[2016年文献] 便通の頻度は心血管疾患死亡リスクとは関連していなかったが,心血管危険因子への曝露のマーカーである可能性がある
食生活に関連する生活習慣因子の1つである便秘について,これまでに心血管疾患やその危険因子との関連が指摘されているが,心血管疾患リスクとの直接的な関連はこれまでにほとんど検討されていない。そこで,日本人一般住民を対象とした大規模コホート研究において,便秘の指標としての便通の頻度および便秘薬の使用と,心血管疾患死亡リスクとの関連を検討した。その結果,便通の頻度が低い人では,いくつかの心血管危険因子(糖尿病,自覚的ストレス,抑うつ症状,定期的に運動しないことなど)の保有率が高かったが,心血管疾患死亡リスクの有意な増加はみとめられなかった。このことから,便秘は心血管危険因子保有のマーカーである可能性が示された。一方,便秘薬を使用している男性では冠動脈疾患死亡リスクと虚血性脳卒中死亡リスク,女性では脳卒中死亡リスクと虚血性脳卒中死亡リスクがそれぞれ非使用者に比して有意に高かった。
Kubota Y, et al. Bowel Movement Frequency, Laxative Use, and Mortality From Coronary Heart Disease and Stroke Among Japanese Men and Women: The Japan Collaborative Cohort (JACC) Study. J Epidemiol. 2016; 26: 242-8.
- コホート
- 国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加した40~79歳の110585人のうち,自己記入式質問票で便通や便秘薬使用に関して回答した76174人。このうち癌または心血管疾患既往のある4160人を除いた72014人(男性29668人,女性42346人)を解析の対象とし,2009年末まで追跡した(116万5569人・年)。
便通の頻度に応じて,対象者を以下の3つのカテゴリーに分類した。
毎日: 男性26346人,女性28738人
2~3日に1度: 3006人,11747人
4日以上の間隔: 316人,1861人 - 結 果
- ◇ 対象背景
・便通の頻度
便通の頻度が低いほど値が高い傾向を示していたのは,年齢(男性),糖尿病既往の割合,喫煙率,自覚的ストレスをもつ人の割合,2つ以上の抑うつ症状をもつ人の割合,都市部居住者の割合(女性),および便秘薬使用率。
一方,便通の頻度が低いほど値が低い傾向を示していたのは,年齢(女性),BMI,高血圧既往,飲酒量(男性),毎日1時間以上歩く人の割合,週5時間以上運動する人の割合,食物繊維の摂取量(女性),都市部居住者の割合(男性)および頻繁に下痢がある人の割合(女性)。
・便秘薬の使用
便秘薬使用者のほうが非使用者より有意に高い値を示していたのは,年齢,BMI(女性),高血圧既往,糖尿病既往,喫煙率(女性のみ),自覚的ストレスをもつ人の割合,2つ以上の抑うつ症状をもつ人の割合,都市部居住者の割合,便通の間隔が4日以上の人の割合および頻繁に下痢がある人の割合(男性)。
一方,便秘薬使用者で非使用者より有意に低い値を示していたのは,BMI(男性),飲酒量(男性のみ),毎日1時間以上歩く人の割合,週5時間以上運動する人の割合(女性のみ),食物繊維の摂取量(女性のみ)および頻繁に下痢がある人の割合(女性)。
追跡期間中の死亡は4604人で,内訳は以下のとおりであった。
冠動脈疾患死亡: 977人(男性561人,女性416人)
脳卒中死亡: 2024人(1028人,996人)
虚血性脳卒中死亡: 1127人(606人,521人)
出血性脳卒中死亡: 828人(388人,440人)
◇ 便通の頻度と心血管疾患死亡リスク
便通の頻度ごとの心血管疾患死亡の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,男女とも有意な差はみとめられなかった。
この結果は,脳卒中病型別にみても同様であった。
(†年齢,高血圧既往,糖尿病既往,BMI,飲酒,喫煙,抑うつ症状,自覚的ストレス,歩行時間,運動時間,エネルギーで調整した食物繊維摂取量,居住地域および閉経状況[女性のみ]で調整)
・男性
冠動脈疾患死亡: 毎日1,2~3日に1度1.26(0.99-1.62),4日以上の間隔1.51(0.80-2.83)
脳卒中死亡: 1,1.16(0.96-1.40),1.13(0.70-1.83)
・女性
冠動脈疾患死亡: 1,0.98(0.78-1.23),1.25(0.81-1.94)
脳卒中死亡: 1,0.98(0.84-1.13),1.13(0.84-1.53)
◇ 便秘薬の使用と心血管疾患死亡リスク
便秘薬使用者の非使用者に対する心血管疾患死亡の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,男性では冠動脈疾患死亡および虚血性脳卒中死亡,女性では全脳卒中死亡および虚血性脳卒中死亡のリスクが有意に高くなっていた。
・男性
冠動脈疾患死亡: 1.56(1.21-2.03)
脳卒中死亡: 1.14(0.92-1.41)
虚血性脳卒中死亡: 1.37(1.07-1.76)
出血性脳卒中死亡: 0.68(0.43-1.07)
・女性
冠動脈疾患死亡: 1.28(0.99-1.64)
脳卒中死亡: 1.27(1.08-1.49)
虚血性脳卒中死亡: 1.45(1.17-1.79)
出血性脳卒中死亡: 0.98(0.75-1.28)
以上の結果は,ベースラインから7年以内の死亡を除外した解析でも変わらなかった。
◇ 結論
食生活に関連する生活習慣因子の1つである便秘について,これまでに心血管疾患やその危険因子との関連が指摘されているが,心血管疾患リスクとの直接的な関連はこれまでにほとんど検討されていない。そこで,日本人一般住民を対象とした大規模コホート研究において,便秘の指標としての便通の頻度および便秘薬の使用と,心血管疾患死亡リスクとの関連を検討した。その結果,便通の頻度が低い人では,いくつかの心血管危険因子(糖尿病,自覚的ストレス,抑うつ症状,定期的に運動しないことなど)の保有率が高かったが,心血管疾患死亡リスクの有意な増加はみとめられなかった。このことから,便秘は心血管危険因子保有のマーカーである可能性が示された。一方,便秘薬を使用している男性では冠動脈疾患死亡リスクと虚血性脳卒中死亡リスク,女性では脳卒中死亡リスクと虚血性脳卒中死亡リスクがそれぞれ非使用者に比して有意に高かった。