亡リスクとの負の関連は,水溶性食物繊維よりも不溶性食物繊維,シリアル由来の食物繊維よりも果物由来の食物繊維のほうが強かった。

Eshak ES, et al.; the JACC Study Group. Dietary Fiber Intake Is Associated with Reduced Risk of Mortality from Cardiovascular Disease among Japanese Men and Women. J Nutr. 2010; 140: 1445-1453.pubmed

コホート
国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加した40~79歳の110792人のうち,冠動脈疾患,脳卒中または癌の既往のある16109人,総摂取エネルギー量が極端に高いまたは低い123人,食物摂取頻度調査票(FFQ: food frequency questionnaire)のデータに不備がある人を除いた58730人(男性23119人,女性35611人)を2003年まで平均14.3年間追跡。

食物繊維の摂取量については,FFQを用いて40の食品項目の摂取頻度をたずね,食品成分表をもとに食物繊維(全食物繊維,不溶性食物繊維,水溶性食物繊維)の含まれる項目の摂取頻度と標準的な単位摂取量をかけあわせて1日あたりの摂取量(g)を算出。
1日あたりの全食物繊維摂取量の五分位によって,男女ごとに以下のように5つのカテゴリーに対象者を分類した。
・男性
  Q1(もっとも少ない): <7.8 g,Q2: 7.8~9.4 g,Q3: 9.5~10.8 g,Q4: 10.9~12.6 g,Q5(もっとも多い): >12.6 g
・女性
  Q1: <8.5 g,Q2: 8.5~9.9 g,Q3: 10.0~11.1 g,Q4: 11.2~12.7 g,Q5: >12.7 g

また,不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の摂取量についても五分位によるカテゴリーを設定。
それぞれについて,心血管疾患死亡(CVD)リスク,ならびにその内訳として脳卒中死亡リスク,冠動脈疾患死亡リスク,およびその他のCVD死亡リスクとの関連を検討した。
結 果
◇ 対象背景
男女とも,全食物繊維の摂取量が多いカテゴリーほど高い傾向がみられたのは年齢,BMI,大学卒業以上の学歴をもつ割合,身体活動の頻度,ウォーキングの頻度で,摂取量が多いほど低い傾向がみられたのはアルコール摂取量(エタノール換算),現在喫煙率,高血圧の割合,総コレステロール,トリグリセリドであった。
また,全食物繊維の摂取量が多いカテゴリーほど摂取量が多かった食品・栄養素は,魚,野菜,果物,肉類,乳製品,大豆,カルシウム,カリウム,ナトリウム,ビタミンB6,イソフラボン,n-3系脂肪酸,飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸,多価不飽和脂肪酸,コレステロールであった。
これらの結果は,不溶性食物繊維と水溶性食物繊維についてみた場合もほぼ同様であった。

◇ 食物繊維の摂取と心血管疾患(CVD)死亡リスク
・ 全食物繊維
男女とも,摂取量が多いカテゴリーほど冠動脈疾患死亡のハザード比(多変量調整*)が有意に低下する傾向がみとめられた(男性: P for trend=0.022,女性: P for trend=0.014)。男性のQ5のQ1に対するハザード比は0.81(95%信頼区間0.61-1.09),女性のQ5では0.80(0.57-0.97)であった。
また女性では,摂取量が多いカテゴリーほどCVD死亡のハザード比が有意に低下する傾向もみとめられた(P for trend=0.044)。Q5のQ1に対するハザード比は0.82(0.57-0.97)。
脳卒中死亡,およびその他のCVD死亡については有意な関連はみられなかった。
これらの結果は,男女をあわせた解析でも同様であった。

*年齢,BMI,高血圧既往,糖尿病既往,アルコール摂取量,喫煙状況,学歴,身体活動量,ウォーキング時間,自覚的な精神的ストレス,睡眠時間,魚の摂取量,飽和脂肪酸摂取量,n-3系脂肪酸摂取量,ナトリウム摂取量,葉酸摂取量およびビタミンE摂取量により調整

・ 不溶性食物繊維
男女とも,摂取量が多いカテゴリーほど冠動脈疾患死亡,およびCVD死亡のハザード比(多変量調整)が有意に低下する傾向がみとめられた(男性の冠動脈疾患死亡のP for trend<0.001,女性の冠動脈疾患死亡のP for trend=0.004,男性のCVD死亡のP for trend=0.042,女性のCVD死亡のP for trend=0.017)。
脳卒中死亡,およびその他のCVD死亡については有意な関連はみられなかった。
これらの結果は,男女をあわせた解析でも同様であった。

・ 水溶性食物繊維
男女とも,摂取量が多いカテゴリーほど冠動脈疾患死亡,およびCVD死亡のハザード比(多変量調整)が有意に低下する傾向がみとめられた(男性の冠動脈疾患死亡のP for trend=0.043,女性の冠動脈疾患死亡のP for trend=0.035,男性のCVD死亡のP for trend=0.042,女性のCVD死亡のP for trend=0.043)。
脳卒中死亡,およびその他のCVD死亡については有意な関連はみられなかった。
これらの結果は,男女をあわせた解析でも同様であった。

◇ シリアル,野菜,果物由来の食物繊維の摂取量とCVD死亡リスク
上記の結果をうけて,おもな摂取源であるシリアル,果物,および野菜からの食物繊維の摂取量と冠動脈疾患死亡リスクとの関連を検討した。
シリアル由来の食物繊維については,女性において,摂取量が多いほど冠動脈疾患死亡のハザード比が有意に低下する傾向がみられたが(P for trend=0.044),男性では有意な関連なし。
果物由来の食物繊維については,男女とも,摂取量が多いほど冠動脈疾患死亡のハザード比が有意に低下する傾向がみられた(男性のP for trend=0.032,女性のP for trend=0.014)。
野菜由来の食物繊維については,男女とも摂取量と冠動脈疾患死亡リスクの関連はみられなかった。


◇ 結論
日本人一般住民を対象とした大規模コホート研究(平均14.3年間追跡)により,食物繊維の摂取量と心血管疾患死亡リスクとの関連を検討した。その結果,全食物繊維,不溶性食物繊維,水溶性食物繊維,シリアル由来の食物繊維,果物由来の食物繊維の摂取量は,いずれも冠動脈疾患死亡リスクとの有意な負の関連を示していた。これらの結果は男女でほぼ同様であり,冠動脈疾患死亡リスクとの負の関連は,水溶性食物繊維よりも不溶性食物繊維,シリアル由来の食物繊維よりも果物由来の食物繊維のほうが強かった。


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