[2018年文献] 「生きがい」を感じることは,出産未経験または出産回数が6回以上の女性の心血管死亡リスクの低下と関連

日本でのいくつかの研究では,「生きがい」をもつことは,心血管疾患(CVD)とその死亡リスクの低下と関連があるとの報告がある。女性は,仕事・子育て・社会的な活動を生きがいと見なすことが多いが,出産経験のない女性は,大きな社会的ネットワークをもたない場合が多く,一方で,子供が多い女性は,出産や子育てによる精神的・身体的な問題を抱えている場合が多いと考えられる。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,出産回数とCVD死亡リスクとの関連を,生きがいの有無別に検討した。その結果,生きがいを感じていないグループで,出産回数が0回の女性では,出産回数が1回の女性に比して,脳卒中死亡リスクならびにCVD死亡リスクが有意に高かった。また,生きがいを感じていないグループで,出産回数が6回以上の女性では,出産回数が1回の女性に比して,脳卒中死亡リスクが有意に高かった。以上の結果から,人生に生きがいを感じることは,出産未経験の女性ならびに出産回数が6回以上の女性のCVD死亡リスクを低下させる可能性が示唆された。

Yasukawa S, et al. "Ikigai", Subjective Wellbeing, as a Modifier of the Parity-Cardiovascular Mortality Association - The Japan Collaborative Cohort Study. Circ J. 2018; 82: 1302-1308.pubmed

コホート
国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加し,自己記入式質問票に回答した40~79歳の女性64190人のうち,脳卒中既往・冠動脈疾患・癌・出産および「生きがい」に関する情報が不足している人を除いた39870人を,2009年まで19.4年間(中央値)追跡。

「生きがい」については,「あなたは生きがいがありますか?」という設問により調査し,回答は以下の4つとした。

 明確にある,ある,あまりない,ない

このうち,明確にある・あると回答した人は「生きがいあり」,あまりない・ないと回答した人は「生きがいなし」と定義した。
結 果
追跡期間中に死亡した女性は6389人で,心血管疾患(CVD)死亡者は以下のとおり。
 心血管疾患死亡: 2121人
  脳卒中死亡: 940人
  冠動脈疾患(CHD)死亡: 392人

◇ 対象背景
出産回数は,0回(3.7%),1回(7.7%),2回(38.9%),3回(31.3%),4回(10.9%),5回(4.4%),6回以上(3.1%)であった。
出産回数が多いほど高い傾向がみとめられたのは,年齢・BMI・睡眠時間で,低い傾向がみとめられたのは,ホルモン製剤の使用率・喫煙率・教育年数であった。

「生きがいなし」は56.8%,「生きがいあり」は43.2%であった。「生きがいあり」に比して,「生きがいなし」で有意に高かったのは,年齢・睡眠時間・高血圧・糖尿病既往の割合・自覚的ストレスの強度で,有意に低かったのは,BMI・既婚率・閉経年齢・ホルモン製剤の使用率・運動やウォーキングの習慣をもつ割合・飲酒量・教育年数・常勤での雇用率であった。

◇ 生きがいの有無と心血管疾患死亡リスク
・脳卒中死亡
「生きがいあり」のうち,出産回数のカテゴリー(0,1,2,3,4,5,6回以上)ごとにみた,脳卒中死亡の多変量調整*ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,出産回数が1回の人と,ほかのカテゴリーとのあいだに有意な差はみとめられなかった。「生きがいなし」では,出産回数が1回の人に比して,0回の人・6回以上の人では,脳卒中死亡リスクが有意に高かった。
*年齢,BMI,ホルモン製剤の使用,習慣的な運動やウォーキング,喫煙,飲酒量,睡眠時間,高血圧・糖尿病既往,自覚的ストレス,教育年数,常勤での雇用で調整)

 「生きがいあり」
 1.09(0.57-2.08),1,0.89(0.56-1.44),0.95(0.60-1.50),1.10(0.68-1.76),1.01(0.58-1.75),1.08(0.63-1.84)

 「生きがいなし」
 1.87(1.15-3.05),1,1.23(0.81-1.86),1.25(0.83-1.87),1.33(0.88-2.02),1.47(0.95-2.30),1.56(1.00-2.45)

・CHD死亡
「生きがいあり」と「生きがいなし」において,出産回数のカテゴリーごとにみた,CHD死亡の多変量調整*ハザード比はそれぞれ以下のとおりで,いずれも,出産回数が1回の人と,ほかのカテゴリーとのあいだに有意な差はみとめられなかった。

 「生きがいあり」
 1.31(0.56-3.07),1,0.71(0.36-1.39),0.82(0.43-1.56),0.83(0.42-1.66),0.63(0.27-1.49),0.84(0.38-1.87)

 「生きがいなし」
 0.96(0.45-2.03),1,0.72(0.40-1.31),1.02(0.59-1.76),0.84(0.47-1.50),1.01(0.55-1.86),1.08(0.59-1.99)

・CVD死亡
「生きがいあり」のうち,出産回数のカテゴリーごとにみた,CVD死亡の多変量調整*ハザード比は以下のとおりで,出産回数が1回の人と,ほかのカテゴリーとのあいだに有意な差はみとめられなかった。「生きがいなし」では,出産回数が1回の人と比して,0回の人では,CVD死亡リスクが有意に高かった。

 「生きがいあり」
 0.98(0.65-1.47),1,0.83(0.62-1.11),0.85(0.64-1.13),0.89(0.66-1.21),0.92(0.66-1.30),0.81(0.57-1.14)

 「生きがいなし」
 1.46(1.07-2.01),1,1.11(0.85-1.44),1.07(0.83-1.38),1.08(0.83-1.41),1.15(0.86-1.52),1.27(0.96-1.69)

■ 結論
日本でのいくつかの研究では,「生きがい」をもつことは,心血管疾患(CVD)とその死亡リスクの低下と関連があるとの報告がある。女性は,仕事・子育て・社会的な活動を生きがいと見なすことが多いが,出産経験のない女性は,大きな社会的ネットワークをもたない場合が多く,一方で,子供が多い女性は,出産や子育てによる精神的・身体的な問題を抱えている場合が多いと考えられる。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,出産回数とCVD死亡リスクとの関連を,生きがいの有無別に検討した。その結果,生きがいを感じていないグループで,出産回数が0回の女性では,出産回数が1回の女性に比して,脳卒中死亡リスクならびにCVD死亡リスクが有意に高かった。また,生きがいを感じていないグループで,出産回数が6回以上の女性では,出産回数が1回の女性に比して,脳卒中死亡リスクが有意に高かった。以上の結果から,人生に生きがいを感じることは,出産未経験の女性ならびに出産回数が6回以上の女性のCVD死亡リスクを低下させる可能性が示唆された。


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