[2019年文献] 降圧薬を服用している人では,血圧値と心血管疾患死亡リスクとのあいだにU字型の関連がみられる

降圧治療は,心血管疾患(CVD)発症リスクを減らすことが知られている。一方,いくつかの前向きコホート研究では,降圧治療により血圧が低値に下がった人では,中程度に下がった人に比して,冠動脈疾患や脳卒中のリスクが高まるという報告がある。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,降圧薬の服用の有無別でみた,血圧値とCVD死亡リスクとの関連を検討した。その結果,降圧薬服用者のみを対象とした解析では,正常高値血圧者(対照)に比べ,高血圧者のみならず正常血圧者や至適血圧者でもCVD死亡リスクが有意に高かった。降圧薬を服用して,至適血圧,正常血圧となっている人でも,血圧値のコントロールに加えて合併症リスクを注視することが重要であることが示唆された。

Yamagishi K, et al.; JACC Study Group. Blood pressure levels and risk of cardiovascular disease mortality among Japanese men and women: the Japan Collaborative Cohort Study for Evaluation of Cancer Risk (JACC Study). J Hypertens. 2019; 37: 1366-1371.pubmed

コホート
国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加し,自己記入式質問票に回答した40~79歳の110585人のうち,ベースライン時の血圧のデータに不備がなく,かつ脳卒中・冠動脈疾患(CHD)・癌・腎臓病の既往のない27728人(男性10091人,女性17637人)を,18.5年間(中央値)追跡した。

ベースライン時の血圧値については,健診時の測定値を用い,欧州心臓病学会/欧州高血圧学会のガイドライン(2018年版)に基づいて対象者を以下の6つのカテゴリーに分類した。

[G1]至適血圧: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHgかつ/または拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
[G2]正常血圧: 120~129 mmHgかつ/または80~84 mmHg
[G3]正常高値血圧: 130~139 mmHgかつ/または85~89 mmHg
[G4]高血圧(グレード1): 140~159 mmHgかつ/または90~99 mmHg
[G5]高血圧(グレード2): 160~179 mmHgかつ/または100~109 mmHg
[G6]高血圧(グレード3): ≧180 mmHgかつ/または≧110 mmHg
結 果
追跡期間中に死亡した人は5239人。その内訳は心血管疾患(CVD)死亡が1477人,脳卒中死亡が682人,CHD死亡が304人であった。

◇ 対象背景
血圧値のカテゴリーごとの対象背景は以下のとおり。

・全体
 人数(人): [G1]5717,[G2]5771,[G3]5740,[G4]7349,[G5・6]3151
 年齢(歳): 53,55,57,59,61
 男性: 28%,35%,38%,40%,43%
 SBP(mmHg): 109,122,132,144,167
 DBP(mmHg): 67,74,79,86,95
 降圧薬服用: 3%,6%,9%,18%,31%
 喫煙率: 24%,22%,22%,22%,22%
 飲酒率: 37%,40%,40%,42%,43%
 BMI(kg/m2): 21.9,22.8,23.2,23.8,24.3

・降圧薬服用なし
 人数(人): 5316,5178,4968,5649,2042
 SBP(mmHg): 109,122,132,144,166
 DBP(mmHg): 67,75,79,86,95

・降圧薬服用あり
 人数(人): 85,265,484,1345,985
 SBP(mmHg): 111,123,133,146,169
 DBP(mmHg): 68,75,78,85,95

◇ 血圧値とCVD死亡リスクとの関連
血圧値のカテゴリーごとのCVD死亡リスクの多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。G3に比して,G4とG5では,CVD死亡リスクが有意に高かった(地域,年齢,性別,BMI,総コレステロール値,糖尿病既往,喫煙歴,飲酒で調整)。

 [G1]0.85(0.69-1.04),[G2]0.96(0.81-1.15),[G3]1.00(対照),[G4]1.26(1.09-1.46),[G5・6]1.55(1.31-1.84)

◇ 降圧薬使用の有無別でみた血圧値と心血管疾患死亡リスクとの関連
降圧薬使用の有無別でみた,血圧値のカテゴリーごとのCVD死亡リスクの多変量調整ハザード比は以下のとおり。降圧薬を使用している人では,G3に比して,G1とG2でもCVD死亡リスクが有意に高く,U字型の関連がみられた。

・降圧薬の使用なし
 [G1]0.77(0.61-0.97),[G2]0.88(0.71-1.08),[G3]1.00,[G4]1.19(1.00-1.42),[G5・6]1.61(1.32-1.97)

・降圧薬の使用あり
 [G1]2.31(1.25-4.27),[G2]1.68(1.05-2.69),[G3]1.00,[G4]1.56(1.10-2.22),[G5・6]1.63(1.13-2.36)

◇ 結論
降圧治療は,心血管疾患(CVD)発症リスクを減らすことが知られている。一方,いくつかの前向きコホート研究では,降圧治療により血圧が低値に下がった人では,中程度に下がった人に比して,冠動脈疾患や脳卒中のリスクが高まるという報告がある。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,降圧薬の服用の有無別でみた,血圧値とCVD死亡リスクとの関連を検討した。その結果,降圧薬服用者のみを対象とした解析では,正常高値血圧者(対照)に比べ,高血圧者のみならず正常血圧者や至適血圧者でもCVD死亡リスクが有意に高かった。降圧薬を服用して,至適血圧,正常血圧となっている人でも,血圧値のコントロールに加えて合併症リスクを注視することが重要であることが示唆された。


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