[2015年文献] 野菜・果物の摂取頻度が低い人では,マルチビタミン剤の摂取が脳卒中死亡リスク低下と関連
これまでに,ビタミンやミネラルに富む果物や野菜の摂取が脳卒中発症リスクの低下と関連すること,またビタミンCや葉酸,マグネシウムなどの栄養素の摂取が脳卒中予防に有効である可能性が報告されている。そこで,マルチビタミン剤の摂取と脳卒中死亡リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究における検討を行った。19.1年間(中央値)の追跡の結果,食事調査でマルチビタミン剤をとっていると答えた人(摂取者)では,非摂取者に比して全脳卒中死亡,ならびに虚血性脳卒中死亡のリスクが低下する傾向がみられたものの,有意性はボーダーライン上であった。層別解析を行うと,野菜および果物の摂取頻度が1日3回未満の人では,マルチビタミン剤の摂取が全脳卒中死亡,ならびに虚血性脳卒中死亡リスクの低下と有意に関連していた。
Dong JY, et al.; Japan Collaborative Cohort Study Group. Multivitamin use and risk of stroke mortality: the Japan collaborative cohort study. Stroke. 2015; 46: 1167-72.
- コホート
- 国内の45地区の居住者で,1988~1990年のベースライン調査に参加し,生活習慣や既往歴に関する自己記入式質問票に回答した40~79歳の110585人のうち,脳卒中,癌または心筋梗塞の既往のある人,マルチビタミン剤の摂取に関する情報のない人,BMIが16 kg/m2未満または40 kg/m2超の人,および総摂取エネルギーが極端に低いまたは高い人(1日800 kcal未満または4000 kcal超)を除いた72180人を19.1年間追跡(中央値)。
自己記入式質問票により,過去1年間におけるマルチビタミン剤,ならびにその他の単独のビタミン剤の摂取の有無と頻度(毎日/ときどき)をたずねた。
また,33品目の食物摂取頻度調査票(FFQ)による食事調査も行った。 - 結 果
- ◇ 対象背景
マルチビタミン剤を摂取していたのは13.1%(9483人)。
マルチビタミン剤の摂取者で非摂取者に比して有意に高い値を示していたのは,男性の割合,教育年数,糖尿病既往の割合,飲酒率,喫煙率,1日30分以上の運動をする人の割合,大きな精神的ストレスを有する人の割合,ビタミンCサプリメントの摂取率,ビタミンEサプリメントの摂取率,赤身肉を毎日摂取する人の割合,1日2回以上果物を摂取する人の割合。
一方,摂取者で非摂取者に比して有意に低い値を示していたのはBMIであった。
マルチビタミン剤を毎日摂取する人では,ときどき摂取する人に比して,年齢,高血圧や糖尿病の既往の割合,および大きな精神的ストレスを有する人の割合が有意に高かった。
◇ マルチビタミン剤の摂取と脳卒中死亡リスク
追跡期間中に脳卒中により死亡したのは2087人。
うち虚血性脳卒中死亡は1148人,出血性脳卒中死亡は877人,病型不明の脳卒中による死亡は62人であった。
マルチビタミン剤の摂取者における,非摂取者に比した脳卒中および各病型の死亡の多変量調整ハザード比†は以下のとおりで,全脳卒中死亡および虚血性脳卒中死亡についてのみ,摂取者のリスクが低い傾向がみられたが,いずれも有意性はボーダーライン上であった。
(†年齢,調査地域,BMI,性,教育年数,高血圧既往,糖尿病既往,脳卒中家族歴,飲酒,喫煙,運動習慣,ウォーキングの習慣,精神的ストレス,ビタミンCサプリメントの摂取,ビタミンEサプリメントの摂取,魚の摂取,赤身肉の摂取,果物の摂取,野菜の摂取,総摂取エネルギーにより調整)
全脳卒中死亡: 0.87(95%信頼区間0.76-1.01),P=0.07
虚血性脳卒中死亡: 0.80(0.63-1.01),P=0.06
出血性脳卒中死亡: 0.96(0.78-1.18),P=0.70
この結果は,マルチビタミン剤を毎日摂取する人とときどき摂取する人に分けて行った解析でも同様であった。
◇ 層別解析
年齢(65歳未満/以上),性,教育年数(16年未満/以上),ならびに果物・野菜の摂取頻度(1日3回未満/以上)による層別解析を行った結果,果物・野菜の摂取頻度が1日3回未満の人を除いて,マルチビタミン剤の摂取者における脳卒中死亡リスクの低下はみられなかった。
果物・野菜の摂取頻度が1日3回未満の人では,マルチビタミン剤摂取者の非摂取者に比した脳卒中死亡の多変量調整ハザード比†が0.80(95%信頼区間0.65-0.98)と有意に低かった。
マルチビタミン剤の摂取頻度ごとにみると,マルチビタミン剤を毎日摂取する人では多変量調整ハザード比が0.67(0.45-0.99),ときどき摂取する人では0.86(0.68-1.10)であった。
また,脳卒中病型ごとにみると,マルチビタミン剤の摂取者の非摂取者に比した虚血性脳卒中死亡の多変量調整ハザード比†は0.56(0.39-0.79)と有意に低かったが,出血性脳卒中死亡リスクについては摂取者と非摂取者との有意差はみられなかった。
◇ 結論
これまでに,ビタミンやミネラルに富む果物や野菜の摂取が脳卒中発症リスクの低下と関連すること,またビタミンCや葉酸,マグネシウムなどの栄養素の摂取が脳卒中予防に有効である可能性が報告されている。そこで,マルチビタミン剤の摂取と脳卒中死亡リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究における検討を行った。19.1年間(中央値)の追跡の結果,食事調査でマルチビタミン剤をとっていると答えた人(摂取者)では,非摂取者に比して全脳卒中死亡,ならびに虚血性脳卒中死亡のリスクが低下する傾向がみられたものの,有意性はボーダーライン上であった。層別解析を行うと,野菜および果物の摂取頻度が1日3回未満の人では,マルチビタミン剤の摂取が全脳卒中死亡,ならびに虚血性脳卒中死亡リスクの低下と有意に関連していた。