[2018年文献] 鮮魚をよく食べる人や,ω-3多価不飽和脂肪酸の摂取量が多い人では,肺塞栓症による死亡リスクが低い
日本人は,平均してアメリカ人の3~4倍の量の魚を摂取しており,これが日本人の肺塞栓症(PE)死亡率の低さに貢献していると考えられる。しかし,アジア人を対象に,魚の摂取量とPEによる死亡リスクとの関連を調べた研究はほとんどない。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,調理方法別の魚の摂取頻度,およびω-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)の摂取量とPE死亡リスクとの関連を検討した。その結果,鮮魚の摂取頻度と,PE死亡のリスクとのあいだには,有意な負の関連がみられ,週に1~2回の頻度であっても,鮮魚を摂取する人はPE死亡リスクが低かった。また,ω-3 PUFAの摂取量と,PE死亡リスクとのあいだにも,有意な負の関連がみられた。鮮魚の定期的な摂取,ならびにω-3 PUFAの積極的な摂取は,PEによる死亡リスクの低下に関連している可能性が示唆された。
Ohira T, et al.; JACC Study Group. Fish Intake and Death From Pulmonary Embolisms Among Japanese Men and Women - The Japan Collaborative Cohort (JACC) Study. Circ J. 2018; 82: 2063-2070.
- コホート
- 国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加した40~79歳の110585人(男性46395人,女性64190人)のうち,肺塞栓症(pulmonary embolism: PE)・心疾患(虚血性心疾患・不整脈・心不全・原因不明の心疾患)・脳卒中・癌の既往がある人,および鮮魚の摂取量に関するデータに不備がある人,食事に関するデータに不備がある人を除いた58086人(男性22919人,女性35167人)を,2003年まで19.2年間(中央値)追跡。
魚の摂取頻度については,食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire: FFQ)により,4つの項目(鮮魚,かまぼこ類,干物類,揚げた魚・天ぷら類)に分けてたずね,それぞれについて対象者を以下の5つのカテゴリーに分類した。
ほとんど食べない,1~2回/月,1~2回/週,3~4回/週,ほぼ毎日
(鮮魚については,それぞれ893人,3958人,19139人,18467人,15629人)
ω-3多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid: PUFA)の摂取量については,日本食品標準成分表四訂をもとに,含有する食品の摂取量から算出し(1ポーションあたりのω-3 PUFA含有量: 鮮魚1.009 g,かまぼこ0.042 g,干物または塩漬けした魚0.544 g,揚げた魚・天ぷら類0.929 g,炒め野菜0.357 g,煮豆0.23 g,味噌汁0.184 g),合計摂取量の<10・10~19・20~39・40~59・60~79・≧80パーセンタイル値により6つのカテゴリーに分類した。1日あたりの摂取量中央値はそれぞれ以下のとおり。
0.8 g,1.1 g,1.3 g,1.6 g,1.9 g,2.4 g - 結 果
- 追跡期間中に肺塞栓症(PE)で死亡した人は61人であった。PEで死亡した人では,そうではない人に比して,年齢・高血圧既往の割合・鮮魚をほとんど食べない人の割合が有意に高かった。
◇ 魚の摂取頻度とPE死亡リスク
・鮮魚
鮮魚の摂取頻度のカテゴリーごとにみた,PE死亡の性・年齢調整後のハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,鮮魚の摂取頻度とPE死亡リスクとのあいだには,有意な負の関連がみとめられた。
[食べない]1,[1~2回/月]0.36(0.08-1.60),[1~2回/週]0.18(0.05-0.65),[3~4回/週]0.20(0.05-0.70),[ほぼ毎日]0.19(0.05-0.71)
多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,鮮魚の摂取頻度とPE死亡リスクとのあいだには,独立した有意な負の関連がみとめられた。
(†年齢,性別,BMI,高血圧既往,魚の摂取量,フルーツの摂取量で調整)
1,0.36(0.08-1.61),0.18(0.05-0.65),0.19(0.05-0.67),0.17(0.05-0.64)
・干物または塩漬け,かまぼこ,揚げ魚
年齢と性別による調整後のハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,以下の摂取頻度とPE死亡リスクとのあいだには,有意な関連はみとめられなかった。
干物または塩漬け: 1,0.70(0.26-1.95),0.56(0.21-1.48),0.31(0.09-1.11),0.70(0.21-2.41)
かまぼこ: 1,1.11(0.49-2.51),1.01(0.42-2.44),1.20(0.38-3.83),3.20(0.87-11.8)
揚げ魚: 1,1.18(0.26-5.31),0.81(0.19-3.52),0.98(0.21-4.70),0.96(0.13-7.14)
◇ ω-3 多価不飽和脂肪酸(PUFA)摂取量とPE死亡リスク
ω-3 PUFAの摂取量のカテゴリーごとにみた,PE死亡の性・年齢調整後のハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで(それぞれ<10・10~19・20~39・40~59・60~79・≧80パーセンタイルの値),ω-3 PUFAの摂取量とPE死亡リスクとのあいだには,有意な負の関連がみとめられた。
1,0.24(0.05-1.12),0.33(0.11-0.94),0.40(0.15-1.07),0.38(0.14-1.02),0.31(0.11-0.86)
多変量調整ハザード比‡(95%信頼区間)は以下のとおりで,ω-3 PUFAの摂取量とPE死亡リスクとのあいだには,独立した有意な負の関連がみとめられた。
(‡年齢,性別,BMI,高血圧既往,フルーツの摂取量)
1,0.23(0.05-1.08),0.30(0.10-0.88),0.36(0.13-0.98),0.33(0.12-0.89),0.26(0.09-0.74)
■ 結論
日本人は,平均してアメリカ人の3~4倍の量の魚を摂取しており,これが日本人の肺塞栓症(PE)死亡率の低さに貢献していると考えられる。しかし,アジア人を対象に,魚の摂取量とPEによる死亡リスクとの関連を調べた研究はほとんどない。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,調理方法別の魚の摂取頻度,およびω-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)の摂取量とPE死亡リスクとの関連を検討した。その結果,鮮魚の摂取頻度と,PE死亡のリスクとのあいだには,有意な負の関連がみられ,週に1~2回の頻度であっても,鮮魚を摂取する人はPE死亡リスクが低かった。また,ω-3 PUFAの摂取量と,PE死亡リスクとのあいだにも,有意な負の関連がみられた。鮮魚の定期的な摂取,ならびにω-3 PUFAの積極的な摂取は,PEによる死亡リスクの低下に関連している可能性が示唆された。